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第112話 変わらぬもの

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 ダイゲンとアルタ・モリス、二人の闘いに水を差すように矢を放つグリーディ。
 矢は一直線にダイゲンを狙う。

 だがその矢が彼に届く事は無かった、途中で斬り落とされたのだ。

「な……何をしている!!!」
 彼を矢から救ったのはモリスだった、彼女はグリーディに背を向けたままその素早い一太刀で斬った。

「何の真似だ貴様!!」
 グリーディが声を荒げると、モリスは振り向きざまに一閃。

「えっ……?」
 すると遠くにいた筈のグリーディの右腕、そして翼も斬り飛ばされた。

「ッ!!!ぐっ、あああああああ!」
 自身の身に何が起きたか理解した彼女は叫び声をあげ転げまわる。

「て、テメェ!!!何を……クソオオ!」
 泣きながら地べたで暴れまわる彼女に目もくれず、モリスは振り返り、そしてまたダイゲンに向かって構えた。

「ふん、そんな姿になっても根っこの部分は変わってねえみたいだな」
 彼は刀を地面に突き立て、立ち上がる。

 切っ先を彼女に向けて構えるダイゲン。
 二人は互いに刀を向ける。


「名残惜しいが、そろそろ終わらせるかね」

 赤黒く染まった雪を踏みしめ、二人は睨み合った。

 一斉に飛び出した二人、そしてお互いの胸を刀が貫く。

 口から血を溢れさせるダイゲンとモリス。

 お互いに刀を刺した状態でダイゲンの目元を隠していた布が落ち、彼は目を開き彼女を見詰めていた。

 彼女の鎧にヒビが入り始めた、鎧はボロボロと砕け散り、最後には中のアルタ・モリスが現れた。

「久しぶりですね、ダイゲン殿」
 それはダイゲンが何度も思い返していた彼女の声だった。

「お前さん……」

「さぁ、最後にもう一仕事ですよ」
 彼らはお互いに自分の刀を相手の身体から抜く。

 二人はグリーディの方を向いた、酷く動揺した様子の彼女は後ずさりしていた。

「な、何で、正気に戻れてるんだ?」
 彼女に向かってゆっくりと歩みを進める二人。


「ここまで好き勝手やりやがって、覚悟できてんだろうな」
「グリーディ、神を名乗るなら最後くらい潔くありなさい」

 刀を持った二人がグリーディに近づく。

「ま、待て!色々と話を聞きたいんじゃないのか?!アルタ・モリスはどうして操られていたのかとか、ここ以外に襲撃に備えている拠点があるのかどうかとか!私は全てを知ってるぞ!」
 必死な様子の彼女に対してダイゲンは笑う。

「確かに、普通ならそういうのを聞き出すんだろうな。だけどすまんがそんなモン眼中にないね」

「この人の目的は復讐です、その上私たちはもう死にます、今更貴女の命乞いを受け入れる意味があるとは思えません。あなたも多くの者の命を弄びました、諦めなさい、グリーディ」
 モリスがそう言い放つ。


