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第四章 永久機関・オートマタ

第四十四話 人ならざる者 Ⅱ

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「答えろ、帝国は一体何をしている」

 握っていたハルバードに足を掛けて、一度捻ってダルの手から引きはがすと遠くへと蹴り飛ばした。これで獲物が無くなったダルは完全に満身創痍になり痺れる唇を徐々に動かし始めた。

「――五年前の事だ、帝国本土で見た恐ろしい実験の数々があった」
「実験だ?」

 アデルがゆっくりとグルブエレスをダルの体から下げると彼は語り始めた。

「星の生存を掛けた実験だ。貴様らが対峙しているのはこの星の救世主でもある」
「だから何を言ってる、テメェら帝国がしてきたことがこの星の何だというんだ。テメェらのしてる事はただの大量虐殺じゃねぇか」
「無知と言うのは怖いな黒衣の、実験は成功を治めその末端が動き始めている」

 アデルには満身創痍のダルの口から出てくる言葉が理解できなかった。何を話し始めたのか、何を語っているのかが理解できない。大事な所だけが抜け落ちる様に語るダルに若干の苛立ちが見え始める。

「能書きはどうでも良い、結論を言え。実験って何だ? テメェら帝国は一体何をしてるっ!」

 再びグルブエレスをダルの喉元に突き立てると捲し立てる様にそう叫んだ。

「貴様もその内理解するはずだ、この星で起きた過去の事を知ってる我等なら分かるはずだっ!」
「だから、何だってんだ!」
「貴様も戦ったはずだ、あの恐ろしい生物と戦っただろう」
「この野郎、遠回しにアレコレと――」

 そこでハッとした、半年前何があったのかを。

「――てめぇ、アレが何か知ってるのか!」
「気を付けろよ黒衣の、この先は地獄になるぞ。あのお方・・・・の実験がいよいよ成果を出すのだ」

 ダルは微笑んでいた、いや。笑っていた。
 狂気に満ちた笑顔で大きく笑いだしていた、アデルはその表情に恐怖を覚え一歩足を後ろへと引いていた。

「我等祖国の実験こそ人類の救済っ! 我等生命体の存続を賭けた実験なのだっ!」
「――この」
「教えてやろう、そして知るがいいっ! 我らが祖国は――」

 そこまで言うとダルの頭が吹き飛んだ。ほぼ同時に銃声が聞こえ後ろを振り返る。

「おしゃべりが過ぎるねぇ、ダルさん」

 アデルはゾッとした。
 居ないでくれと心の中で願っていた相手がそこに居た。
 今は対峙するべきではない相手がそこに居た。

 曰く今の彼等では確実に戦う事を避けるべき相手がそこに居た・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「マイク・ガンガゾンっ!」
「確かギズーの友達ごっこをしてるアデルとか言ったっけ君、世の中には知らなくて良い事もあるんだよ」
「勿体ぶりな野郎が折角言葉にしようとしてた矢先だったんだ、俺はテメェでも構わねぇぞマイク!」
「イキるなよ坊や――でも折角だ、ちょっとしたヒントだけは教えてあげるよ」

 構えていたシフトパーソルをゆっくりと下げ、ホルスターに納めると両手を広げてニコっと笑い出した。

「大いなる封印は近い内に解かれる、そこの勘違いしていた肉ダルマのいう事は気にしなくていいよ」
「テメェも何言って――」
「真実を知りたかったら本土迄おいでよ、そこに君が知りたい答えがあるよ」

 視界にとらえていたはずのマイクの姿が一瞬にして消え、アデルの腹部に激痛が走り目の前が真っ白になった。

「ある意味生命の救済だよ黒衣の焔、生と言う地獄からの解放なんだ」



 一連の出来事を遠くから見ていたミラは我が目を疑った。何処からともなく現れたマイク・ガンガゾン、感知する事の出来ない速度で移動してきたのか、はたまたもとよりそこに居たのか分からなかった。そしてアデルが一撃の元倒れてしまった事。

「そんな、一体どこから――」
「そんなに怯えることも無いだろう少年」

 後ろから聞こえた声に咄嗟に反応する、振り返り槍を構えるとそこに居るはずのない者が立っていた。

「あり得ないっ!」
「あえり得ない事は無い、現実はこの通りだよ少年」

 遠目で見ていたアデルとマイクのやり取り、確かにそこに居た。
 ミラの前にはアデルを抱えたマイクの姿があった、一体どのようにしてこの場所まで来たのか。どうやって移動したのか全く分からない。確かに今し方迄この目でこの二人のやり取りを見ていたはずなのに。

「君の報告も聞いているよミラ・メーベ。君達の中じゃ一番の法術使いだという話じゃないか」

 握る槍が震える、膝が言う事を聞いてくれない。得体の知れない恐怖がミラを襲い動けなくしていた。決して精神寒波による障害では無い事を釈明しておく。

 ただの恐怖、ソレだけがミラの体の自由を奪っていた。

「化物っ!」
「よく言われる」

 左脇に抱えていたアデルを床に落とすとホルスターからシフトパーソルを引き抜いてミラに標準を合わせる。ただ銃口を突き付けられているのであればこれ程怯えることも無いミラだったが、今は心の底から震えていた。恐ろしいまでの実力差で突き付けられた銃口はこれ程までに脅威であるのかと。

「今君達を生かしておく必要は正直無い、この場で消しておいた方が賢明だと思うんだよね」

 その声はとても歓喜に満ちていた。その表情は狂気で染まっていた。向けられる殺気に抗う術が無いミラは為す統べなくただ槍を構えているだけだった。

「さようなら――ミラ・メーベ」
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