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第122話 かっこ悪い
しおりを挟む(よし!俺の攻撃は効いてる)
加速の能力を持つ聖騎士、ニドヅは攻撃に確かな手ごたえを感じていた。
(だが恐ろしいのは連中は時折俺を捕まえようとする所だ)
自分を今まで捕らえられた者はいない、その加速は今回の戦いに向けて更なる強化が施されている。
(大丈夫だ、この加速ならアイツらは俺に追いつけない)
「うーん、追いかけたら捕まえられると思ったのですが。中々上手く行きませんね」
「流石スピード自慢なだけあるな。分身の方も遜色ないスピードだ便利なもんだ」
ベロニカとプロエは多少の怪我を負っているが依然として余裕だ。
「なんかさっき大きな衝撃もあったし、そろそろ移動しないとか?」
「そうですね」
二人が話している間もニドヅの攻撃は続いていた。
(余裕そうに話しやがって!グランドオークは後回しだ、まずは素手の男から!)
ニドヅはプロエに狙いを定めて突撃する。
プロエに急接近したニドヅ、そんな彼の顔面に拳が迫っていた。
「え?」
「よっと」
勢いよくニドヅは弾き飛ばされる、何度も地面に体をぶつけながら遠くの岩に激突した。
「がぁッ?!」
「おー、スピードがある分飛ぶな」
「こちらはキレイに真っ二つですね」
ベロニカの足元には両断された分身が転がっていた。
「な、なんで……?」
倒れたニドヅの前にプロエが立つ。
「確かにあんたの動きは速いが。単調過ぎるんだ」
「あなたの行動を予測し、通る場所に攻撃を置けば、あとは勝手にあなた方から攻撃に当たってくれる。実に単純な話です」
二人の話を聞いてニドヅは立ち上がった。
「ふ、ふざけるな……!ただの勘じゃないか!まぐれ当たり!」
彼はすぐに高速移動を再開する。
(くそ!俺たち聖騎士はエリクサーを使えない!これ以上のスピードは出せない!いや……大丈夫だ!今のまぐれ当たりなんて気にするな!そう何度も当たるようなものではない!)
自分をなんとか奮い立たせる、しかし彼は既に冷静さを欠いていた。
(しまった!分身を作成するのを忘れていた!)
ミスに気付いた時にはすでに遅く、彼の腹部に拳がめり込む。
「ぐっ!?」
「空中ではお前さんのスピードはどう生きるのかな?」
プロエは打ち上げたニドヅに向かってそう言った。
「く、空中では、空気を蹴って、そうだ!空気を!」
自慢のスピードを持ってすれば空中を蹴って移動する事は可能だ。
「遅いですよ、そういうのは考えずに行えるようにしておくべきです」
「え?」
ニドヅの胸から刃が突き出る。
「単調な動きに、イレギュラーが起きた時のアドリブ力も足らない、スピード以外は赤点ですね」
「ガハァッ!ああ!」
ニドヅはもがくがもう遅い。
「厳しいな」
プロエが頭を振る。
「ミ……ミディカ様ァァァァッ!」
ベロニカは剣を振り上げる。
ニドヅは炎と共に消え去った。
一方その頃、無敵の聖騎士はイラだっていた。
イサムが作り出したバリアに閉じ込められているせいだろうか。
「チクショウ!こんな所に俺を閉じ込めやがって!この俺を倒すだって?この俺は無敵だ!」
そう話す無敵の聖騎士に向かってイサムが襲い掛かる。
「鬱陶しい!」
無敵の聖騎士はイサムを殴り倒した。
「たかが盾を構えるしか出来ないっ、そんなくだらない能力しか与えられないお前にっ!この俺がっ!負けると思ってんのか!」
彼は倒れたイサムを何度も踏みつける。
(このガキ!ザコの癖につっかかって来やがって!だが魔力の質は良い、殆ど女神に近いぞ。こいつ相当あの裏切り者に贔屓されてんだな
「あーくそ!そんな所もムカつくんだよ!」
