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第104話 カシンとキョジ
しおりを挟むカシンは生まれながらに虚弱体質だった。
なぜなのか、里のものは知っていた。カシンは生まれながら魂が欠けていたのだ。
「頭領の子であるというのに、不運だな」
「いくらコゴロウ様のご子息とは言え、あれはもうダメだろう」
皆は口々にそういった。
そしてもう一人、彼らの話題によくされるものがいた。
「またキョジが一人でやってしまったみたいだ」
「流石はコゴロウ様の子だ」
「能力はな、だが彼女の戦い方は味方を巻き込み兼ねない。危険でもある」
それがカシンの姉、キョジだ。
彼女は歴代の忍の中でずば抜けた才能を持っていると言われ。皆は彼女の才能を称えそして恐れた。
ある日頭領のフウマ・コゴロウが、つまりカシンの父が彼の元に訪れる。
「カシン、どうだ今日の具合は」
カシンは咳込みながら上体を起こした。
「かなり良いよ、起き上がれるし」
「そうか……あの……キョジがな」
父が話を切り出すとカシンが口を開く。
「倒れたんでしょ?病気?」
カシンの言葉に驚く父。
「分かるのか?」
「なんとなくね……」
父は頷き懐から巻物を取り出す。
「カシン……この書をお前に渡す。お前にしか読めないものだが、それでもこの事は内密にな。姉さんにだけは話してもいい、だが彼女以外は他言無用だ」
「これは?」
「わが一族に伝わる、秘術だ……その名は」
「秘術、七宝天の陣」
カシンの背後に魔法陣が形成された。
「なんだ!地面が!」
「木々の葉が魚に?!幻術か!」
周囲の地面は波をうち、木々の葉は魚へと変わる。
カシンの身体からキョジが現れた。
「行くよ姉さん」
「うん」
二人は幻術に戸惑う敵に攻撃をしかける。
「炎が勝手に!解!」
足元から炎が噴き出し、敵を飲み込む。
「なんでだ、幻術の解除ができない!うわああッ!」
「な、なんだ?!水が足元から!がぼぼッ……!」
「ちくしょう!骸骨が、離れろこいつら!」
どこからともなく現れた水に溺れるもの、骸骨の山に押しつぶされるもの、皆は解除できぬこの幻術になすすべなく倒れていく。
「ゲゾウ!」
「キョジまで出てくるとはな……」
ゲゾウに斬りかかるカシンとキョジ。
「それにこの幻術、やるじゃないか」
彼は二人の斬撃を刀で受け止める。
「解除されたか」
「当然だ、あまりワシを軽んじるなよ」
ゲゾウの指先から糸が出ており、その意図は彼の頭部へと繋がっていた。
(魔力の糸を利用して脳を直接操作する。一瞬のミスで死に直結する技術だが、今のこやつは拷問による怪我と秘術を行使した事による反動がある。ここが正念場だな)
「なぜそこまでする。あの男にそこまでの価値があるのか?」
「価値なんて知らない、でも女神達の味方をするよりはずっとましな道だ。女神達はこの世界をかき乱すだけ、連中は自分達の利益しか考えていない!なぜそんな連中について行く!」
カシンがそう返すとゲゾウは嫌味な笑みを浮かべる。
「簡単な話しだ、女神は仕事をくれるそれも割のいい仕事をな」
「それだけの事で」
「忍はそんなものだ、依頼があれば昨日の主であれ殺す。我々は刃だ、それが我々の生き方だ」
ゲゾウの返答に首を振るカシン。
「そんなの死んでると同じだ、人である意味がない」
「何度も言わせるな、我々の刃、人ではない」
「この気配は……!」
ゲゾウとの戦闘を繰り広げる中で、カシンは遠くからくる魔力を感じ取る。
「増援がもうすぐ到着する。貴様らは逃げられんぞ」
「この大勢に対し幻術をかけた、それも極めて強度の高いものをな。さて貴様らに増援に幻術をかけられる程の力は残っているのか?」
ゲゾウの言う通り、カシンは既に相当な量の魔力を消費している。そもそも彼は動けるのもやっとのような怪我だったのだ。そんな状態のカシンから生じたキョジも万全の状態ではなく、動きが明らかに鈍り始めていた。
「く……」
「それにワシを相手している事も忘れるな!」
「炎術、紫炎滅却ッ!」
ゲゾウが刀を振るうとそこから紫の炎が放たれる。
「「土術、護身壁!」」
カシンとキョジは2重の壁を展開しなんとか身を守る。
「やはり貴様の父の選択は間違っていた、息子に禁忌の術を使って延命させるなど。あの男も貴様と同じような事をずっと言っていた。愚かな奴だ」
「なんだと!」
「そうだろうが、自身は人殺し集団の長であるのに胸の内で集団の存在そのものを否定する。ただ自分を苦しめるだけだ、これを愚か者と言わずなんという」
「考えるのを止めたお前に言われたくはない」
カシンにそう言われて鼻で笑うゲゾウ。
「好きに言っていろ。風術、野太刀風!」
「「風術、野太刀風!」」
両社が放った真空刃がぶつかる。
「二人がかりで来ようとも!」
「打ち消された?!」
「貴様らがこの世に生まれ落ちるよりも前から生き抜いて来た!舐めるなよ!」
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