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第四章 永久機関・オートマタ
第四十六話 呪縛 Ⅰ
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「世迷言を言うでない小僧、お主達が一体何を作り出したのか、一体何を目覚めさせたのか分かっているのか」
「分かっているさ! 青き技術こそ俺達人種が生き残る為の希望だろ、かの技術は俺達の人知を超えたオーバーテクノロジーだ。戦争の終結こそ俺の目指す物であり終結の為には手段を選ぶ時期はとっくに過ぎてるんだよ婆さん、この三十年で一体幾つの命が無に帰した? 必用な犠牲なのは前線で戦ってる俺達兵士で十分だ、それがどうだ? 一度戦闘が始まれば俺達は抵抗する者全てを手に欠けなくちゃいけねぇ、それがあの兵器一つで相手の闘争心をへし折る事が出来る。そうすれば戦闘も起きねぇ。言わば抑止力だよ婆さん!」
シュガーの目にはこう映っていただろう、まるで何かに取り憑かれた狂信者の様だと。血走った目には正気の二文字が見て取れなかったのだ。
「驚いたぜ? 帝国が密かに研究開発していた物と「同じ物」が磁場の乱れと共に現れた時はよ、どうしても起動させることが出来なかった最後のピースが目の前で動いていたんだ、持ち帰らねぇはずはねぇよな!」
「じゃが、同じものを作ったというのであれば攻略法も分かり切ってるんじゃ。奴らなら容易く破壊するじゃろうな」
「分かってねぇな、本当に分かってねぇな婆さん。帝国の技術者共もそこまで馬鹿じゃねぇんだ、弱点なんぞとっくに対策済みだ。それも何故か老朽化していたポンコツなんかじゃ無く青き技術を贅沢に詰め込んだ最高傑作だっ!」
狂気に染まっているとシュガーは率直に感じていた。
何が彼をここまで突き動かすのか、何が此処迄させるのか彼女にはとても不思議で堪らない。冷静に考えれば停戦などいくらでも出来ようがあると思うがソレが帝国兵にはまるでないのと同じだったからだ。
いや、その実「帝国兵」と一括りにするのが間違っているのかも知れない、一部の狂信者とも言える彼等がそうさせているのか、はたまたこの突き動かされている裏の原動力がそうさせているのか。
シュガーは不思議で堪らなかった。
それでも脅威はそのまま何も変わらない、何一つ変わった訳では無かった。一度アレが動き出せば何千何万の犠牲者が出るだろうことは容易に想像が付く、何処でソレを使うか最初に稼働させるのはどこなのか聞き出さねばとシュガーは恐怖する。
「では問おうか、貴様らはアレで一体何をするつもりじゃ」
一方その頃、別行動を取っていたガズル、ギズー、ファリック達。自動二輪型移動装置を海上商業組合から調達し一路カルバリアントの西部にある荒野を走っていた。
ハンドルを握り運転をするガズル、その後ろにギズーが万が一を警戒しウィンチェスターライフルをいつでも発射できる体制で構え、サイドカーを連結させファリックが普段首にぶら下げているゴーグルをつけて走っていた。
西大陸にしては珍しい荒野、周囲からは丸見えの状態で砂埃を盛大に上げて走る三人。陽動でもある彼等は隠れることなくただ直進していた。
「なぁギズー、どう思う?」
「腑に落ちねぇってのが本音だが、こうも無事に進めるってのは有り難い事だ」
「だからこそ気に入らねぇ、こうも派手に砂埃巻き上げて走ってるのに帝国兵は疎か西大陸の人間一人だって見ねぇんだ。ファリックはどうだ、何か見えるか?」
轟音を立てながら進む彼等の周囲には人っ子一人いる気配はなかった。ソレがガズルには不気味で仕方がない。
「周囲二キロ圏内に人の気配なしだよ、不気味な程に誰もいないね」
