5 / 53
大学生編
2014.06.02(Mon) 芽生えた好奇心
しおりを挟む
【大学生編 04 芽生えた好奇心】
[2014年6月2日(月)]
「やだ、私なんかここ気持ち悪い」
「は?何が」
仲間内で呑んで次の店を探して歩いていた時、隣を歩いていた友人が急にそんな事を言い出して、央弥は辺りを見回した。
「変に薄暗いよ、別に物陰でもないのに」
「そっか?」
立ち止まると服を雑に引っ張られて歩き出す。
「早く行こ!」
「おーい、店決まったって」
「おお」
もう一度振り返ってみても、何も感じられない。
夜なんだし、暗いのは当たり前じゃね?くらいにしか央弥は思えなかった。
しかし仲間たちと居酒屋に入るとガヤガヤとした独特の空気に、すぐそんな事は忘れ去って騒ぎを楽しんだ。
「二日酔いで頭が痛い」…と、頭の中で呟きながら目を覚ませばまだ窓の外は夜明け前で薄暗かった。
「…のど、かわいた」
ヒビの入ったコップを手に取る。
ついてきたって、見えないし感じないし、何にもならないってすぐわかるようで、"ソレ"らはこういった小さな悪戯をしてはいなくなった。
「あの人といる時だけ、なんか不思議なモンが見えるんだよな…」
明らかに生きていない元人間の姿をしたモノとか、人型の影とか。さっきの友人、大学のサークルで仲良くなったグループの一人、モモが気持ち悪いと言った場所にも、何かがいたりしたのだろうか。
辰真がいないと、他よりも不自然に薄暗いという事さえ少しもわからなかったが。
「……」
気になり始めると確かめたくなる。央弥はどうにかしてあの恐がりな先輩をあの場所へ連れて行けないものかと思案しながら、吐き気に襲われてすぐに思考はそっちへ奪われた。
次にふと意識が戻ったのは昼の1時過ぎで、予定通り午前の授業をすっかりサボった央弥は、しかし目が覚めたなら午後は出ておくかと講義を受けるために電車に乗っていた。
平日の真昼、ほとんど貸切状態の車両内で寝るのももったいなくてぼんやりと窓から外を見る。
ガタガタと車輪の音が少しうるさくなって、ふみきりを通り過ぎる瞬間に視界に花が見えた。普段は気にもしない事だが、なんとなく途中下車をしてしまう。
改札を出て、しばらく線路沿いを逆行するとそれはあった。せいぜい大型バイクまでしか通れない幅の小さな踏切だ。央弥は先ほどの記憶を頼りに花を探す。確かにあったはずだ。枯れた花束が、この足元に。
「近付くな」
食堂でその姿を見かけて話しかけに行こうとした央弥は珍しくあちらから話しかけられたのだが、その内容は上の通り、完全なる拒絶だった。
「なぁんで」
日替わり定食を食べていた手を止めて、辰真は強張った顔でいる。これは単純に嫌いな相手に対する反応ではない。
「あ、もしかして俺、2名様になってる?」
「どこに行ってきたんだ…いや、聞きたくないからやっぱり言わなくていい」
食欲が失せたと言わんばかりに口元を押さえて、近寄るなよ、と念押しして辰真はトレーを手に立ち上がる。
「立て続けに変な体験したから妙に気になって、つい自分から近寄っちゃった」
3メートルほどの距離を保ったまま、央弥は辰真の後をついて行く。
「何バカな事やってんだ。ついてくるな」
「そんな怖がんなくても、一体こいつに何ができるよ?」
今、その視線は明らかに、辰真が必死で目を逸らしているソレを見ている。
「…見えてんじゃねえか」
「アンタが近くにいる時だけな」
央弥の目には、ハッキリと自分の足に抱きついている小4くらいの男の子の姿が見えていた。右足の膝から下が無い。しかしそれ以外は特に目立った傷もなくキレイだ。
「お前、あそこからずっと付いてきてんのか?」
――僕の足どこ――
それは声ではなかった。
「知らねえし、お前の方が知ってるだろ」
首を傾げる少年に続ける。
「あの小さい踏切で、なんかあったんだろ」
その言葉の直後に少年の右顔面が醜く歪み、頭も上半身も全て、形が崩れていく。辰真は呆然とその様子を見てしまっていたが、吐き気に襲われて慌てて走り去った。
「あっ、ちょ!アンタがいねぇと…」
さっきまで異次元にいるかのように周りが静かに感じていたのに、食堂はたくさんの人で賑わっていて騒がしく、少年の姿もない。
「…ま。思い出したなら、成仏しかねえよな」
大丈夫だろ、と無責任に呟いて央弥は講義棟へ向かうのであった。
【芽生えた好奇心 完】
