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第78話 怪力VS怪力

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第6試合が終わり、ついにタケミ対フォルサイトの試合がやってきた。

『さぁ!激闘が続いた今大会もクライマックスに向かおうとしています!この闘いを制した者がチャンピオンへの挑戦権を得ることが出来るのです!』

「よーし!昼飯も食って元気いっぱいだ!」
「いけー!タケミ!」
ユイに見送られるタケミ。

「行って来いフォル!」
「ええ、楽しんで来ますね」
フォルサイトもマリスに見送られゲート前に立つ。

『怪力VS怪力!この二人は一体どんな闘いをみせてくれるのでしょうか!選手入場です!』

ゲートが開きタケミとフォルサイトが入場。
観客からは大歓声が湧き上がる。

「久しぶりな感じがしますね」
「闘ったのは、日にちじゃあついこの間の筈なんだが。色々あったからな」
嬉しそうな顔をする2人。

『これ以上の説明はいらないでしょう!いざ!』
ウェルズがゴングを手に取る。

「さぁあの頃よりどれくらい強くなられたのか、是非みせてください」
「たっぷり見せてやるぜ!赤鬼ッ!」

『第7試合!開始ィィィィッ!!』

 ゴングと同時にタケミが飛び出して拳を放った。それを受け止めるフォルサイト。

「おーこれは良い重さですね」
「どんどん行くぜ!」

『ファーストヒットを繰り出したのはカヅチ・タケミ選手だ!全身から蒸気を放ち、凄まじい勢いで拳を繰り出している!』

「素晴らしい、以前戦った時を遥かに凌駕するパワーとスピードッ!」
攻撃を受けながらもフォルサイトが殴り返す。

「ッ!ウオラァァッ!」
しかしタケミは止まることなく攻撃を放ち続ける。

『殴り飛ばされるもタケミ選手止まらない!お互いの一撃一撃が重低音を奏でる!』

「うわー。あの中に絶対はいりたくない」
「入りたい奴なんているか?」
怪力同士の殴り合いをみて青ざめるユイとネラ。

「はぁ、なんと素敵な。私も混ざりたいですわ!」
目を爛々と輝かせるマートル姫。

「いたね」
「いたな」

 そんな会話をする2人の隣でバアルだけはただ黙っていた。

「……」
「バアル様?どうかされましたか?」
アスタムが尋ねる。

「いや、なんでも無い」


 闘技場中央ではタケミとフォルサイトの殴り合いが続いていた。

「良いですね、一直線に向かってくる姿勢変わらずお美しい限り。あのグランドオークが見惚れるのも分かります」

「どうも、前は金棒を殴っただけだけど、フォルサイトって身体の方が頑丈じゃねぇか?」
タケミは先程から良いパンチを撃てているがフォルサイトにとって有効打になっている手応えはない。

「金棒は鍛えようがないですからね。鍛冶師じゃないので、私。でも身体は鍛えられますから」

「そっか」
自らの腹筋を叩いてそう言うフォルサイトに対し、タケミは納得した様子で頷く。

「いや、そっかじゃないでしょ納得しないで」
ユイがツッコむ。

「なるほど」
「確かに」
頷くマートル姫とベロニカ。

「フィジカルモンスターだらけだこの空間」


「あの棍棒は魔力を込める事でその質量や体積を変えることが出来るのが特徴ですからね。広範囲を叩き潰すのには向いてる程度ですね」

「その”向いてる程度”に私は殺されかけたんだが」
ネラが観客席からフォルサイトに向かって言った。


「おい、一つ聞いて良いか、お前ひょっとして魔力解放しないつもりか?」

「どうしてそう思ったのですか?」
「感」
タケミがそう答えるとフォルサイトは小さく笑う。

「ふふふ、なるほど。確かに、今の私は魔力解放をするつもりはありません」
「何?また手加減かよ」
少しむくれるタケミ。

「私はクレイピオスさんみたいに部分的な魔力解放ができなくて、一度解放すると周囲にかなり影響を出してしまうのです。それに……」
鋭い視線をタケミに向けるフォルサイト。

「今のあなたと殴り合いをしても、魔力解放する必要がありませんから」

「ッ!言ってくれるね」
タケミがそう言うとフォルサイトは頭を下げた。

「気分を害されたのなら申し訳ございません。ですが今のあなたは致命的な弱点がある。それを克服しない限り私には勝てません。そうだ、すこし力比べしてみませんか。押し合いっこです」

「へぇ~面白そうだな」
フォルサイトの提案にのるタケミ。

『おっと、どういう事でしょうか?二人は殴り合いを止め中央で手を繋ぎました』

「これで額をつけて」
「こうか」
2人は両手を繋ぎ、額をくっつけた。

「これで勢いは使えない、使えるのはお互いの肉体が出せる力のみです」
「なるほど」
タケミは笑って構える。

「「せーのっ!」」
合図と共に地面に大きな亀裂が走り、地響きが鳴り始めた。

『突然はじまった力比べ!ですがこれこそ!この二人に相応しい戦い方ではないでしょうか!聞こえますでしょうかこの地響き!二人が地面を押すその力がこの大地を震わせているのです!』

「このぉッ!」
タケミは赤鬼の出力を引き上げて押していく。

「良いよ!押してるよタケミ!」
「何してんだフォル!」
ユイとマリスが声援を送る。

「……」
この時マートル姫はなぜか声援を送らずに黙っていた。

「良いパワーですね。そうだ、先の魔力解放の件ですが。この状況なら使っても問題ないでしょう、魔力解放」

『押していたタケミ選手が徐々に押され返されていく!』


「タケミ殿、先ほどの弱点の話ですが」
「ああ?それがどうした!」
話している間もタケミは必死に押し返そうとする。

「この状況が正にその弱点です。分かりますか?」
「押し返せないってことかッ!このッ!」
タケミはどんどん押されていく。

「そうですね。もう少し具体的に言うと自分の全力をぶつけて耐えた相手に対して打てる手が極端に少ないという事です」
「……ッ!」

「どうやら気付いてはいるようですね」
フォルサイトは押しながら話を続ける。

「あなたの最初から全力をぶつけるという姿勢は好きですよ。実際に戦いをすぐに終わらせる事が出来るので良い事です。ですがもし相手があなたの全力を受けきれてしまったら、もうその先が殆どない訳です」

「……ッ!」

「力がないわけではない。力だけみれば私に匹敵するものがあなたにはあります」

「だったら!黒……」
タケミは更に赤鬼の出力を上げる。

「それはダメです」
「なに?」
フォルサイトが彼のしようとする事を止めさせた。

「その力を使って、もし私に勝てた後はどうしますか?まだ闘えるだけの余力は残せるのですか?」
「っ!それは……」
「出来ないですよね。それなのにここで使ってどうするのですか?チャンピオンとの闘いは?」

 フォルサイトの問いに即答することが出来ないタケミ。そんな事考えたこともなかった、彼は今まで目の前の相手をとにかく倒せればそれで良かった。それしか見てなかった。

「あなたの最大の弱点、その本質を理解してください。それとも私がここで教えましょうか?」
タケミは額が離れないように小さく首を振った。

「いや、おれが考えて見つけるよ。でないと意味ない、だろ?」
「流石です」
タケミの返答を聞きフォルサイトはニコッと笑った。すると彼女は地面を蹴って斜め前方に飛び上がる。

「え?」
タケミは思わずこけてしまう。

 両者手を掴んだままだったのでフォルサイトは転んだタケミに引っ張られ地面に叩きつけられる。外からみたらまるでタケミがフォルサイトを投げたように見えただろう。

「お、おい!何してんだよ!」
タケミが起き上がる。フォルサイトは倒れたままだ。

「うーんダメですねぇー頭を強く打ってしまいました。これは打ち所がよくないですね、これ以上の戦闘続行は不可能です。ここは棄権するしかありませんね」
倒れたままそう言うフォルサイト。

 審判がやってきてフォルサイトに話しかける、彼女は相手の話に対して首を横に振る。それを見た審判は実況席に向かって合図をする。試合終了の合図だ。

『な、なんとフォルサイト選手ここでリタイア!パワー比べ決着!勝者はカヅチ・タケミ選手だ!』

「おお!ついに決まったぞ!挑戦者だ!」
「これはチャンピオン戦が益々楽しみになって来たな!」
「……」
観客席から歓声が上がる。しかし、タケミには歓声など聞こえは無しなかった。フォルサイトの言っていた事が頭を駆け巡っているからだ。


「おい、どういうつもりだよフォル!」
舞台から降りるフォルサイトをマリスが待ち構えていた。

「うーん私も本当はもう少しタケミ殿と戦いたかったんですよ?でも……」
「でもなんだよ」

「この先彼がチャンピオンと闘い成長してくれる未来の方が私好みだったので、そっちにつながる道を選んだだけです」
笑うフォルサイト。

「うーん、フォルがそう言うなら良いけどさ……」

「さ、観客席に行きましょう。そうだチャンピオン戦まで時間があるので何か買っていきますか、奢りますよ」
「屋台に飴をリンゴみたいな見た目にしたやつが売ってたからそれな」
「はい、では行きましょうか」
フォルサイトとマリスは外に出ていく。



「フォルサイトが棄権だと?分からんが、結局プロエと闘うのはあの大男か。ふん、大した魔力も無い奴だ。プロエの敵ではないだろう」
カテナ・ベラードは瓶からワインを飲みながらそう言った。

「ええ、プロエ殿なら問題ありません。それにしても中々に良い盛り上がりでしたね、カテナ・ベラート様、収益も期待できるかと」
「ぶっはっは!そうだな!」
部下と悪そうに笑うカテナ・ベラード。


「ふん、随分と呑気なもんだ」
そんな会話を部屋の外で聞いている一人の老人がいた。

 老人は階を降りていく。彼が向かった先ではフードを被った一人の男性が準備運動をしていた、天井からつるされた1m以上ある袋を殴っている。

「おいプロエ、今日はいつにも増してやる気じゃないか」
後ろから声をかける老人。

「ダマトさんどうも、あんな奴が挑戦者で来てくれるんだ。できる準備はしっかりしておかないと」
フードを外し振り返るプロエ。

 短く切り揃えられた白髪、鍛え上げられた一切の無駄のない肉体には無数の傷があり、目つきは鋭く意識が研ぎ澄まされている事が分かる。

「お前の目から見てもアイツは強そうか」
「今までで一番の挑戦者だ」
そういうプロエは戦いへの期待に満ちた顔をしていた。

「アイツは一体何発お前の拳を受けられるかな」
老人はプロエの後ろに吊るされていた袋を開ける。

 袋の中から現れたのは鋼鉄の塊だった。

「始まれば分かるさ」

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