「おいガズル、あまり言いたくはねぇんだがどう考えてもおかしいぜコレ。帝国には俺達が西大陸に入った事は既に知られてるはずだろ、蒸気機関奪取妨害の為に勢力をライン上に敷いて監視する位はあっても良いと思うがどうにも腑に落ちねぇ」
「オイラも同じ意見、一度森に入る前に作戦会議立てておこうよガズルさん」
海上商業組合から譲り受けたスコープを除きながら周囲を確認するギズーとファリックが同じ意見で告げた。
「その方がよさそうだな、半時もすれば森に入るだろうし無策のまま突っ込むのも面白くねぇ」
そう言うとガズルは右手のグリップをゆっくりと緩ませて速度を落とし始める、燃料はまだまだ当分持つであろう自動二輪型移動装置の稼働を止めた。
「そしたら一度整理しておこう、レイ達がカルバリアントで派手にドンパチやってるその隙に俺達は先に進む。目標は憶測の域を出ないが多分ジグレッドだ」
西支部で貰った簡易な地図を広げてその辺に転がっている小石で現在地と目標の場所をマーカーする、自動二輪型移動装置のお陰でかなりの距離を稼げてはいるがまだ到着には時間が掛かる。
「このまま何事も無く進むことが出来れば今夜には灼熱谷に到着するだろう、でも問題があるとすればそこなんだ。話があった通りここは千年前の魔術暴走で起きた摂氏千五百度の溶岩だまりだ。切り抜ける方法は無いから迂回するしかない。狙われるとしたらそこだろうけどルートは三つ」
「地図を見る限りだと右ルートか左ルート、はたまた海上に出るルートみたいですけど海上は無理としてどっちに行くの?」
「ファリックの言う通り海上ルートはまずありえない。自動二輪型移動装置は水陸両用では無いから左右どちらかのルートを進むしかない訳だけど右は断崖絶壁が広がる峠道。左は目の前に広がる森の中を突っ切るルート。一応今は左ルートを選択して走ってる訳だが――」
懐から煙草を取り出して着火剤で火をつけた。酸素と共に肺に煙を入れると二酸化酸素と一緒に吐き出した。咥えている煙草をギズーへと手渡しソレを受け取ったギズーが吸いながら地図を見る。
「そこがポイントだろうな、峠道を進むにしろ森の中を突っ切るにしろどちらも待ち伏せポイントとしては優秀だ。森の中なら隠れる場所は多々ある、峠道も高所を易々と取る事が出来るだろうから狙撃するには十分な場所だろ。ショットパーソルを相手にするのは正直分が悪すぎるってのが本音だな俺は」
ギズーは冷静に地図を見ながら答えていた。
「正直オイラも同じ意見、銃火器……それもショットパーソルで狙撃されたら堪ったもんじゃないよ」
「ここまで人っ子一人見てねぇのが不気味ってのはソレも含まれてると思って良い、森の中でハチの巣にされるか峠道でハチの巣にされるか。どっちみち風通しの良い体になるだろうな――それでチームの頭脳はどうするつもりだ?」
銃火器の専門家二人の意見、特に狙撃手としての腕前が確かなギズーの意見は的を得ていた。森を進めば死角が必ず存在する。それも一つや二つの話ではない。通り過ぎる木々一つ一つその全てに帝国兵が狙撃の機会をうかがっている可能性がある。また峠道を進むにしても高所を取られてしまっている可能性は十二分にあり同じく狙撃するポイントとしては可能性は大だった。
「だから困ってるんだよなぁ、運が良ければレイ達が暴れてるであろうカルバリアントに勢力を割いてくれてこっちは素通りできる……何て甘い事は考えたくは無いけどなぁ」
「おいおいおい、それが天才様の考えた素晴らしい作戦かよ」
「仕方ねぇだろ、こっちだって情報が何もねぇんだ。何か一つでも情報があれば作戦の立てようもあるけど現状情報戦じゃこっちは一方的に不利なんだぞ。爆心地に近づくにつれて通信機も役に立たなくなってきてるし」
腰のポーチから取り出したエーテルを使った通信機を取り出してレイ達や西支部との連絡を取ろうとしてチャンネルを合わせるが雑音しかしない。大量の爆心地のエーテルだまりが通信を邪魔しているのだった。
