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第48話 気を取り直して
しおりを挟む炎の試練により業火に満ちた空間で闘うタケミ。
激しい闘いの中でなんと服が焼けて全裸になってしまった。
「や、やめ!炎も終わりだ!それと早く何か着れるものを!この際せめて下だけでも隠すんだ!」
ベロニカが服を持ってきた。
その間も彼女はタケミのある部分から目を離せないでいた。
「ちょ、ちょっとベロニカ様!見過ぎ!」
「そ、そうですわ!失礼ですわよ」
そういう他のグランドオーク達や姫も先程から目に焼け付けようと言わんばかりに同じ場所を凝視していた。
ベロニカが持ってきたのはゆったりとしたタイプのパンツで、腰で紐を縛れば脱げることはないだろう。それを渡され履くタケミ。
「いや、悪かったな!」
「い、いえ。お気になさらず……」
再び構えを取るタケミ。
「では、試練再開!!!」
「気を取り直して行きますわよ!」
姫から強烈な気配を感じたタケミ。
(速えッ!)
タケミは大きく跳びその攻撃を回避した。
空振った姫の一撃はそのまま結界に直撃。
「姫様……?」
ベロニカが呼びかける、この時彼女は姫の心配をしたわけではなかった。
姫の一撃は結界にヒビを入れたのだ。
「あらぁ、ヒビが入っちゃったわ、もっとしっかり結界を張って頂戴」
姫はゆっくりと姿勢を戻す。
「ひ、姫様?!」
ベロニカが呼びかけるが姫は返事をしない。
「大きなヒビが入っちゃいましたねぇ。大きな、そう大きくて立派な……まるで」
そういう彼女の顔は心ここにあらずといった状態だ。
「いかん!先程見た【モノ】で頭がいっぱいになっておられる!!全然気を取り直せてない!おい、結界の人数を増やせ!6人、いや8人!倍の強度の結界だ!急げ!」
ベロニカの指示通りグランドオーク達は4人を追加してより強固な結界を作り出す。
(姫は力のコントロールが甘くなっている!しかしその一撃を今カヅチ・タケミ殿は避けた、どうやってだ?最早目で追えるスピードではないというのに。魔力を察知した?いや、彼の魔力量ではそれは不可能だ)
「なんかよく分からんが、随分と動きが速くなったな。けど……」
タケミもマートルの様子がおかしい事に気付く。
「そのボーっとした状態で相手されんのは気に入らねぇッ!!」
彼は全身から蒸気を発する。
「なんだ?」
「えーなになにあれ!」
「すごぉい、煙がモクモクだぁ」
タケミは赤鬼状態になり一気にマートルに接近し彼女の顔面に一撃を放った。
「……っは!今、私は……!!」
これにより姫は意識を取り戻した。
「よーし、これで気を取り直して出来るな」
そういうタケミをみて姫は頭を下げる。
「申し訳ありませんわ、私ったら……なんて事を」
「いいって、気にすんな。さ、始めようぜ」
二人は再び向き合う。
「では今度はこちらから参りますわよ!」
「よっしゃ来い!」
マートルは走りながら地面に触れる。
すると触れたところから次々と剣が生成され始めた。
「こちらは如何ですか?」
彼女の手の動きと共に生成された剣がまるで魚群のような束となってタケミを襲った。
タケミはそれを両手で防ぐ。
「こんなに剣を作れるのか!」
攻撃を防ぐタケミの背後にマートルが現れる。
片手に剣を作り出し、タケミの頭部に目掛け突きを放つ。
(無数の剣で注意を前方に引きつけ、後ろを取った!意識がハッキリした直後にこの動き、姫は完全に本調子だ!)
マートルの意識は全て目の前のタケミに向けられていた。
「おっと!」
タケミは即座に振り返り剣を掴んだ。
「反応した!?」
「完全に死角からの攻撃なのに!!」
周りの者達がざわつく。
タケミは掴んだ剣を握りつぶす。
マートルは後方に飛び下がる。
(今の反応、完全に予測できていた様子。恐らくは私の気配を感じ取っておられるのだわ!その感知能力に見合うあの美しい肉体ッ!!)
彼女はタケミの反応速度に感嘆していた。
「素晴らしいですわ!!」
「なんだよ、まだ剣掴んだだけだぞ。随分と嬉しそうだな、まあ俺も嬉しいがな」
タケミはそう言って構える。
「えッ!それって、カヅチ・タケミ様……」
「まだまだアンタの底が見えねぇ、闘ってて楽しくてしょうがねぇよ。ていうかそのフルネームで呼ばなくて良いよ、タケミでさ」
そう言うとマートルは顔を赤らめて体をよじらせる。
「そ、そんな……ッ!私たちはまだ試練の途中ですし。で、ですが、そうですね、折角のお話を無下にするのも無礼というもの、では……タケミ様と」
「キャー!!恥じらう姫様かわいい!!」
「ひ、姫様!!一応いま試練中なので!」
「マートルの好きにしたらいいさ」
タケミは体から蒸気を噴き上げ始めた。
「行くぞッ!!」
「まぁ!なんですのそのお姿はッ!!たまりませんわ!」
目を輝かせるマートル姫。
赤鬼状態になったタケミは攻撃を休むことなく繰り出す。
しかし先ほどとは違い意識がハッキリしている姫に攻撃が当たらない。
(しっかり動きが見切られてるな、だったら!)
