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5th フェーズ 決

No.130 ヴァ―リの猛攻

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 目の前で戦闘態勢を取るイヴ達を見て首を傾げるヴァ―リ。

「なぜ邪魔ばかりするんだ?わからん」

「分からないだろうね。みんなこいつを人だと思ったら駄目だよ、怪物だ。絶対にここで殺す、その覚悟で行くんだ」
 イヴは皆に警告する、手加減無用だと。

「怪物か、天才らしくない幼稚な例えだ」
 ヴァ―リは余裕そうに笑う。

「いやいや、その姿見て怪物は大正解でしょ」
 ジーナが腕をくねらせてヴァーリの真似をする。

「あとはなんだろ、腕だらけのクソヤローとか?」
「シャロ様よくない言葉遣いですよ」
 シャーロットに叱るウルル。

「悪いね、お子様の相手をしている暇はないんだ」
 ヴァーリは複数の腕を棘状に変形させ、それを皆に向けて勢いよく伸ばした。

「危な!」
「始まったー!」
 皆はなんとかその攻撃を回避する。

「あいつの身体はナノマシンで構築されてる。生半可な攻撃は効果ないよ!ここに来る時に渡したもの、忘れてきてないよね?それつかって」

「わかりました!」
「いくよ!アーマードコロちゃん!」
 ジーナは手袋を装着し、シャーロットは装甲に包まれた厳ついコロちゃんを取り出した。

「武装の登録及び安全装置の解除、すでに完了してます!」
 ウルルは腕に内蔵された刃を展開させる。

「それ!」
「は!」
 イヴとシャーロットはヴァ―リに攻撃を仕掛ける。

 攻撃が直撃し、周囲が明るくなるほどの電気ショックがヴァ―リを襲う。

「電気ショックを与える兵装。一辺倒だな、これは高電圧程度でどうこうなるものでは無い。その程度の武装は敵ではない!」
 ヴァーリは伸ばした腕を分散させた。

「え?腕が消えた?」
 そういうジーナの腕を掴むイヴ。

「みんな私のそばに!」
 イヴは他の2人も自分のそばに引き寄せた。

「着火!」
 ヴァーリが合図をすると彼女らの周囲に炎が突然発生する。

「ナノマシンを使って発火させたのか」
 イヴは間一髪の所でバリアで皆を囲んだ。

「凍結しろ!」
「え!?氷?」
 バリアの周囲にあった炎が氷へと変化する。
 氷がバリアの中に侵入してきた。

「バリアの光を屈折させたの、やるじゃん」
 バリアを解除し、氷を破壊するイヴ。

「今度は氷!魔法でも使ってるの?!」
 ジーナの言葉に頷くヴァーリ。

「うん、魔法かいい表現だ、これが戦闘用に改造したグレイボット。名称は、まあ俺しか使わないものに名称もいらんだろうが、アサルトボットと呼んでいる」
 ヴァーリは自身の掌の上で小さな静電気を起こす。

「電撃」
「っぐ!さっきの仕返しか!」
 イヴは皆をかばって電撃を受ける。

「イヴさん!」
「大丈夫!これぐらいはなんてこと無いよ」
 イヴは笑ってみせた。

「炎、氷、電気、随分と盛りだくさんだね。万能な神様にでもなるつもり?」
 この質問に対しヴァーリは鼻で笑う。

「神になる?その発言自体が驕りだな。我々人間が神になれるものか。この世に神がいるとすれば!」
 ヴァーリは手を広げる。

「フォルセティだ!」

「フォルセティ、グレイボットを制御する人工知能ね」
 イヴがそう言うとヴァーリは空を仰ぐ。

「フォルセティ!ああフォルセティ!あれこそが真の秩序をこの宇宙にもたらす!だがその為にはまだ1つ足りない……エデンの果実が必要だ。万物の知識!それがあればフォルセティは全てを統べる!慰めだけの空想ではなく、本物の神になる!我々には必要なのだ、完全なる神が!」
 そう言うとヴァーリはイヴを指差す。

「貴様ら天才ですら世界を正せなかった。それどころか世界は崩壊へと加速した。これが人類の底なんだ」
 ヴァ―リの話を聞いてジーナは挙手した。

「質問、それじゃあそのフォルマジオ?神様を作ったアンタは何なのさ。同じ神にでもなろうっての?」
 ジーナの質問に対しヴァ―リは首を横に振った。

「我々は神を作り出したが、それイコール自分達が神だとはならない。どこまで行っても人類だ」
 
「そこは違うんだ……。良く分からないルールだなぁ」
「まあそれがアイツの世界の完璧な姿なんだろうね。わざわざ理解する必要ないよ」
 首を傾げるジーナにそう助言するシャーロット。