それを見てファリックが咄嗟に疑問を口にした。
「こっちが通信できないのなら相手側も情報が伝わってないんじゃない?」
「あ? 何当たり前の事を言ってんだお前」
「いやぁ……あえて迂回しようと思えば蒸気機関の西側から街道を伝っていく事も出来た訳で、ソレをあえて隠密って意味でこっち側のルートを進んで来てるんだから相手さんも兵力をそこまで分散できてないんじゃないかなぁって思ったんだ。ガズルさんの言う情報戦が物を言うのなら爆心地付近じゃ通信は出来ない訳だし、実は安全ラインなんじゃないかなぁって」
ファリックの言う事も確かに一理あった、中央程ではないがそれなりな大きさを誇る西大陸で全世界と戦争中の帝国からすれば兵力の分散は確かに痛い所、ましてや情報戦で負けるような事になるのであればそれは大敗を意味する。
「それでも少数を配置しておくことは可能だろう、何も情報伝達はこの通信機だけじゃない。のろしを上げれば良いしシフトパーソルの発砲音で合図を送る事だって可能だ」
「――一応手があると言えばあるんだけど、森林破壊になっちまうから使いたくない策ではあるんだが」
含みを持たすガズルの言葉に二人は耳を立てる、ブツブツと独り言を繰り返し空を仰いだと思えば荒野に砂粒一点を見つめていた。
「森林破壊も何も、今はそんな事言ってる場合じゃ無いだろガズル、聞くだけ聞かせろよ」
「分かった、でもその分反動もデカい作戦だから用心してくれると助かる」
そして三人は暫く自動二輪型移動装置に乗り荒野を進む、一時間程度過ぎた所で目的の森入り口まで到達していた。
「さぁ、準備を始めようか」
「本当に上手く行くんだろうな? 俺はさっきの話聞いて背筋がゾッとしてるんだが」
「……正直言うとオイラも」
ギズーはウィンチェスターライフルにアデルに仕込んで貰った炎法術弾をセットする、続いてレイに仕込んで貰った風法術弾をセットすると自動二輪型移動装置から立ち上がって森に向けて銃口を向ける。
「何時でも良いぞ」
「分かった、ギズーは合図が有ったら発射してくれ。ファリックはそうだな……仮に帝国兵の姿を見つけたら迷わず撃ってくれ」
「あい」
深く息を吸ってガズルが正面を見つめた、先程コンパスと地図を照らし合わせた結果彼等の正面を真直ぐ進むことが最短ルートであることも把握済みだった。
「んじゃぁ行くぞ、三、二、一……撃てっ!」
ギズーがトリガーを引いた瞬間、ガズルもまた同時に右手に重力球を作り出して銃口の前に添えた。弾丸は重力球を巻き込み轟音と共に発射される、人の通った道を進む弾丸は次第に重力球に飲まれて行き巨大化していく。
「二発目っ!」
ガズルの合図で次弾を発射した、重力球に向かって風法術弾が飛び込んでいくと飲み込まれていった。そこで重力球の形が変化し始めた。
「逃げるぞ、捕まってろっ!」
ガズルが自動二輪型移動装置のアクセルを右手で巻き込むと北方向へと速度を飛ばして逃げていく。
その後方、重力球は二つの法術弾を取り込み巨大化した後一瞬にして圧縮していった。
「ラスト一発っ!」
ギズーが通常の弾丸を圧縮した重力球に向かって発射する、着弾と同時に極限まで圧縮された重力球は突如として爆発を起こす。
そして――。
「うわぁっ!」「ぐっ!」「わぁぁぁぁ!」
重力球が森を扇状に炎と熱波による波状攻撃が襲う。衝撃波は円形に広がる為急いで逃げた三人にもダメージを与える結果となった。
一瞬に焦土となる熱波と炎ではなく、森林全てにまんべんなく炎が行き渡る攻撃だった。仮にこの中に人間が入たらひとたまりも無いだろう。最初の衝撃波と熱波で意識は絶たれ、その間に数百度にもわたる炎で焼き尽くされる。
「いっててて……エグイねコレ」
「あぁ、話を聞いた時にも思ったがゾッとするな」
「だから方法が無いわけじゃ無いと言ったんだ、でもやりたくない理由は自然破壊云々じゃ無くて――」