タケミの身体から更なる蒸気が放出される。
「ねぇ、何か聞こえない?」
「なんだろうこの音ぉ、低い太鼓の音みたいなのがするねぇ」
結界の外にいる者達が周囲を見渡す、太鼓なんて誰も鳴らしていない。
誰もが結界内の戦闘に夢中で、そんな事をする者なんているはずもない。
「違う、これは太鼓ではない。心臓の鼓動音だ」
ベロニカがそう言う。
「え?心臓って、誰の心臓ですか?」
「そんなもの分かるだろう、カヅチ・タケミ殿だ」
ベロニカがタケミを指さした。
「いやいや!ここまで聞こえるってメッチャヤバくないですか!?」
「そうですよぉ、ヒト族がそんな事したら心臓や血管がパァンってなりますよぉ」
「確かに普通ならな、しかし彼は驚異的な回復能力で致命的な損傷を寸前の所で免れているんだ。なんという戦い方だ」
ベロニカが他の者にタケミの状態を解説する。
結界内のマートル姫にその声は届いていなかった。
彼女は自分の鼓膜を揺らすタケミの鼓動に聞き入っていたのだ。
(ああ!なんて美しい音!!これ程の鼓動音、身体には深刻な負担がかかるでしょうに、そのような戦い方で私に向かって来てくれるなんて!)
すると姫の目の前にタケミが迫る。
彼の拳がマートル姫を捉えた。
正気に戻ったマートル姫にようやく一撃与える事が出来たタケミ。
「ハハハッ!当たってけどそこまでか?」
そう言ってタケミは唾を吐くように血を地面に吐き出す。
「……こんな素敵な一撃生まれて初めてですわ」
頬を染めながら姫はそう返した。
「す、すっご!あの状態の姫様に一撃当てた!」
「あんな勢いで姫様お腹殴ったのにぃ、拳潰れてなぁい、すごいねぇ」
周りも今の一撃には驚いているようだ。
「なんでもいいけど、お前さっきから顔赤くないか?」
そんな話をしているとタケミの腹が鳴る。気付けばもう完全に日は落ち、月が頭上に来ていた。
「あら、それでしたら。食事は何かあったかしら?」
「わりぃな、はぁ、めっちゃ腹減った」
マートル姫がベロニカに話しかける。
「流石にもう先と同等の量はありません。もうあれぐらいしか」
「でもあれはお薬でしょ?」
二人は何かについて話している。
「なんだ?薬でもなんでも力が出せるならいいぞ。さっきの飯も好きだけど今はマートルとの試練再開したいしな」
「まぁっ!そんなタケミ様……!あまり嬉しい言葉ばかり言わないでくださいませ。ではベロニカここに持ってきて頂戴」
マートル姫にそう言われたベロニカは一度下がる。
そして皿の上に風呂敷に包まれた何かを持って現れた。
「こちらは我が一族に伝わる秘薬でございます」
彼女が風呂敷の結びを解くと中からまるで宝玉のようなものが現れる。
翡翠を球体状に研磨したものにも見える。
それを手に取るタケミ。
「こちらはそのまま口にいれて噛んで飲み込んでくださいませ」
「へぇー薬ってより宝石みたいだ。いただきます、あーん」
飴玉より少し大きいそれを口に放り込むタケミ。
バリボリと音を立ててかみ砕く。
「うん、あ、ちょっと甘い?苦みはあるけど、うん全然いけるな」
そして喉を鳴らし飲み込む、するとその効能はすぐに判明した。
「おお!本当に空腹を感じねぇ!!すっげぇ体の底から力が湧き出してくる!」
「こちらは一度口にすれば一ヶ月は飲まず食わずで闘う事が出来るというものです。本来は私達の薬でヒト族にとっては毒とも言えるほどの劇薬です。カヅチ・タケミ殿なら適応できると確信しておりましたが、まさかそこまでとは」
そう説明するベロニカ。
「なるほどなー、おれ以外の奴が聞いたら色々今の発言にツッコミ入れるんだろうけど、まあ良いや。腹いっぱいになって力が湧いて来た!」
再びマートル姫と向き合うタケミ。
結界が閉じられる。
「そうですわ!タケミ様、先ほどの煙が出る状態ですが」
「あれな、赤鬼って呼んでんだ。それがどうした?」
タケミがそう言うとマートル姫の身体から蒸気が発生し始める。
「え……」
「こんな感じでしょうか?」
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