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第66話 襲撃!隣の朝ごはん

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オオエドにも住宅が密集しており、その1軒に勇者たちが住んでいた。

家は1軒ではあるが2階はなく高い天井と広々とした空間が売りだ。
今は皆リビングに集まっていた。

「はぁ、暇だな。次の集荷まで時間あるし。適当にそこら辺の女でも誘って遊ぶか」
「いいね。この街は観光に来る奴も多いから、そいつ等の魔石も奪っちまうか」

勇者たちは部屋でくつろぎながらそんな話をしていた。

「勇者様ってのも楽勝だ、朝から酒飲めるし、女に困らないし、まじ転生最高」
「男にもねー、私達は預かったものを売りさばくだけ。めったに戦う必要もないし」

勇者たちが笑っていると、扉をノックする音が。

「お、おれだ、少し話があって」
怪しげなフードを被った闇商人が扉の外に立っている。

勇者たちの中で一番背が高い者が扉にある覗き穴で商人を確認した。

「おい、あの商人のオッサンだ、ほらエリクサー狂いの汚ねぇ恰好の」
「なんだよ、これから朝飯なのに。適当に追い返せ」

バンダナを頭に巻いた勇者にそう言われ、扉の側に立った長身の勇者は追い返そうと、扉のチェーンをつけたまま開ける。

「お前に渡す分のブツはもうないって……」

すると扉を大きな手が掴み、チェーンなんてお構いなしにドアを引き剥がす。

「よぉ」
「なんだ、ぶっ!」

ドアの向こうから突然現れた大男に顔面を殴られる長身の勇者。彼は回転しながら部屋の反対側まで吹っ飛んだ。

「ッ!!」
勇者達は一斉に扉の方に注目する。

壊れた扉を跨いでネラが部屋に入って来た。

「おはよう、みんな元気か?ああそのままでいて、そうリラックスして、ほら脚を上に乗せてくつろぎなよ。ほらそこのお嬢さんも、ハッパやるならこのソファに座りなよ、テメェらの部屋だろ?」

ソファから飛び起きようとした勇者にそう言ってネラは相手を横にさせ、ついでに側で煙草らしきものを吸っていた女性勇者も座らせる。

タケミが闇商人を部屋に押し込み、その後ろからユイも部屋に入って来る。

「お前らの友達からここを紹介してもらってな。アイツは賢いな中毒者のクセによ、ほら見ろどこも斬られてないだろ?賢い証拠だ」

部屋をぐるりと見回すネラ。

その一角に勇者達の装備が立てかけてある。

「お!それ勇者様の装備か?いつ見ても綺麗だよな、なぁユイ」
「うん、傷一つない。もしかして下ろし立てかも」
ユイはそう言って立てかけられた装備の側に立つ。

次にネラはテーブルに目を向ける。


「ああ、悪いな、ひょっとして朝飯の時間だった?邪魔しちまったな」
朝飯を食べようとしていた勇者はまだ状況が呑み込めず困惑した様子だ。

「なんだこれ?朝から肉?わんぱくだな。うちの2人もそうなんだよ、良く
食うんだ。なんて料理だ」

「それは、温泉肉の岩盤焼き。それに塩と卵を乗せてる」

熱せられた岩の上でじゅうじゅうと旨そうな音を立てる肉だ。

「へぇ、私の仲間に味見させてやってもいいか?」
「ええ、どうぞ」

緊張した様子で頷くバンダナの勇者。

「おいタケミ、さっきの連中埋めたご褒美でこれ食って良いぞ」

「ラッキー。うんうま!焼いて蒸してもっかい焼いてるのか?すっげぇジューシーだ、脂身の甘みと源泉塩の相性抜群だな。朝から食いたくなるのわかるぞ。ユイ、これ後で食いに行こうぜ、絶対気に入る」