自動二輪型移動装置に乗っていた三人は見事に吹き飛ばされて荒野に投げ出されていた。
「これがあまりにもみっともないからだ」
「分かっているさ! 青き技術こそ俺達人種が生き残る為の希望だろ、かの技術は俺達の人知を超えたオーバーテクノロジーだ。戦争の終結こそ俺の目指す物であり終結の為には手段を選ぶ時期はとっくに過ぎてるんだよ婆さん、この三十年で一体幾つの命が無に帰した? 必用な犠牲なのは前線で戦ってる俺達兵士で十分だ、それがどうだ? 一度戦闘が始まれば俺達は抵抗する者全てを手に欠けなくちゃいけねぇ、それがあの兵器一つで相手の闘争心をへし折る事が出来る。そうすれば戦闘も起きねぇ。言わば抑止力だよ婆さん!」
シュガーの目にはこう映っていただろう、まるで何かに取り憑かれた狂信者の様だと。血走った目には正気の二文字が見て取れなかったのだ。
「驚いたぜ? 帝国が密かに研究開発していた物と「同じ物」が磁場の乱れと共に現れた時はよ、どうしても起動させることが出来なかった最後のピースが目の前で動いていたんだ、持ち帰らねぇはずはねぇよな!」
「じゃが、同じものを作ったというのであれば攻略法も分かり切ってるんじゃ。奴らなら容易く破壊するじゃろうな」
「分かってねぇな、本当に分かってねぇな婆さん。帝国の技術者共もそこまで馬鹿じゃねぇんだ、弱点なんぞとっくに対策済みだ。それも何故か老朽化していたポンコツなんかじゃ無く青き技術を贅沢に詰め込んだ最高傑作だっ!」
狂気に染まっているとシュガーは率直に感じていた。
何が彼をここまで突き動かすのか、何が此処迄させるのか彼女にはとても不思議で堪らない。冷静に考えれば停戦などいくらでも出来ようがあると思うがソレが帝国兵にはまるでないのと同じだったからだ。
いや、その実「帝国兵」と一括りにするのが間違っているのかも知れない、一部の狂信者とも言える彼等がそうさせているのか、はたまたこの突き動かされている裏の原動力がそうさせているのか。
シュガーは不思議で堪らなかった。
それでも脅威はそのまま何も変わらない、何一つ変わった訳では無かった。一度アレが動き出せば何千何万の犠牲者が出るだろうことは容易に想像が付く、何処でソレを使うか最初に稼働させるのはどこなのか聞き出さねばとシュガーは恐怖する。
「では問おうか、貴様らはアレで一体何をするつもりじゃ」
一方その頃、別行動を取っていたガズル、ギズー、ファリック達。自動二輪型移動装置を海上商業組合から調達し一路カルバリアントの西部にある荒野を走っていた。
ハンドルを握り運転をするガズル、その後ろにギズーが万が一を警戒しウィンチェスターライフルをいつでも発射できる体制で構え、サイドカーを連結させファリックが普段首にぶら下げているゴーグルをつけて走っていた。
西大陸にしては珍しい荒野、周囲からは丸見えの状態で砂埃を盛大に上げて走る三人。陽動でもある彼等は隠れることなくただ直進していた。
「なぁギズー、どう思う?」
「腑に落ちねぇってのが本音だが、こうも無事に進めるってのは有り難い事だ」
「だからこそ気に入らねぇ、こうも派手に砂埃巻き上げて走ってるのに帝国兵は疎か西大陸の人間一人だって見ねぇんだ。ファリックはどうだ、何か見えるか?」
轟音を立てながら進む彼等の周囲には人っ子一人いる気配はなかった。ソレがガズルには不気味で仕方がない。
「周囲二キロ圏内に人の気配なしだよ、不気味な程に誰もいないね」
「おいガズル、あまり言いたくはねぇんだがどう考えてもおかしいぜコレ。帝国には俺達が西大陸に入った事は既に知られてるはずだろ、蒸気機関奪取妨害の為に勢力をライン上に敷いて監視する位はあっても良いと思うがどうにも腑に落ちねぇ」
「オイラも同じ意見、一度森に入る前に作戦会議立てておこうよガズルさん」
