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第二章 神苑の瑠璃 後編
第二十一話 神苑の瑠璃 ―紅の大地― Ⅰ
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近隣の街にて馬を調達した五人、夜通し馬を走らせて封印の洞窟へと急いでいた。
封印の洞窟はカルナックの家から馬で五日程、帝国本部から部隊を率いているという情報から徒歩と推測するに三週間は掛かる。帝国が動き出したと情報をキャッチしたのは今から二週間と数日前、ギリギリ同着かレイ達が少し遅れて到着するような日数だった。
しかし初日に夜通し走ったお蔭で時間の短縮は出来ただろう、このままのペースで走っていくべきなのだろうがそれでは馬が疲弊しきってしまう。なので二日目の夜は野宿をして馬共々一緒に休むことになった。
野宿と言ってもキャンプと言っても過言ではないかもしれない。カルナックの荷物の中にテントが幾つか用意されている。それと同時にこの寒い冬の時期に外で寝泊まりをすることを考えたカルナックはとっておきをカバンから取り出した。それは何時しか見た陽光石だ、それもかなり純度の高い陽光石で一週間は使い続けても壊れない代物である。
しかし彼らはもはや驚くことはなかった、レイ達四人はもうカルナックが何を取り出しても驚くだけ疲れると知っていた。貴重品や骨董品等々様々な希少アイテムを所持するカルナックにその都度突っ込みをするのも野暮な話である。
再び雪が舞い始める、レイ達にとって今年三回目の雪だ。帝国軍の拠点がある北部に行けば積雪量も増えたりするがここ南部で大量な降雪はあまり記憶にない。温暖な南部では年に一度雪が降れば珍しいとも言われる、今年の冬は何か特別に寒い気もする。それは五人が感じていることでもある。雪は夜通し降り続き積雪は観測史上最高を記録した。
三日目の朝、最初にテントを出たのはレイだった。辺り一面銀世界だった昨夜から引き続き驚いたのはその積雪量だった。膝下まで積もった雪はレイの瞳には異常事態ともとれる程に見えていた。
先ほども述べたがこれ程の降雪量はこの地方にしては珍しい、まして南部の平地でこれ程ともなれば北部は一体どうなっているだろうと考えてしまっていた。
続いて出てきたアデルも同じように驚く、だがこの積雪が彼らの足を止める結果となってしまう。昨夜まではそれほど積もっていなかったからこそ馬で駆け抜けてくることが出来たがこれでは馬はもう走れない。ショートカットするために山を越えようとした事が裏目に出てしまった。急いでカルナックのテントに向かい外を見る様に促す、するとカルナックは表情を曇らせてしまった。
「困りましたね、これでは馬は使えません」
試しに積もった雪を踏みつけてみる、ずっぽりと足が埋まるほど柔らかい雪だった。やはりここから先馬で移動することは適わない。まだ山頂付近、下手に下りれば雪崩も引き起こす可能性も出てくる。困り果てたカルナックは懐から煙草を取り出して指で火をつけた。
それを見たアデルがカルナックに自分の分もとすり寄ってくる、思えばレイと出会ってからずっと吸っていなかった煙草に我慢が出来なかったようだ。しかしカルナックはそれを拒んだ。子供が吸っていいものではないと説教じみた事を言いながら自分はプカプカと煙を吐き出している。それがアデルは悔しくて仕方がなかった。
しかめっ面で悩んでいるところにレイが一つ提案をする。それは以前に一度だけ使ったスカイワーズ使用の提案だ。人数分は無いものの一台につき二人までなら乗ることが出来る。それは以前にメルと山を滑空した時に実証済みだ。すっかり忘れていた存在を思い出して準備をする。その間朝食の支度を整えて調理を始める。
食事が出来た処でレイの作業も完了した、試作機含めて三台が運用可能であることが分かった。これで五人ギリギリ山を下りることが出来る。乗り合いはこうだ、レイとアデルで一台、ガズルとギズーで一台、そしてカルナックで一台の計三台。食事を終えると馬を放してテントを片づけ始める、忘れ物等が無い事を確認した後それぞれスカイワーズに捕まって各自その場を飛んだ。
