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一緒に帰ろう
とと と とーちゃん ※R18
しおりを挟む【閑話 とと と とーちゃん】
俺の母親は売春婦。父親は薬のバイヤー……かもしれない。もしくはオショクカンリョウ、もしくはそこらのホームレス。もしかしたらちょっと前に死んだゲートの外のコインランドリーの親父かもね。
で、今。俺の面倒を見てくれてるのはセオドール・A・ブラッドレイ……シュートって呼ばれてる悪い人と、山代茶太郎っていう、普通の人。
引き鉄さえまともに引けない弱虫な、俺のとーちゃん。シュートはその彼氏?で、俺のとと。人類最強の殺人鬼……なんちゃって。
「いってきまーす!」
「待て待て」
危ないから、と言ってとーちゃんは毎日俺をゲートの内側まで送ってくれる。どうせならととがついてきた方が安全だけど、こんな時間に起きてる姿を見たことがない。
「夏休みはまだなのか?」
「あー、来週からだよ、ちょっと遅いよね」
「夏休みになったらどっか行こうか」
「え、どこどこ?」
「とりあえず都会の方かな」
驚いた。俺、生まれてこのかたスラムか法外地区――ぐちゃぐちゃの家が山積みになってる無法地帯のコトをここの人たちはそう呼んでるみたい――しか知らないから。
「都会……?」
「ああ、首都に行ってみよう。実家にゃ姉もいるんだ。もうここに来てから3年も連絡してねえから、結婚して出て行ってなければ」
子供好きだったから、喜ぶかも。そう言うとーちゃんを見つめる。知らなかった。
「とーちゃん……都会で産まれたの?」
「首都産まれ、首都育ち。なかなかのエリート大学を出て大手とまではいかねえけど、それなりの企業に就職。んで、ま……、いろいろあって今はこんなトコだ」
でも、悪くねえよ。と呟くとーちゃんはちょっと遠い目をしてて、多分、ととのコトを考えてる。恋する乙女みたいだ。俺の方が恥ずかしくなっちゃう。
「でも俺……着て行く服がない」
「買えばいいさ、どうせこの辺りじゃいいの売ってねえし、行ったついでに合う服買おう」
「いいの?」
「当たり前だろ。金はあるんだけどよ、ショットはあんなんだろ、一緒に出掛けてくれるお供が出来て嬉しいんだ」
笑うとーちゃんが"エリートサラリーマン"に見えてきた。うー。
***
「うー……」
「どうしたの?シド」
さらりと長い金髪が視界に入る。
「……新しいとーちゃんができた」
「え、よかったじゃない!」
「俺と別の世界から来たような人なんだ。どうすればいいかわかんなくて」
「むずかしいのねえ」
呑気なクラスメイトに愚痴ってみてもどうにもならない。
「ねえ、お父さんってかっこいい?」
「かっこいいよ、ととはね。でもとーちゃんはなんとなく外国の人みたいな顔をしてる」
とーちゃんだってダサくはないけど、俺的にはととの方がイケメンって言葉がしっくりくる。
「え、お父さん2人いるの?」
「恋人なんだ、男同士で。たぶん」
「えーっ!やだー!」
やだ、って言われても困るよ。俺も最初はビックリしたんだから。でも仕方ねえじゃん。子供は大人に育ててもらわなきゃ生きていけないんだから。
「エッチとかするの?」
「してたよ」
「男同士ってどうやるの?見た?」
おませなシェリー、優しさで返事をすればどんどん突っ込んでくる。俺は「知らない!」と適当に流してうつ伏せた。
「ねーねー、教えてよ」
「うるさいなぁー、ちょっとイチャイチャして、違う部屋に行っちゃったからわかんないよ」
嘘、本当は知ってる。気になって眠れなくて、部屋を覗き見た。ととととーちゃんは裸で抱き合ってて、なんかモゾモゾしてた。でもそれだけ。
噂に聞く"入れる"?みたいなことはなかった。間違いなくあれがエッチなことだったのはわかるけど、きっとシェリーが聞きたがってるモノじゃなかった。
とと達はあれからも時々夜中にその部屋に行っちゃうけど、俺が追いかけたのは最初の日だけ。
「かっこいいパパの方が男役?」
「わかんないってば……」
「ねえ、見たい」
驚いた。顔を上げると真剣な表情のシェリーがいた。
「見たい」
***
――夜。
こっそりアパートを抜け出してゲートまでシェリーを迎えに行った。半分、来ないんじゃないかって思ってたけど至って真剣にシェリーはそこにいて、クリクリの目を月の光に輝かせて立っていた。
二人でドキドキしながら危険な法外地区を駆け抜けて、音を立てないようにコインランドリーの裏手のハシゴを上った。
とーちゃんたち、どうしてるかな。ゆっくりとーちゃんの寝室の扉を開いたらそこは空っぽで、カモフラージュに膨らませてた俺の布団もそのままだった。
「……とーちゃん?」
返事もない。やっぱり"あの部屋"にいるんだ。俺はさっきよりもっとドキドキしながらシェリーの手を引いて、前に二人がエッチしてた部屋の方に近寄った。
「シド?」
「しっ」
足が止まる。声が聞こえた。とーちゃんの声だ。
――あ。あっ。あ――
苦しそうな声。シェリーを振り返って見たらもう興味津々って顔をしてた。
「ねえ近付いてみようよ」
「え、うん……」
扉の前までくると、声がもっと鮮明に聞こえてきた。
「あっ……あ、ぁ……はぁっ、あ!」
「はぁ、ちゃた……っちゃた」
思わずカッと顔が熱くなった。オスの声だ。低くて掠れてて、荒い息を吐くのと一緒に話してるような声。
俺が戸惑ってるのも無視してシェリーはドアをゆっくり開いた。
「……」
「ちょっ……!シェリー?」
「大丈夫よ、夢中で気付きそうにないわ」
手招きされて好奇心に勝てず、一緒に覗き込む。俺は心臓が飛び出るかと思った。薄暗くてあんまり分からないけど、とにかくとーちゃんがととの下に倒れてて、逃げようとするみたいな体勢で苦しんでる。
「え?え?」
「へえ……」
「へえって、何あれ、大丈夫なの?」
喧嘩しないで、と止めに入ろうかとシェリーを見ればその目は怪しく光っていた。
「大丈夫よ、ああいうものなの」
「だ、だって……!」
「あなた売春婦の子供なのに、何にも知らないのね」
「な……っなんだよ……」
もう何言ってるのかわからない。でも、なんとなくドキドキが止まらなくて、二人の様子を見続けてしまった。
「っふぁ……!あ……っ、く、あっ」
「ちゃた、きもちい?」
「無理、う……っ、そんな、余裕ねえって、は、ぁっ」
ととが動く度にとーちゃんの足がピクピク痙攣してて、逃げようとしてるのに、ととがその肩に噛み付く。
「あ、ぁあ……、はぁ……!」
とーちゃんの声はまるで泣いてるみたいに聞こえた。辛そう。どうしてそんなに我慢して、そんな変なことするの。なんか変だよ。
「っん……」
「はぁ、あ……ぅ……」
そのうちととの動きが止まって、ドサッと二人とも重なったまま倒れこむ。
「はぁっ……はぁ……」
で、イヤそうに押さえる手を無視してととはとーちゃんのお腹側に手を回した。今度は何してるんだろう?
「も……いいから、やっ、め……」
「ちゃたも」
「あ、はっ……あっ……んん……も、いいって……」
今度はそんなに苦しそうじゃないけど、やっぱり嫌そうに見える。
「ちゃた、こっち向いて」
「ふっ、う……ん、シュート……」
そしたら急に二人がキスしたから、何でか凄く恥ずかしくなって思わず声が出た。
「わっ」
「声を出さないで」
シェリーに小声で怒られつつギロリと睨まれて、慌てて手で口を押さえる。
「ん、んん……」
ととに押さえつけられるような格好のまま、とーちゃんの体がビクビクッと跳ねた。何か痛い事でもあったのかと思ってビックリする。
「っはぁ……はぁっ……!」
「よかった?ちゃた」
「はっ……この、馬鹿……」
二人は裸のまま抱き合って、しばらく息が整わないみたいだった。あんなに辛そうでそんなに疲れるのに、どうして変なことするの?今すぐ聞きたいけど、覗いてるのがバレると怒られそうで怖かった。
「……シェリー、そろそろ戻ろうよ」
「ええ、ありがとう」
何故か大満足してるシェリー。俺にはわからない。知らない、見てみたいなんて言ってたけど、何か知ってるみたいだ、女の子ってちょっと怖い。
***
「シド、あなたのお父さん2人共かっこいいじゃない」
「でもあえて言えばととの方がかっこよかったでしょ」
「ととってどっち?タチ?ネコ?」
「ネコ?」
「あら、あら、やだ、気にしないで……うふふ」
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