 グリーディは唸り声を上げる。

「く、クソオオ!死にぞこないが!」
 彼女は懐から注射器を取り出し胸に突き刺した。

 すると彼女の肉体が化物へと変貌する、複数の腕を持ち、指は6本、先ほどのアルタ・モリスよりも更に異形な姿だった。

「ドウダッ!これが私たちの新たなる力だ!」
 皮膚からは無数のトゲが生え、神というよりは完全に魑魅魍魎の類だ。

「やっぱり二流だな、こいつの方がずっと綺麗に変身出来てたぜ」
 ダイゲンがグリーディの姿をみて言う。

「ある意味では貴女らしい、悲しいくらいに強欲なグリーディ」
 モリスは刀を構える。

「ダマレッ!神の名を汚す愚か者がァああああ!」
 変わり果てたグリーディはその複数の腕から同時に魔術を放つ。

「消しトベッ!」
 魔術は周囲の雪や土を蒸発させながら彼ら目掛け進む。

 凄まじい威力である魔術であったのだろうが、彼らにはそんなもの意味は無かった。二人は刀を一振り、魔術は真っ二つに斬られ、そのまま消えてしまった。

「クソッ!!」
 グリーディはその巨体に見合わぬスピードで彼らの背後に回り込み、腕から無数の棘を生やし攻撃を放とうとする。

 だが彼女の動きが止まった、背後を取っていた筈の彼らは既にこちらを向いており、彼女の振り下ろした手に刀の切っ先を突き付けていた。

「遅すぎますね」
「修行でもしといたら良かったのにな」
 二人がそういうとグリーディの肉体に斬撃が走る。

 もうすでに彼女は斬られていたのだ。

「が……あ!!」
 グリーディの肉体から血が噴き出す。

「黒い血とは不健康だな」
 真っ黒なドロリとした血を流しながら彼女は倒れる。

「ソ……そんな……」
 絶望した顔のまま彼女の肉体は散り散りとなり消え去った。

「復讐した気分は如何ですか?何も生まれないでしょう」
「ああ、でもスカッとはしたぜ」
 ダイゲンはモリスに向かって笑った。



 ダイゲンとアルタ・モリスは焚火の前に座りこんだ。

「お前さん、こうなるの分かってたのか?」

 彼は隣に座っているモリスに話しかける、彼女は傷だらけだと言うのにそれを感じさせない程穏やかな顔でそこに座っていた。

「そういえば、この布、もしかして私の真似ですか?」
 手に彼が目元に着けていた布を持って彼女は言った。

「あー、まあそんな所だ。お前さんと同じ光景を見てみようと思ってな」

「何か見えましたか?」
「いや、なんも」
 ダイゲンとモリスは笑った。

「その刀も使ってくれているんですね、多少短くなっているようですが」
「流石にあの大太刀はオイラには扱えないからな。それに杖ぐらいの大きさだと持ち歩きやすくて丁度良いんだよ」
 彼はそう言って大事そうに何かを取り出す。

 それは大切に包まれた刀の破片だった。

「悪かったな、勝手にお前さんの刀を……」
 ダイゲンの言葉を聞いてアルタ・モリスは笑う。

「盗賊さんらしいじゃないですか。それにこれはただの武具、これが貴方の命をここまで運んでくれたと言うのなら、この刀も本望でしょう」
 彼女は優しく彼の手を取った。


「すまねぇ……お前さんみたいな良い人はオイラなんかと一緒に死ぬべきじゃないって言うのに……」
 手を持たれたダイゲンは涙をこぼす。

「なんて事言うんですか、私はいい人なんかじゃありません。人々を助ける為と言いながら私は何も出来なかった……あそこにいたのも過去から逃げ出したいと思ったから。死神と名乗る彼女を支えて上げれば良かった、グロリアを説得できていれば良かった、そんな事を毎日考え、後悔に押しつぶされる恐怖から逃げるように稽古していました」

 彼女は泣いているダイゲンの頬に手を当てる。

「人々に尽くした他の世界の神たちのように私もなりたいと思っていました。でも結局私も一人の人のようですね」

「そんな事ねぇ!お前さんは立派に……」
 ダイゲンが否定すると彼女もまた首を横に振った。

「良いんです、だって私は貴方にあえて、共に過ごせて、それだけで満たされたのですから。神ならそうは行かなかったでしょう、人の身で良かった」

「……」
 ダイゲンはただ黙って彼女を見つめている。

「そうだ、一杯どうです?」
 酒を取り出すモリス。

「どっから出したんだい?全くこんな時にも酒かよ」
 呆れながらも笑うダイゲン。
「ええ、なんせ私はこれに……」

「目がない、だろ?変わらねぇなあんたは」


 二人はお互いに酒を注ぎ、そして互いの器を優しく当て、酒を飲む。

「良い人生でした」
「ああ、悪くねぇ道だったよ」

 飲み終えた器を焚火の前に置く。
 二人はそのままお互いに体を預けるようにし永遠の眠りについた。



「なるほど、彼らが貴女の主でしたか」
 現れたのはウェルズだった。

 彼の横には真っ黒で首のないアルバという馬が、寂しげな声を上げている。

「さあ」
 彼はそう言ってアルバをダイゲンたちの元に行かせる、アルバは振り返る、名残惜しそうな声をどこからか響かせた。

「ほら、ちゃんとご主人様たちが次の旅路でも困らないように、行ってあげなさい」
 彼が優しくそう伝えると、アルバはダイゲンとアルタ・モリスの側に行き、地面に伏せる。

 その黒馬は美しい炎と共に消えていった。

「長く険しい道を歩いて来た二人には安らかな眠りが必要でしょう。アルバ、しっかりとお守りするのですよ。おやすみなさい」

 ウェルズは帽子を深くかぶり、赤、白、黒に染まった中を歩いて進む。

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