初段ブースターで空高く浮かび上がるとそのまま滑空を始める、先頭にレイ達、二番目にガズル達がきて最後にカルナックのスカイワーズが飛んでいる。その速度は以前のソレとはかけ離れたスピードを誇る。馬と同じかそれ以上の速度で滑空をし三十秒後に二番目のブースターが火を噴く。初段ブースターで上昇した距離よりも遥かに高く飛び上がった。
「あーあー、聞こえますか?」
突然耳元でカルナックの声が聞こえた、彼等五人の耳には小さなプラスチックが挟まっている。これもカルナックが持ち合わせていた骨董品の一つだ。古代の技術で作られた通信機器でエーテルを媒体とする。エネルギーもその装着者のエーテルを養分に起動するが、座れる量は微々たる量だ。だがこの中で一人だけ聞こえない少年がいる。ギズーである、彼はエーテルを持ち合わせていない。カルナックとは逆に一切エーテルを持たずに生まれてくる人間もいる、これは一年に百人いるかどうかだがカルナックの様に異常な性質ではない。その為ギズーの代わりに一緒に滑空してるガズルが全体の声を伝える。
「聞こえますよ先生、こちらは感度良好です」
最初に渡された時は何だろうと思った四人だが、その効果には驚きが隠せない。通信範囲は然程大きくないが半径十キロ程度なら届く古代の遺産だという割には保存状態が極めて良好なところも驚かされる一つでもある。
「結構です、目の前の小さな山を越えればあとは平坦な道のりです。この速度なら明日のお昼には到着するでしょう」
意外と近いところにあるのだと四人は考えたが、発見されてから幾年。噂が広がりいつしか人が立ち寄らない場所になっていた為人が立ち寄らない場所がどうなっているかを知る。眼下に広がる白銀の世界だが人が通れるような道などあまりない、獣道と化したそれらは必然と人間を遠ざける。故に秘境となることが多い。ここもその一つと言える。中央大陸南部の最東端、手前に広がる山々によって塞がれた天然の要塞が更に人々を遠ざける。その結果が此処だ。
封印の洞窟はカルナックの家から馬で五日程、帝国本部から部隊を率いているという情報から徒歩と推測するに三週間は掛かる。帝国が動き出したと情報をキャッチしたのは今から二週間と数日前、ギリギリ同着かレイ達が少し遅れて到着するような日数だった。
しかし初日に夜通し走ったお蔭で時間の短縮は出来ただろう、このままのペースで走っていくべきなのだろうがそれでは馬が疲弊しきってしまう。なので二日目の夜は野宿をして馬共々一緒に休むことになった。
野宿と言ってもキャンプと言っても過言ではないかもしれない。カルナックの荷物の中にテントが幾つか用意されている。それと同時にこの寒い冬の時期に外で寝泊まりをすることを考えたカルナックはとっておきをカバンから取り出した。それは何時しか見た陽光石だ、それもかなり純度の高い陽光石で一週間は使い続けても壊れない代物である。
しかし彼らはもはや驚くことはなかった、レイ達四人はもうカルナックが何を取り出しても驚くだけ疲れると知っていた。貴重品や骨董品等々様々な希少アイテムを所持するカルナックにその都度突っ込みをするのも野暮な話である。
再び雪が舞い始める、レイ達にとって今年三回目の雪だ。帝国軍の拠点がある北部に行けば積雪量も増えたりするがここ南部で大量な降雪はあまり記憶にない。温暖な南部では年に一度雪が降れば珍しいとも言われる、今年の冬は何か特別に寒い気もする。それは五人が感じていることでもある。雪は夜通し降り続き積雪は観測史上最高を記録した。
三日目の朝、最初にテントを出たのはレイだった。辺り一面銀世界だった昨夜から引き続き驚いたのはその積雪量だった。膝下まで積もった雪はレイの瞳には異常事態ともとれる程に見えていた。
先ほども述べたがこれ程の降雪量はこの地方にしては珍しい、まして南部の平地でこれ程ともなれば北部は一体どうなっているだろうと考えてしまっていた。