力いっぱい踏みつける無敵の聖騎士。
「いてて、でもやっぱりそうだ……」
「なにがだ?」
イサムは地面に手をつき体を起こそうとする。
「鎧の能力は強力な攻撃にしか反応しないみたいだね。作動もしない相手ならあなた自身の手ですぐに倒せるだろうし」
彼は起き上がる、その顔は笑っていた。
「ああそうだ!その通り!テメェみたいな下らない能力しか持ってねえやつには、俺の能力はもったいなくて作動しねぇんだよ!」
無敵の聖騎士は起き上がった彼を殴る。
「僕の能力が下らないって?たしかにね、守るだけの能力だ。ただ球体状に頑丈なバリアをはるだけ。あなたのとは比べ物にならない」
「ほらな?やっぱりくだらない能力だ」
無敵の聖騎士は鼻で笑った。
「でもそんな能力をあの人は凄いって言ってくれた。そのたった一言だけだ。僕の能力を褒めてくれたのは、でもね……心に日が差したような感じがしたんだ」
「そいつは見る目がねぇな!そんな能力、完全に俺の劣化版だろうが!」
無敵の聖騎士はイサムを蹴り飛ばす。
「以前の俺は【衝撃の吸収と放出】って能力だった。だから相手の攻撃を受けて、それを毎回放つ必要があった。こんな風にな!」
無敵の聖騎士は手から衝撃波を放ち、倒れていたイサムを再度吹き飛ばし、バリアに叩きつける。
「だが今の俺は、こんな面倒くせぇ事をしなくて良い!寝てようが攻撃を反射することができる!俺は無敵になったんだ!最高の気分だぜ!お前と違ってな!」
イサムは立ち上がる、既に鼻から血が出ていて、顔や体にあざが出来ている。
「僕は……かっこ悪い自分が嫌だった。死ぬ前からだよ、イジメられてる人を助ける勇気もない、何かに打ち込む自信もない、才能が無い事を受け入れられる度量もない。それでこの世界に来て、少しは変われるかもって思った。けど……結局どんな強い能力を貰ったところで僕は僕だ。力を貰えたからといって、いきなり英雄のような精神にはなれない。この世界でもかっこ悪いままだった」
「ああ、そうだ!惨めでかっこ悪いぜ!上級女神リペリオは上級の中で最も主神に近い一人!そいつの勇者でありながら聖騎士に選ばれねぇテメェは!この上なく、かっこ悪いッ!」
そんな彼を殴りつける無敵の聖騎士。
「でも……今は心から満足してかっこ悪い自分に納得している。当たり前なんだ、カッコイイ人はちゃんと何かに挑戦して、挑み続けて、かっこよくなるんだ。イケメンに生まれたってそれを維持するために努力しないと宝の持ち腐れ。僕はそんな当たり前の事から目を背けて、ただ結果だけをみて自分を嫌った、バカだったよ」
イサムは再び倒れる。
「あーもう!テメェがいかにかっこ悪いかは分かったっつーの!そんな下らねぇ事言ってないで、さっさとここから俺を出せ!」
「やだね」
倒れたイサムは相手の首に目をやった、そこに模様が入っていることを確認した。
「あなたが持つのはあくまで【強力な攻撃を反射する】であって、自らの攻撃能力は高くないね。それでも相手が魔神族やタケミさん達なら効果はあるだろうね。相手が攻撃してくるのを待つだけで良いんだからね」
「ああそうだ!だからさっさと連中ぶっ倒して手柄を得るんだよ!……?」
無敵の聖騎士は肩膝をついた。
「なんだ?急にふらついて」
「あれだけ大声張ってたらなるでしょ、酸欠に」
倒れたままのイサムはそう言い放った。
「何?」
「このバリア内に入るものはある程度自由が効くんだ。だから……空気が入らないようにした」
イサムの言葉を聞き表情を変える無敵の聖騎士。
「どういうつもりだ!」
「このまま行けばあなたは酸欠で倒れる」
「テメェもそうだろ!共倒れにする気か?!下らねぇこと考えやがって!」
