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7 白狐の奸計

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 見えない何かに逆らって、無理に口を動かそうとしてもピクリとも動かない。

(ダメだ……)

 抵抗を諦めた私は、一瞬のシロの視線よりも更に鋭い、刺すような眼差しが道路向こうから真っ直ぐに向けられていることに気がついた。
 シロと私の仲を誤解して、楽しそうに冷やかしている男の人たちよりも、残念そうに声を上げている派手目の女の人たちよりも、彼らの陰に隠れるようにしてこちらを見ている大人しそうな女の子の視線のほうが、怨念めいて恐ろしい。

(ひいっ)

 目線で訴えかける私にすぐに気がついて、その子をちらっと見たシロは、「ああ」と笑って、わざと私の髪を耳にかけてやる仕草をする。

「ひゅーっ」
「見せつけんなよー」

 男の子たちのからかいの声と共に、更に鋭くなった一つの視線が私にぐさぐさと突き刺さった。

(わざとやってる! 絶対にわざとやってるでしょ!)

 シロの意図に気がついて、怒りでぶるぶると震える私の肩を抱きながら、シロはようやくその場所から歩きだす。

「明日また学校でねー」
「おおー、あんまり遅くまで遊びすぎて遅刻すんなよー」
「あはは、お互いさまー」

 楽しそうに笑いあいながら反対の方向へ進んでいった彼らが完全に見えなくなると、シロはずっと抱いていた私の肩をおもむろ離した。

「ありがとうー、瑞穂ちゃん」
「…………」

 言いたいことはたくさんあるが、まずは一つずつ確かめていこうと私は口を開く。
 私の口はもう動かないなどということはなく、普通に話すことができた。

「あの人たちは、誰?」
「んー? 大学の友だち」
「え? シロくんって大学生なの!?」
「そうだよー」
「そ、そうなんだ……」

 当然とばかりに答えられて、つい毒気を抜かれてしまう。
 簡単に白い狐に変化する彼が、まさか普通に学生をしているとは思っていなかった。

「ちなみにクロも、昼間は会社員だよ。俺たちはあちらの世界の者じゃなくて、こちらの世界の者だからね」
「あちらとこちら……」

 なんとなく理解はしているつもりだが、どうにもお伽話の中にでも迷いこんだかのような気持ちが強い。
 だから現実の出来事としての実感は薄い。
 こうして普段暮らしている街の中を歩いていても、まだどこか夢を見ているかのようだ。
 しかし――。

「じゃー最後の一件。配達して帰ろうっか」

 わずかに目を離した隙に、シロはもう獣型になっており、金色の目を細めて私をふり返る。
 ピンと尖った耳の先で煌めく赤いピアスを見ながら、私は自分の頬を思いっきりつねった。

「痛い!」
「何やってんのー? あはは」

 いっそ全てが夢ならば納得もいくのに、シロの声で笑う大きな白い狐は、やっぱり私の目の前から消えてはくれなかった。
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