[2014年6月2日(月)]
「やだ、私なんかここ気持ち悪い」
「は?何が」
仲間内で呑んで次の店を探して歩いていた時、隣を歩いていた友人が急にそんな事を言い出して、央弥は辺りを見回した。
「変に薄暗いよ、別に物陰でもないのに」
「そっか?」
立ち止まると服を雑に引っ張られて歩き出す。
「早く行こ!」
「おーい、店決まったって」
「おお」
もう一度振り返ってみても、何も感じられない。
夜なんだし、暗いのは当たり前じゃね?くらいにしか央弥は思えなかった。
しかし仲間たちと居酒屋に入るとガヤガヤとした独特の空気に、すぐそんな事は忘れ去って騒ぎを楽しんだ。
「二日酔いで頭が痛い」…と、頭の中で呟きながら目を覚ませばまだ窓の外は夜明け前で薄暗かった。
「…のど、かわいた」
ヒビの入ったコップを手に取る。
ついてきたって、見えないし感じないし、何にもならないってすぐわかるようで、"ソレ"らはこういった小さな悪戯をしてはいなくなった。
「あの人といる時だけ、なんか不思議なモンが見えるんだよな…」
明らかに生きていない元人間の姿をしたモノとか、人型の影とか。さっきの友人、大学のサークルで仲良くなったグループの一人、モモが気持ち悪いと言った場所にも、何かがいたりしたのだろうか。
辰真がいないと、他よりも不自然に薄暗いという事さえ少しもわからなかったが。
「……」
気になり始めると確かめたくなる。央弥はどうにかしてあの恐がりな先輩をあの場所へ連れて行けないものかと思案しながら、吐き気に襲われてすぐに思考はそっちへ奪われた。
次にふと意識が戻ったのは昼の1時過ぎで、予定通り午前の授業をすっかりサボった央弥は、しかし目が覚めたなら午後は出ておくかと講義を受けるために電車に乗っていた。
平日の真昼、ほとんど貸切状態の車両内で寝るのももったいなくてぼんやりと窓から外を見る。
ガタガタと車輪の音が少しうるさくなって、ふみきりを通り過ぎる瞬間に視界に花が見えた。普段は気にもしない事だが、なんとなく途中下車をしてしまう。
改札を出て、しばらく線路沿いを逆行するとそれはあった。せいぜい大型バイクまでしか通れない幅の小さな踏切だ。央弥は先ほどの記憶を頼りに花を探す。確かにあったはずだ。枯れた花束が、この足元に。
「近付くな」
食堂でその姿を見かけて話しかけに行こうとした央弥は珍しくあちらから話しかけられたのだが、その内容は上の通り、完全なる拒絶だった。
「なぁんで」
日替わり定食を食べていた手を止めて、辰真は強張った顔でいる。これは単純に嫌いな相手に対する反応ではない。
「あ、もしかして俺、2名様になってる?」
「どこに行ってきたんだ…いや、聞きたくないからやっぱり言わなくていい」
食欲が失せたと言わんばかりに口元を押さえて、近寄るなよ、と念押しして辰真はトレーを手に立ち上がる。
「立て続けに変な体験したから妙に気になって、つい自分から近寄っちゃった」
3メートルほどの距離を保ったまま、央弥は辰真の後をついて行く。
「何バカな事やってんだ。ついてくるな」
「そんな怖がんなくても、一体こいつに何ができるよ?」
今、その視線は明らかに、辰真が必死で目を逸らしているソレを見ている。
「…見えてんじゃねえか」
「アンタが近くにいる時だけな」
央弥の目には、ハッキリと自分の足に抱きついている小4くらいの男の子の姿が見えていた。右足の膝から下が無い。しかしそれ以外は特に目立った傷もなくキレイだ。
「お前、あそこからずっと付いてきてんのか?」
――僕の足どこ――
それは声ではなかった。
「知らねえし、お前の方が知ってるだろ」
首を傾げる少年に続ける。
「あの小さい踏切で、なんかあったんだろ」
その言葉の直後に少年の右顔面が醜く歪み、頭も上半身も全て、形が崩れていく。辰真は呆然とその様子を見てしまっていたが、吐き気に襲われて慌てて走り去った。
「あっ、ちょ!アンタがいねぇと…」
さっきまで異次元にいるかのように周りが静かに感じていたのに、食堂はたくさんの人で賑わっていて騒がしく、少年の姿もない。
「…ま。思い出したなら、成仏しかねえよな」
大丈夫だろ、と無責任に呟いて央弥は講義棟へ向かうのであった。
【芽生えた好奇心 完】
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる