悪役令嬢の断罪後

黒崎

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悪役令嬢は亡霊としてしがみつく。

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 私の願いは、……を絶望させること。私を破滅に追い込み、家族諸共殺したあいつを。
 私自身は、どうなっても良かった。苦しむのは私だけで良かった。家族に被害が及ばなければ。家族さえ守れれば。
 その願いさえも、浅はかとでも言うように壊した……を、私は許せない。
 死の瞬間、いっその事祟ってやろうと憎悪を吐いた。祟ることはできなかった。諦観し眠って、全てを忘れさろうとした。
 
 おちていく私をすくい上げた目の前の男の甘言に、私は堕ちた。
 全てを諦観し、理からも外れた私は、何者でもなくなった。生者でもなく死者の安寧も無くなった、わたしは。
 目の前の男に、全てを預けようと思った。全てを諦観し、悪役令嬢は死んだ。今のわたしは、縋り付く亡霊だ
 
 
「自己紹介が遅れてしまったね、僕はアーク。見てわかる通り、魔術師だよ」
 その男は、アークと名乗った。
 彼曰く、しがない魔術師だと。
 魔術がすたれつつある世の中で珍しい魔術師。
 はるか昔は、星の数ほどいた彼らは数を減らし、今では稀有な存在となってしまった。
 もっとも、彼の言うしがない魔術師なら、禁忌などに手を出さないはずだろうが。
 ……男の目が私を射る。私もした方がいいのか、と口を開きかけたところで、男……アークが遮る。
「君については、ある程度知っている。……詳しい事情については、今の状況を整理してからさ」
「君の願いが決まったのなら、話は早い。君は目覚めたばかりだから、君が死んだ後の、今のこの国の話をしよう」
 
 私が死んだあとの話。死んだ、そう他人の口から聞くと改めて自分は人外となったのだと認識する。私と家族を死に追いやった、彼らの今。
 
 最後に私が処刑された後、私の元婚約者だった王太子は先王の後を継ぎ国王となり、その妃にかの聖女を望み、無事結ばれたそうだ。
 ……結ばれた、という言葉に内心顔をしかめる。
 物語のハッピーエンドのように、お膳立てされたくだらない話。吐き気がしたが、アークの言葉を黙って聞き続ける。
 
 私を含めた生家である公爵家の人間
 が処刑された後、新たな公爵家の枠となったのは私の元婚約者である王太子ーー今は現国王となった彼の側についていた貴族らしい。
 大きな派閥抗争を乗り越え、今は表面上は平和を保っているそうだ。王国はいつも、魑魅魍魎の魔窟。平和と言えば聞こえは良い。
 その実、醜い争いは続いているのだ。
 悪役令嬢こと私が死に、国は平和らしい。……悪役(わたし)が死んだからこそ、物語は、ハッピーエンドを迎えたのだろうか。
 
 締めくくられたアークの言葉に、私は思考の海に深く深く、自身の過去を遡る。
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