「うん、いいよ」
あっという間に平らげるタケミ。

「岩盤も行けるよな?みてろ」
「ああ、これも食えるのか」
ネラにそう言われたタケミはまだ熱いはずの岩盤を手に取り噛みつく。

バリボリと音を立てて岩盤を食べていくタケミ。
それを見てバンダナの勇者は目を丸くしている。

「水もらって良い?」
「ど、どうぞ」

テーブルの上にある水を貰うタケミ。
するとネラはテーブルの上においてあった酒瓶を指さす。

「これ酒か?おいおい朝から酒だってよタケミ。これ飲んでいいか?」
「はい……」

「良くないな、朝から酒を飲むのはアルコール依存症の傾向が強いって、昔読んだ本に書いてあったぞ」

酒を一気に飲み干すネラ。

「うーん!こりゃあいい酒だ。味に深みがある」
「酒の味なんて分かんのかよ」
「うるせぇよ」

空になった酒瓶を丁寧にテーブルに戻すネラ。

「はぁ、いい酒も頂けていい気分。おい、寝そべってるお前、暇そうだな。ブツって奴がどこにあるかタケミに教えろ」
ソファで横になっている勇者に質問するネラ。

すると同じくソファに座っていた、煙草を持った勇者が部屋の奥を指さす。
「あ、あの奥の扉の……」

「誰がテメェに聞いた!余計な口を挟むなマヌケ!」

ネラがその勇者に凄む。

「で、どこだ」
「あの奥の扉が倉庫……です」

ソファに横になる勇者が同じ場所を指さして答えた。

タケミが扉を開けるとそこには大量の瓶が。

「どうだ?」
「エリクサーだ、箱にぎっちり、その箱も沢山あるぞ」
「あんな量が!」
タケミが持ち上げた箱を見て闇商人が驚く。

「な、なぁアンタらエリクサーが欲しいのか?だったら俺らが下してやるよ、も、勿論代金はいらねぇ、タダでサービスするよ、だから……」

両手を挙げながらバンダナの勇者が話し始める。

「へぇ、サービスだってよ。気前いいな」

ネラが笑いながらタケミとユイの方を交互に見る。

「ああ、でもコイツ気になる事を一つ言ってたぞ。なんだっけ、ユイ?」
「エリクサーが欲しいのか?」
「違う違う、その次」

「だったら俺らが下ろしてやるよ?」

「そうそれだッ!」

ネラは後ろのソファで横になっていた勇者の胸に鎌を突き刺した。
勇者はあっという間に動かなくなる。

「ッ!!」
側にいた煙草を持った勇者は声すら出せずに震えていた。

「悪い悪い、ちと状況整理しようと思ってな、話の腰折っちまった」
ネラが鎌を引き抜くと勇者は灰になった。

「あ……そ、その……」

「なんだよ、うん?ああ、私みたいな美女を目の前にして上がっちまったか?しょうがねぇな、じゃあ落ち着くまで私から話をするか」

ネラがバンダナの勇者の前に立つ。

「あのエリクサーの出所を教えろ」
そう言って鎌を突きつけるネラ。

「え……え?!」

「エリクサーの出所だ!」
「え?!」

机を蹴り飛ばすネラ。

「聞き返すんじゃねぇッ!さっきまで普通に話してたよな私とよぉ!?忘れたか飯や酒の話したよな、なぁ!次そんな態度取ってみろコイツでぶった斬るからな!」

「はい!すみません!」

「出所!」
「はい!女神様から貰ってます!」

「どの上級女神だ」
「え?なんでそれを」

ネラは即座に相手の足に鎌を刺した。

「ガアアッ!はぁッはぁッ……!?」

「誰が質問して良いって言った!もう一度聞くぞ、どの上級女神だ?!」
「み、ミディカって女神です!でもあった事はない、本当です!」

「はぁ、やっぱりアイツか」

鎌をグッと押し込むネラ。
相手は痛みで叫び声を上げるがネラがそれを平手打ちで黙らせる。

「最後の質問だ。ここ最近で一番の取引相手は?一番デカい取引の話だぞ」

「デカい取引、あります。でも相手は分からない……とにかく大量のエリクサーを取引で使うからって。そ、それとなんか装飾品も一緒に」

「ふーんそうか」
ネラはそう言って鎌を抜き取ってしまう。

「おい、行くぞ」
「は、はい」
闇商人の襟をつかんで外に出るネラ。
それに続いてタケミとユイも外に出る。

「ユイ」
「はーい」
ユイが杖を一瞬光らせた。

「大丈夫か?いってぇクソっ何だったんだあの大男は?あれ、アイツは?」
「大丈夫な訳ねぇだろ。アイツは鎌で殺されたし、俺は脚にデカい傷だ!クソなんで治らねぇんだよ」
「はぁ、はぁ、はぁ、あの三人怖すぎ……」

話している部屋が光る。
「「「え?」」」

彼らの家が丸ごと綺麗に消し飛んだ。


勇者たちごと家を消し飛ばした火柱をみて闇商人が震えている。

「あ……ああ」
「おい」
「こ、殺さないで!!」

ネラに肩を叩かれた闇商人は酷く怯えた様子だ。

「お前殺してなんになるんだよ。そんな事より今後またエリクサー下ろしてる連中いたら盗賊ギルドに報告しろ。良いな」
「ちげーぞネラ、盗賊ギルドじゃなくて商業ギルドな」

「盗賊ギルド……、エリクサー下ろしてる奴がいたら報告、盗賊ギルドじゃなくて商業ギルド、分かりました」
口を震わせながらそう話す闇商人。

「そんじゃ、これガイド代」
ネラは魔石の入った小袋を渡し、道を進む。


3人は岩盤焼きを出してくれる店で朝食を取る事に。

「あんな事言うなら勇者連中に同業者の事聞いたら良かったじゃねぇか」
タケミがそういうとネラがハッとする。

「あ……しょ、しょうがねぇだろ!慣れてねぇんだから」
ネラはそう言って肉にかぶりつく。

「そうとは思えなかったけど。ん!このお肉美味しい~♥」

「うん!これ良いなぁ、焼きながらの状態で持ってくるのがなんか食欲そそられるよな。これ見てるだけで腹減って来る」

店のある通りを人々が何やら騒々しく走っている。

「おい!何だったさっきの光?!」
「分かんねぇけど、家が一個消えちまったらしい!」

タケミは肉を頬張る。

「上手いメシに広い風呂もあっていい街だなぁ」

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