「このまま行けば多くの人類が犠牲になります。それは構わないというのですか?」
 ウルルが質問するとヴァ―リは不思議そうに彼女をみた。

「ん?何か勘違いしているみたいだな。犠牲になる者はいない、フォルセティに裁かれた者はそういう役目だっただけだ。その者達が死ぬことになってもそれは彼らが役目を全うするために必要な事だったというだけだ」

「……」
 ヴァ―リの話を聞いて顔を引きつらせるウルル。

「ウルルちゃん、話し合おうにもねある程度同じ前提がないといけないの。アイツは致命的に私達とかけ離れてるの」
 イヴがウルルに向かってそう言った。


 一方そのころ、浜辺に停められている船の中。

「なに!?」
 シドーはアルファとシータから伝えられた話に驚いていた。

「たしかに、アイツならやりそうな事だ。おい!ボコボコにされた直後で悪いが、ちょっと手伝ってくれ!」

「無論です」
「共に参ります」
 アルファとシータは頷く。

「よし!それじゃあ、肩貸してくれ!」
 シドーはアルファとシータに支えられ船を降りる。

「おい!お前らどこに行くんだ!」
 外で敵と交戦していたヤスシが3人を呼び止めた。

「最後にもう一仕事しようってな、だからここは頼んだ!安心しろこの2人には無理はさせない」
 そう話すシドーの目をみて、ヤスシは再び銃を敵に向けた。

「分かった、行って来い!援護する!」
「さんきゅー!」
 シドー達はヤスシに頭を下げて先に進む。



「はぁ、はぁ、まるで砂を殴ってるみたい。すぐ形を壊せるけどすぐに元通りになる。すごいな、あの技術」
 シャーロットが息を整えようとしている。
 先ほどから攻撃を続けているが、ヴァ―リに決定打は与えられていない。

「でもあの技術って何か制限があるんじゃない?」
 ジーナがふとそんな事を言う。

「え?」
 シャーロットがジーナに顔を向ける。

「だって制限無しなら身体を銃にしたり、ミサイルにするんじゃない?わざわざ手を伸ばしたりするよりも楽でしょ。炎とか出す時も目に見えないぐらい手足を分解するのも、作動させる数を抑えるためなんじゃない?」
 ジーナの話を聞いて驚いていたのはシャーロットだけではなかった。

 イヴもその一人だった。

(私が最初に気がつくべき事なのに。冷静なつもりだったけど、まだ怒りに振り回されてるのかな。でもジーナちゃんはこの状況でもよく物事を観察できている。すごいな本当に)

 関心したイヴが口を開く。

「ジーナちゃんの考えは当たってると思うよ。恐らく核となる部分がある筈。ナノマシンを制御している装置が」
「あ!それならこれかなって言うのがあるんです!行ってきます!」
 イヴの言葉を聞いてジーナが前に出る。

「核の存在に気付くとはやるな。だがその程度でこの状況は変わらんぞ!」

 ヴァ―リは体を複数のトゲに変形させ、それを勢い良く伸展させる。

 ジーナはこの攻撃を全て躱しきる。

「なに?!」
「黒鉄・連!」
 ヴァ―リに連続で何発も強力な一撃を叩き込むジーナ。
 彼の身体は粉々に砕け散る。

 ヴァ―リは即座に体を元に戻す。

「そこ!」
 ジーナは散らばった粒子のようなナノマシンの中に狙いをつけて突きを放った。

「バカな……!ナノマシンだぞ、人の目に捉えられる筈が……!」

「あんた身体を戻す時パターンがある、核を覆うように修復してるでしょ。見えなくても最初に修復される部分を殴れば良いだけ」

 ヴァ―リの動きが止まる。

「やった!……っと!」
 ジーナはガッツポーズを取った直後に飛び退いた。

「もし今のが他の連中なら殺せたのだがな。やはり君の瞬発力は常軌を逸している」
 ヴァ―リは身体を元に戻した。

「やられたふりして不意打ちなんて、ひどいなー」
 横切るような傷がジーナの腹部についていた。

「え?!大丈夫ジーナ?!」
「うん大丈夫。服掠っただけ」
 シャーロットにそう答えるジーナ。

「良かった、凄いよ。これでアイツはもう身体を自由自在に変えられない」
「ですが今修復したのは?」
 イヴに質問するウルル。確かに核を破壊された後にヴァ―リは身体を修復した。

「あれが核が出した最後の指令、それだけは辛うじて実行できたみたいだね。でももうその指示役はいない。次にぶっ壊されたらアイツは終わりって事」
 イヴはヴァ―リを指さす。

「そうだな、もう複雑な変形はできない。先ほどのように手を伸縮させたりはもうできないだろう。だが、それでも君らの勝率は変わらない、絶望的なままだ」

 ヴァ―リの腕が赤く発光し始める。

「アサルトボットによって出来たこの身体にとって、自在の変形なんてただのオマケのようなものだ。真の恐ろしさをみせてやる」

「あれはハッタリじゃないかも。みんな気を付けて!」
 イヴが皆に警戒をよびかける。


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