上 下
103 / 135
4th フェーズ 奪

No.103 ここから出よう

しおりを挟む

「おい!おい!鬼丸とこの坊っちゃん!」
「起きて、鬼丸ユキチカ」
「うーん?なに?」

 ある日の夜、ユキチカはオニツノとキリサメに起こされた。

「こっから出したるわ」
「ついてきて」

 目元をこするユキチカ。

「うーん、眠い……寝足りない」
「カラダが機械の癖になに言うとんねん、ほらいくで!スズメちゃん坊ちゃんの靴持ってきて」
 オニツノはユキチカを引っ張り起こす。

「はい靴」
「まったく手がかかるの、あの刑務所で育ったとは思えんわ」
 文句を言いながらユキチカに靴を履かせるオニツノ。

 2人は外の様子をみながらユキチカを部屋から連れ出す。

「なんで2人が?」

「この為に行動してた、イヴ様からの依頼」
「スズメはイヴ知ってるんだ!」
 キリサメに嬉しそうに話すユキチカ。

「モッチーは?」
「お供させて貰っただけや、おもろそうやからの。ちゅーか”モッチー”ってなんや、可愛すぎるやろワシに似合わん」

 オニツノは周囲を警戒しながら答えた。

 行く道はキリサメが把握しているようで、彼女が先導して進んで行く。

「警備システム止めてるの?警報ならないね」
「うん、でも少しの間だけ、そう長くはもたない」
「そういう事や、さっさと行くでー」


 ある程度進んだ所でオニツノが振り向いて立ち止まる。

「二人とも先行き」
「モッチー?」

「ワシは後からいくわ、そろそろ追手が来る頃やろうしな」
 オニツノが言った通り周囲が騒々しくなる、ユキチカの脱走がバレたようだ。

「まだ外まで半分って所や、2人共気ぃ抜かんと行くんやで」

「行こう、鬼丸ユキチカ」
「またね!」

 キリサメとユキチカが走って先に進む。

 それから間もなくアンドロイドの兵達が通路の向こうからやって来た。

「はっ!なんやただのガラクタやないか。喧嘩相手には物足りんがまあええわ」

 迫りくるアンドロイド兵にオニツノは飛び掛かる。


「オラァどないした!こんなもんかい!?」
 アンドロイド兵の残骸の上に立つオニツノは周囲を見渡した。

「ちっ、ここ以外の道使って追いかけてるな。しゃーない、それなら」

 オニツノはある場所に向う。

「スズメちゃんの言う通りやと、こっちに……おっ!あったあった」
 手元の端末を見てオニツノは1つの部屋に到着した。

「なんだお前は!」
「オニツノだ!」

「なんや監視室には人がおるんかい。あんたら痛い目に会いたくなければじっとしとくんやな」
 
 その場にいた者たちは警棒を取り出し、構える。

「後で泣きべそかいても知らんで」


「う……うう」
 その場にいた者たちは瞬く間に倒されてしまう。

「まったく話にならんの。とりあえずここらへんの機械ぶっ壊したろ」
 周囲にある機械を壊していくオニツノ。

「ようやくわかったよ、君がどうしてそんなに献身的に我々に尽くしてくれるのか。スパイか」

 監視室にヴァーリが現れる。
 彼の話を聞いて笑うオニツノ。

「そんな利口なもんとちゃうわ。気に食わん奴の計画をええ所で台無しにしたろって思ってただけや」

「いい性格をしているな」
「そらどうもッ!」
 オニツノは攻撃を仕掛ける。

「あんなにアンドロイド使うのに、ここじゃ人を使とるんか?」
「アンドロイドは物量面は優れている、だが最後は人の目が必要なのだよ」
 
 ヴァ―リはオニツノの攻撃を避けた。
 
「結局信用仕切ってないことかいな。でも分かるで、ワシも初めてネットショッピングしたときはホンマに届くんか信用できんかったからな!」

「君のそれと一緒にしてほしくないね」

「そやな、あんたと一緒なんて吐き気がするわッ!」
 オニツノは地面に落ちていた警棒を蹴り飛ばし、相手の注意を逸らす。彼女はその隙に攻撃を仕掛けようとした。

「おっと」
「なんや……その身体!?」
 飛び掛かるオニツノだったが、彼女の身体は宙で停止した。

「これが新しい人間の姿だ」
 そう話すヴァーリの腕は変形し、銀色の塊となってオニツノを掴み上げていた。

 オニツノを壁や天井に叩きつけて投げ飛ばす。

「が……!クソ……アホみたいな力で人を掴んで振り回しよって!」
「酷い傷だな、肋骨が折れて肺に刺さったな。呼吸するだけで激痛だろう」
 倒れたオニツノを見下ろすヴァ―リ。