海上商業組合から譲り受けたスコープを除きながら周囲を確認するギズーとファリックが同じ意見で告げた。
「その方がよさそうだな、半時もすれば森に入るだろうし無策のまま突っ込むのも面白くねぇ」
そう言うとガズルは右手のグリップをゆっくりと緩ませて速度を落とし始める、燃料はまだまだ当分持つであろう自動二輪型移動装置の稼働を止めた。
「そしたら一度整理しておこう、レイ達がカルバリアントで派手にドンパチやってるその隙に俺達は先に進む。目標は憶測の域を出ないが多分ジグレッドだ」
西支部で貰った簡易な地図を広げてその辺に転がっている小石で現在地と目標の場所をマーカーする、自動二輪型移動装置のお陰でかなりの距離を稼げてはいるがまだ到着には時間が掛かる。
「このまま何事も無く進むことが出来れば今夜には灼熱谷に到着するだろう、でも問題があるとすればそこなんだ。話があった通りここは千年前の魔術暴走で起きた摂氏千五百度の溶岩だまりだ。切り抜ける方法は無いから迂回するしかない。狙われるとしたらそこだろうけどルートは三つ」
「地図を見る限りだと右ルートか左ルート、はたまた海上に出るルートみたいですけど海上は無理としてどっちに行くの?」
「ファリックの言う通り海上ルートはまずありえない。自動二輪型移動装置は水陸両用では無いから左右どちらかのルートを進むしかない訳だけど右は断崖絶壁が広がる峠道。左は目の前に広がる森の中を突っ切るルート。一応今は左ルートを選択して走ってる訳だが――」
懐から煙草を取り出して着火剤で火をつけた。酸素と共に肺に煙を入れると二酸化酸素と一緒に吐き出した。咥えている煙草をギズーへと手渡しソレを受け取ったギズーが吸いながら地図を見る。
「そこがポイントだろうな、峠道を進むにしろ森の中を突っ切るにしろどちらも待ち伏せポイントとしては優秀だ。森の中なら隠れる場所は多々ある、峠道も高所を易々と取る事が出来るだろうから狙撃するには十分な場所だろ。ショットパーソルを相手にするのは正直分が悪すぎるってのが本音だな俺は」
ギズーは冷静に地図を見ながら答えていた。
「正直オイラも同じ意見、銃火器……それもショットパーソルで狙撃されたら堪ったもんじゃないよ」
「ここまで人っ子一人見てねぇのが不気味ってのはソレも含まれてると思って良い、森の中でハチの巣にされるか峠道でハチの巣にされるか。どっちみち風通しの良い体になるだろうな――それでチームの頭脳はどうするつもりだ?」
銃火器の専門家二人の意見、特に狙撃手としての腕前が確かなギズーの意見は的を得ていた。森を進めば死角が必ず存在する。それも一つや二つの話ではない。通り過ぎる木々一つ一つその全てに帝国兵が狙撃の機会をうかがっている可能性がある。また峠道を進むにしても高所を取られてしまっている可能性は十二分にあり同じく狙撃するポイントとしては可能性は大だった。
「だから困ってるんだよなぁ、運が良ければレイ達が暴れてるであろうカルバリアントに勢力を割いてくれてこっちは素通りできる……何て甘い事は考えたくは無いけどなぁ」
「おいおいおい、それが天才様の考えた素晴らしい作戦かよ」
「仕方ねぇだろ、こっちだって情報が何もねぇんだ。何か一つでも情報があれば作戦の立てようもあるけど現状情報戦じゃこっちは一方的に不利なんだぞ。爆心地に近づくにつれて通信機も役に立たなくなってきてるし」
腰のポーチから取り出したエーテルを使った通信機を取り出してレイ達や西支部との連絡を取ろうとしてチャンネルを合わせるが雑音しかしない。大量の爆心地のエーテルだまりが通信を邪魔しているのだった。
それを見てファリックが咄嗟に疑問を口にした。
「こっちが通信できないのなら相手側も情報が伝わってないんじゃない?」
「あ? 何当たり前の事を言ってんだお前」
