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10 新しい朝

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「はい、瑞穂ちゃん。ご飯はお代わりもたくさんあるよー」

 シロが手渡してくれた茶碗を無言で受け取りながら、私は複雑な気持ちを拭えない。
 丸い卓袱台には、三人分の焼鮭と味噌汁と卵焼きと漬物。
 どれもほっぺたが落ちそうに美味しくて、隣でガツガツ食べているシロに負けない勢いで食べられる自信もあるが、私はあえて黙々と食べ続けた。

 私が何も話さないことをクロは特に気にしていないらしく、同じように黙して食事をしている。
しかしシロは、とても気になるらしい。
 ちらちらと様子をうかがい、何度か虚しく声をかけたあと、ついに私に向き直る。

「瑞穂ちゃん、ほんとゴメンって……そんなに怒ると思わなかったんだよー」

 殊勝に顔の前で手を合わせているが、あいかわらず言葉が軽すぎて、あまり謝られている気はしない。

「昨夜、帰る途中で疲れきって寝ちゃったから、とりあえずこの部屋で寝かせたってだけで、本当は一人で使ってくれていい部屋もあるし、なんなら鍵もかかるしー」

 鍵などはたして彼らに意味があるのだろうかと考えながら、私はひとまず口くらいは開いてあげることにした。
 食べ終わった茶碗と箸を置いて、シロのほうを向く。

「居間で寝ていた理由はわかった……でも、着替えは? どうやって私、パジャマに着替えたの?」
「それは……」

 いかにも言い難そうに言葉を切ったシロに、助けを求めるように目を向けられ、クロも手にしていた箸を置く。

「そんなの簡単なことだ。こうやって……」

 面倒そうに言いながら、私を見つめるクロの目が妖しく光り始めたところで、シロが慌てて割って入った。

「ストップ! ストーーーーップ!! 今やんなくていいから!」

 クロの瞳に吸い寄せられたように、意識が飛んでいた私は、シロの叫びではっと我に返った。

(なんだったの? 今の?)

 考えるのも恐ろしい。

 シロは困ったように、私に向かってまた手を合わせる。

「とにかく、俺たちが服装を変えるのと同じような方法だよ。誓って瑞穂ちゃんには指一本触れてません! 御橋神社に祀られている神さまに誓って!」

 ぱんぱんと柏手を打ってみせるシロを、私はそろそろ許してやることにした。

「わかった……もういい」

 もとはと言えば、昨晩帰る途中で寝落ちてしまった私が悪いのだ。
 眠る私を背中に乗せて帰ったシロは、落ちないように気を配るだけでも大変だったろうに、クロが勝手に始めた競争にも負けて、今日の掃除係になっている。

 本当は感謝こそすれ、非難することではないのかもしれないが、知らない間にパジャマに着替えさせられていたことと、実は直前までシロも隣で寝ていたとクロに聞かされて、すっかり頭に血が上ってしまった。

「もう気にしないことにする」

 見た目が若い男の子ということをいったん忘れて、大きな白狐が添い寝していたと思えばいい。
 むしろその背中に、昨晩はあんなに自分からしがみついていたのだから――。
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