上 下
52 / 135
2nd フェーズ 集

No.52 夏休みだし実家に帰ろう

しおりを挟む

朝、警察署前にあるトレーニングジム。

キビはそこでトレーニングをしていた。
軽めのスクワットをし、その後は懸垂機を使って腹筋と背筋を動かす。

自身の身体の隅々まで意識を巡らし、不調な場所が無いかを探る。

「あれ、先輩も来てたんですか?おはようございます」

そんな彼女を呼ぶ声が。

「コウノか、メンテナンスだよ。傷が治るまで動くなーってお前含めて周りがうるさかったらな。久々にしっかり体を動かせるよ」

隣に来てコウノも懸垂機に手をかける。
「あの重症だったんですからそれぐらい聞きいれてくださいよっと」

「まったく、身体を動かしたくても動かせないって結構ストレスなんだな。その間にユキチカからの頼まれごとを進行できたから良しとするけど。そっちはどうだ?」

キビは隣で懸垂をするコウノに話しかける。

「ちゃんと確認してますよーユキチカ君とシャーロットさん達の絵日記」


話は2週間程前に遡る。
【光のシャボン玉】の施設での事件から数日経過した日、ユキチカの家にみんなが揃っていた。

「まさかユキチカくんの身体が機械だったなんて」
「そっか、コウノは知らなかったか?」
キビとコウノの目の前にユキチカがいた。

そのユキチカは自身の腕のパーツを外し、整備している。

彼の身体はカイによって体を真っ二つにされた。
しかし、スペアパーツで今ではすっかり元通りに戻っていた。

「カオルちゃん!おとうさん所行きたい!」

ユキチカの言葉を聞いてキビが咳き込む。
どうやら、飲んでいたお茶が変な所に入ったようだ。

「えっほえっほ!なんだと!?」
「調べたい事があるの!おばあちゃん達にききたい事があるの!」

その事を聞いてため息をつく。

「はぁ……しょうがねぇ、分かったよ。あそこに行くには色々と面倒ごとがあるから。時間もらうぞ」
「わーい」

喜ぶユキチカを観るキビ。

「じゃあその間夏休みの宿題しとけよ」

キビの言葉でハッとするジーナ。
「あ……そういえば忘れてた」

「もうおわった!あと日記だけ」
「私もあと絵日記だけ」

ユキチカとシャーロットは夏休み中に取り組む問題集などは貰ったその場で解いてしまった。宿題がなくなったので自由選択の絵日記を宿題として与えられた。

「絵日記?何書いてるんだ?」
何の気なしに聞いてみるキビ。

「これー!」
ユキチカは端末に自分の絵日記を映して見せた。

内容としてはその日に何があったか、何を食べたのかというもの。
しかし、一部大きな問題があった。

それは彼らが解決した事件の内容がしっかり描かれていたのだ。
機密もへったくれもあったものではない。

「これは……流石にダメですね」
コウノがそう言った。

「よし、これから絵日記は全てコウノが添削する」
「え!?私がですか?」

「だって私はユキチカを実家に連れてく準備をしないといけないからな」

こうしてコウノはユキチカとジーナの絵日記添削担当になったのだ。


「私達が行っている間の留守番を頼む」
「はい、久しぶりにゆっくりと業務をこなしますよ」
コウノはそう言って笑った。

トレーニングを終えた二人はシャワーを浴び、着替えた。
コウノはいつものスーツに、キビも着替えたがいつもよりもカジュアルな服装に着替えていた。

「それでは行ってらっしゃいませ!」
「おう、それじゃあな。私は休日を堪能させて貰うわ」
サングラスをかけて車を出すキビ。


彼女はユキチカの家の前に到着。
そこにはユキチカとウルル、そしてジーナとシャーロットもいた。

「皆いるな。荷物があればトランクに入れて、さぁ乗って」

ユキチカが荷物をトランクに入れ、皆は車に乗り込んだ。

「私達も良かったんですか?」
「インファマス刑務所なんて都市伝説みたいな場所で、普通じゃ絶対にいけない所だよね」

「向こうからの要望でな。お友達を紹介してくれって」
キビはそういって車を発進させる。

「それには私も含まれているのですか?自分で言うのもなんですが、私アンドロイドですし……」
「ウルルちゃんも大丈夫だって。そもそもユキチカの従者なんだから来てくれないとさ」

ウルルにそう答えるキビ。

「さて、移動中に軽く説明しとくか。君達がこれから行くのはインファマス刑務所だ。そこには世界で最も危険な犯罪者が収容されている。それも既に全員処刑済み、つまり死んだ事になってる連中がな」