「いやぁ……あえて迂回しようと思えば蒸気機関の西側から街道を伝っていく事も出来た訳で、ソレをあえて隠密って意味でこっち側のルートを進んで来てるんだから相手さんも兵力をそこまで分散できてないんじゃないかなぁって思ったんだ。ガズルさんの言う情報戦が物を言うのなら爆心地付近じゃ通信は出来ない訳だし、実は安全ラインなんじゃないかなぁって」
ファリックの言う事も確かに一理あった、中央程ではないがそれなりな大きさを誇る西大陸で全世界と戦争中の帝国からすれば兵力の分散は確かに痛い所、ましてや情報戦で負けるような事になるのであればそれは大敗を意味する。
「それでも少数を配置しておくことは可能だろう、何も情報伝達はこの通信機だけじゃない。のろしを上げれば良いしシフトパーソルの発砲音で合図を送る事だって可能だ」
「――一応手があると言えばあるんだけど、森林破壊になっちまうから使いたくない策ではあるんだが」
含みを持たすガズルの言葉に二人は耳を立てる、ブツブツと独り言を繰り返し空を仰いだと思えば荒野に砂粒一点を見つめていた。
「森林破壊も何も、今はそんな事言ってる場合じゃ無いだろガズル、聞くだけ聞かせろよ」
「分かった、でもその分反動もデカい作戦だから用心してくれると助かる」
そして三人は暫く自動二輪型移動装置に乗り荒野を進む、一時間程度過ぎた所で目的の森入り口まで到達していた。
「さぁ、準備を始めようか」
「本当に上手く行くんだろうな? 俺はさっきの話聞いて背筋がゾッとしてるんだが」
「……正直言うとオイラも」
ギズーはウィンチェスターライフルにアデルに仕込んで貰った炎法術弾をセットする、続いてレイに仕込んで貰った風法術弾をセットすると自動二輪型移動装置から立ち上がって森に向けて銃口を向ける。
「何時でも良いぞ」
「分かった、ギズーは合図が有ったら発射してくれ。ファリックはそうだな……仮に帝国兵の姿を見つけたら迷わず撃ってくれ」
「あい」
深く息を吸ってガズルが正面を見つめた、先程コンパスと地図を照らし合わせた結果彼等の正面を真直ぐ進むことが最短ルートであることも把握済みだった。
「んじゃぁ行くぞ、三、二、一……撃てっ!」
ギズーがトリガーを引いた瞬間、ガズルもまた同時に右手に重力球を作り出して銃口の前に添えた。弾丸は重力球を巻き込み轟音と共に発射される、人の通った道を進む弾丸は次第に重力球に飲まれて行き巨大化していく。
「二発目っ!」
ガズルの合図で次弾を発射した、重力球に向かって風法術弾が飛び込んでいくと飲み込まれていった。そこで重力球の形が変化し始めた。
「逃げるぞ、捕まってろっ!」
ガズルが自動二輪型移動装置のアクセルを右手で巻き込むと北方向へと速度を飛ばして逃げていく。
その後方、重力球は二つの法術弾を取り込み巨大化した後一瞬にして圧縮していった。
「ラスト一発っ!」
ギズーが通常の弾丸を圧縮した重力球に向かって発射する、着弾と同時に極限まで圧縮された重力球は突如として爆発を起こす。
そして――。
「うわぁっ!」「ぐっ!」「わぁぁぁぁ!」
重力球が森を扇状に炎と熱波による波状攻撃が襲う。衝撃波は円形に広がる為急いで逃げた三人にもダメージを与える結果となった。
一瞬に焦土となる熱波と炎ではなく、森林全てにまんべんなく炎が行き渡る攻撃だった。仮にこの中に人間が入たらひとたまりも無いだろう。最初の衝撃波と熱波で意識は絶たれ、その間に数百度にもわたる炎で焼き尽くされる。
「いっててて……エグイねコレ」
「あぁ、話を聞いた時にも思ったがゾッとするな」
「だから方法が無いわけじゃ無いと言ったんだ、でもやりたくない理由は自然破壊云々じゃ無くて――」
自動二輪型移動装置に乗っていた三人は見事に吹き飛ばされて荒野に投げ出されていた。
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