「今からフルマラソン走れ言われても余裕や」
「立ち上がれるのか。興味深い」
 歯を見せながら立ち上がるオニツノ。

 彼女は再度攻撃をしかけるが反撃を受けてしまう。
 今度は変形した腕が腹部を貫いていた。

「……ぐ…ガハ!」
 
 オニツノは口から大量の血を吐き出す。

「おっと、赤黒い血は良くないと聞く、内臓からの出血だとね。私も何度かみた事はあるが……死んでしまうぞこのままでは」

「はあ……はあ……」
 もうヴァーリの声は殆ど聞こえていない。

「君の戦闘能力はここで捨てるには勿体無い。そうだ君にも特別な身体をやろう。喜べ、新人類の肉体を私の次に体験できるのだ」

 倒れたオニツノを変形させた腕で持ち上げるヴァ―リ。
 オニツノはそのまま気を失ってしまった。


 キリサメとユキチカはアンドロイドの兵たちをうまくかわしながら先に進もうとしていた。

「もう追っ手が、こっち」

 時折現れたアンドロイド達を斬り伏せてキリサメは先導する。

「キリサメ強いね!黒い刀かっこいい!」
「……もうセキュリティシステムは復旧、監視に映らないように」
 監視カメラを避けながら先に進む二人。

 進んで行くと通路の先に部屋が現れた。

「こんな所に部屋?この図面にはない……」
「リフォーム?」
 キリサメも知らない部屋のようだ。

「この部屋を抜けるのが、一番近い。でも中に……」
「しつれいしまーす」
 ユキチカはキリサメが話し終える前に扉を開ける。
 

「おー」
「なに、これ」

 扉を開けた先には極めて普通の長テーブルと椅子が、そこはよく見るダイニングルームだった。普通ではあるが一部特徴的な部分があった、それはいくつかの椅子にぬいぐるみが置かれているのだ、座らされていると言ってもいい。

 ダイニングからはキッチンにリビングルームも見える、他にも幾つか部屋が繋がっている。こんな施設に3LDKの居住スペースがあるのは不思議でしかない、何かの実験場だろうか。

「~♪」

 すると誰かがキッチンに立っている事に気づく、女性だ、鼻歌まじりに料理をしているのだろう。彼女はくすんだ金髪をしている。

「ん?お帰り、早かったね」

 二人に気付いた彼女は顔を上げてそう言う。

「カイだ!」
「カイ・ザイク?」

 その女性はカイ・ザイク、【光るシャボン玉事件】の時に対峙した研究者だ。

「晩ごはんもうすぐ出来るから、手洗いうがいして、宿題でもして待ってて」
 二人にそう言うとカイは料理に戻る。

「?」
「どういうこと……」
 ユキチカとキリサメは顔を見合わせる。

「何をしてるのほら、早く洗面台に行って」
 彼女は再び顔を上げて二人に洗面台に行くように伝える。

「はーい」
「え?」
 ユキチカはカイに言われた通りダイニングから続く洗面台に向かい、手洗いうがいをし始める。

「もう、いつまで帽子被ってるの、早くそれとって」
 カイはキリサメのヘルメットを外した。

「あ……」

 そして気付けばカイが作った料理を前にぬいぐるみ達と座っていた。

「いただきまーす」
「はい、どうぞめしあがれ」
 ユキチカは両手を合わせて食事を始める。

「ん!おいしい!ほらキリサメも」
「え……」
 キリサメも恐る恐る食事をする。

「うん……」
 そう言って頷くキリサメ、彼女的な表現で美味しいという意味だ。

「ふふ、良かった。お母さん嬉しい」
 食事をする二人をみてカイは微笑んだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...