「え?でも囚人は収容されてるんですよね?」
「それは死んどいて貰った方が何かと都合がいい、表立って言えない理由で収監されてるからじゃない?」

シャーロットの発言に頷くキビ。

「御名答、囚人たちはいずれもその道で名を馳せた超一流ばかり。伝説の傭兵、世界一の殺し屋、裏社会の流通を牛耳っているやつや、世界中のあらゆる機密情報を持つ情報屋までいる。悪党でもその才能や繋がりは利用しようって話になったらしくてな」

キビの話を聞いて頷くジーナ。以前ウルティメイト社のリリィも同じことを言っていた事を思い出し、あの話は本当だったのだと彼女は思った。

「それで出来たのがその刑務所……」
「そういうこと、でも犯罪者に色々手伝って貰ってます、なんて大っぴらに言えないだろ?だから隠されてる」

「なんか偉い人とかもよく来るよー!」
助手席に座らされているユキチカが会話に入ってくる。

「お忍びでな。各国のお偉いさんがやってきて仕事を依頼することも多々ある。あの刑務所はどこの国にも属してない、それが都合良いんだと」

その話をきいて後ろで小刻みに震えるウルル。

「だ、大丈夫なんでしょうか、そのような場所に私が行って、もし私がユキチカ様の従者として相応しくない存在とみなされたらスクラップにされるんじゃ……危険な目に沢山合わせてしまっていますし……」

「いやいや、気にしすぎでしょ……たぶん」

キビは最後の方を小声にしてそういった。


車を運転して、1時間と少しすると湾に到着した。

「さ、乗り換えだ」
車を降りるキビたち。

「酔い止めだ、飲んどけ」
キビが薬を渡す。

「ぼくも作ってきたよ!」
ユキチカも錠剤を取り出した。

「お前のは別の効果もあるだろうからいらない」
「正解ですね」

話していると奥から複数の人が車椅子を押しながら現れた。

「お待ちしておりました。どうぞこちらにお座りください」
その者達からはお辞儀をし、ユキチカ達を車椅子に座らせた。

「これから目隠しをさせて頂きます」
彼女らは後ろから黒い布を、座っているユキチカ達の目元に当て、グルっと一周させ固定した。

「では参ります」
視界が塞がれた中で車椅子が押される。

幾らか進んだところで車椅子が止まる。
揺れの感覚からして船に乗ったのだろうか、ゆらりゆらりと緩やかに揺れている。

「出発ー!」
目隠しされた状態でユキチカがそう声を上げ、拳をかがげた。

「おー!」
「酔い止め飲んでおいて良かった」
「はぁ、そんな機能無いはずなのに緊張で手汗かいてきたような気がします」
ジーナ、シャーロット、そしてウルルも目隠しをされてはいたが、ユキチカに続いて拳を掲げて同じポーズを取った。

「鬼丸ユキチカ様、それとご友人様、移動中はお静かに」
「「「はーい」」」
ユキチカ、ジーナ、シャーロットが手を上げて返事をする。

「も、申し訳ございません」
ウルルだけがペコペコと頭を下げていた。



そこは絶海の孤島。
常に強力な潮の流れがあり、モーターボートでもなければたどり着く事も出る事もできない。更には周囲の天気は非常に不安定でいつ嵐がやってくるかも分からない。

そんな場所に要塞のような建物が築かれた。
当時のアンドロイドの性能では、この環境下で正常に動かすことが出来なかった、故に人の手と昔ながらの装置などを駆使して建てられた。

何人もの人間が建築途中、この海に転落し亡くなったという話がある。

それこそがユキチカの故郷でもあり、世界で最も危険な刑務所、インファマス刑務所である。


「と、いう訳でユキチカが来るぞ!!!歓迎の準備だ!」
「署長落ち着いて下さい!お気持ちは分かりますが」
ユキチカの父、鬼丸ヤスシが部屋の飾りつけをしている。

「ーーーーーーッッ!!」

すると部屋のモニターから獣たちの雄叫びのような声がしてくる。

「アイツらも賑やかにやってるなぁ」

モニターの向こうでは、金網に囲まれた場所で殴り合う者たちがいた。
「うおお!!いけッ!」
「やっちまえ!」

怒号のような声が響き渡る。

「全く、今日は一段とにぎやかだねぇ」
そんな声を聴きながら火を眺める一人の老婆。

「ンガッハッハッハ!みんな嬉しいんだねぇ。さて、私も準備するかねぇ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...