無敵の聖騎士はイサムに飛び掛かり、マウントポジションを取った。
「さっさとこれを解除しろ!」
「能力は解除しない!絶対にだ!これが守るしかできない僕の最善の手だ」
「テメェッ!」
無敵の聖騎士は彼を跨った状態から殴りつける。
「ここから出るには……僕を殺すしかないぞッ!」
「ああ良いだろやってる!……?!」
イサムの首に手を伸ばし力を入れたその時だった、無敵の聖騎士も何故か呼吸が出来なくなったのだ。
「もう分かってるだろ、僕の魔力は女神に近い、他の勇者に比べてね。あなた達、聖騎士は女神を殺せないんだろう?」
「なにっ?」
手の力を緩める無敵の聖騎士。
「あなたの首にあるそれ、リペリオ様と同じ模様だ。呪い、一定以上の位にいる女神を殺せない呪い。聖騎士の能力は驚異的、その者達が徒党を組んで反乱でも起こされたら大変だからね」
「あなた達が信用されてない証だ。奴隷の首輪だよ」
「そんな!こいつは俺たち、選ばれた者にのみ現れる……」
酷く動揺する無敵の聖騎士、それをみてイサムは笑った。
「はははっ、まだ信じてるの?あいつらはあなたたちのことを道具としかみてないよ」
「黙れ!」
怒鳴られた所でイサムは動じず、笑った顔のままだった。
「どうする?もしかしたらギリギリあなたは生き残るかもしれない、僕は女神じゃないからね、近いだけだ。でもあなたは死ぬかもしれない」
イサムの言葉で相手の頭の中は更に混沌としていく。
(ちくしょう!どうする?もしかしたら俺がやられるかも、だがコイツのハッタリかもしれねぇ!だが俺が助かったとしても戦えるのか?手柄が取れなきゃ意味がねぇ!でももし、こいつが言ってることが本当なら……?!)
彼は初めて強烈な死の予感を覚えた。恐怖と手柄への欲が頭の中でぐちゃぐちゃにかき混ざっていた。
「さぁどうした!死ぬ気で来いよ!その腰にある剣は飾りなのか!」
イサムは相手を挑発する。
「ッ!うるせぇぇ!」
無敵の聖騎士は腰につけていた剣に手を伸ばす。
この一瞬、相手の意識が剣に向いた隙をイサムは見逃さなかった。
「あ?……なんだ?」
「揺らいだね、自分の命が惜しくて。かっこ悪い事じゃない。僕だって酷くビビってただろうね」
無敵の聖騎士の首には注射器が刺さっていた。
(な、なんだ?針?注射?なんでこいつそんなものを……?)
「針なんて、あなたの能力が発動するまでもない、取るに足らない相手でしょ?でも……」
注射器の中身は既に空になっていた、何かが無敵の聖騎士に注入された。
「……え?え?」
「あなた達は既に限界まで魔力を扱っている。その一本でも致命的なんだろ?」
注射の針を相手の首から抜き、注射器を見せるイサム。
相手はそれをよく知っている。
「ハァッ、ハァッ!そ、それはァァァ!」
「そうだ!聖騎士に選ばれなかった、かっこ悪い僕が貰ったもの……」
選ばれた聖騎士と違い、可哀想な連中がもらった薬。一時的な強化にしかならない、その場しのぎのくだらない薬。
「エリクサーだ!」
イサムがそう言い放つと、無敵の聖騎士の身体にヒビが入り、光が溢れ始める。
「あなたの能力は無敵と呼んでも過言じゃない、僕なんかじゃ張り合うことすらできないよ。でも無敵なのはその能力であって【あなたそのもの】ではない。あなたの心が負けたんだッ!」
「そ、そんな!こんな所で!ありえない!俺は英雄になるんだ!こんな奴にやられるなんて!」
無敵の聖騎士の身体に、そして鎧にもヒビが走る。
「そんなァァァッ!」
無敵の聖騎士は灰となり消し飛んだ。
「はぁ…はぁ、なんとか、やりましたよ!」
イサムは能力を解除し、拳を突き上げた。
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