続いて出てきたアデルも同じように驚く、だがこの積雪が彼らの足を止める結果となってしまう。昨夜まではそれほど積もっていなかったからこそ馬で駆け抜けてくることが出来たがこれでは馬はもう走れない。ショートカットするために山を越えようとした事が裏目に出てしまった。急いでカルナックのテントに向かい外を見る様に促す、するとカルナックは表情を曇らせてしまった。
「困りましたね、これでは馬は使えません」
試しに積もった雪を踏みつけてみる、ずっぽりと足が埋まるほど柔らかい雪だった。やはりここから先馬で移動することは適わない。まだ山頂付近、下手に下りれば雪崩も引き起こす可能性も出てくる。困り果てたカルナックは懐から煙草を取り出して指で火をつけた。
それを見たアデルがカルナックに自分の分もとすり寄ってくる、思えばレイと出会ってからずっと吸っていなかった煙草に我慢が出来なかったようだ。しかしカルナックはそれを拒んだ。子供が吸っていいものではないと説教じみた事を言いながら自分はプカプカと煙を吐き出している。それがアデルは悔しくて仕方がなかった。
しかめっ面で悩んでいるところにレイが一つ提案をする。それは以前に一度だけ使ったスカイワーズ使用の提案だ。人数分は無いものの一台につき二人までなら乗ることが出来る。それは以前にメルと山を滑空した時に実証済みだ。すっかり忘れていた存在を思い出して準備をする。その間朝食の支度を整えて調理を始める。
食事が出来た処でレイの作業も完了した、試作機含めて三台が運用可能であることが分かった。これで五人ギリギリ山を下りることが出来る。乗り合いはこうだ、レイとアデルで一台、ガズルとギズーで一台、そしてカルナックで一台の計三台。食事を終えると馬を放してテントを片づけ始める、忘れ物等が無い事を確認した後それぞれスカイワーズに捕まって各自その場を飛んだ。
初段ブースターで空高く浮かび上がるとそのまま滑空を始める、先頭にレイ達、二番目にガズル達がきて最後にカルナックのスカイワーズが飛んでいる。その速度は以前のソレとはかけ離れたスピードを誇る。馬と同じかそれ以上の速度で滑空をし三十秒後に二番目のブースターが火を噴く。初段ブースターで上昇した距離よりも遥かに高く飛び上がった。
「あーあー、聞こえますか?」
突然耳元でカルナックの声が聞こえた、彼等五人の耳には小さなプラスチックが挟まっている。これもカルナックが持ち合わせていた骨董品の一つだ。古代の技術で作られた通信機器でエーテルを媒体とする。エネルギーもその装着者のエーテルを養分に起動するが、座れる量は微々たる量だ。だがこの中で一人だけ聞こえない少年がいる。ギズーである、彼はエーテルを持ち合わせていない。カルナックとは逆に一切エーテルを持たずに生まれてくる人間もいる、これは一年に百人いるかどうかだがカルナックの様に異常な性質ではない。その為ギズーの代わりに一緒に滑空してるガズルが全体の声を伝える。
「聞こえますよ先生、こちらは感度良好です」
最初に渡された時は何だろうと思った四人だが、その効果には驚きが隠せない。通信範囲は然程大きくないが半径十キロ程度なら届く古代の遺産だという割には保存状態が極めて良好なところも驚かされる一つでもある。
「結構です、目の前の小さな山を越えればあとは平坦な道のりです。この速度なら明日のお昼には到着するでしょう」
意外と近いところにあるのだと四人は考えたが、発見されてから幾年。噂が広がりいつしか人が立ち寄らない場所になっていた為人が立ち寄らない場所がどうなっているかを知る。眼下に広がる白銀の世界だが人が通れるような道などあまりない、獣道と化したそれらは必然と人間を遠ざける。故に秘境となることが多い。ここもその一つと言える。中央大陸南部の最東端、手前に広がる山々によって塞がれた天然の要塞が更に人々を遠ざける。その結果が此処だ。
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