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第二章 神苑の瑠璃 後編
第十九話 剣聖結界 ―奥義伝承― Ⅲ
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「氷雪剣聖結界」「炎帝剣聖結界」
外へと連れてこられたレイとアデルはそれぞれ今回習得した剣聖結界を披露する、カルナックの目の前で互いに発動させて見せた。
外見の変化はそれぞれこうだ。レイの見た目はほぼ変わらずだが足元から冷気が放出されている、周りの雪はそれに冷やされて即座に凍り付く。変わってアデル、こちらは腰まで長い真っ黒な髪の毛が真っ赤に染まり瞳の色も赤く染まる。足元からは炎が噴き出して周りの雪を一瞬で溶かした。
それぞれの剣聖結界は準ずるエレメントによって体の一部の色素が変わるのが特徴である、炎であればそれらは赤く染まり、氷は青く染まる。また、風は緑に染まり雷は金色へと変化する。土に関しては黒く変化するが、多分これが一番変化がないと言える。というのも中央大陸では黒髪と黒の瞳を持つ人間が多数存在するからである。それぞれの効果については以前述べた通りであるが、その中でも炎帝剣聖結界は攻撃に特化している。
カルナックの弟子達三人はいずれもコレを習得している。レイヴンは炎帝剣聖結界、シトラは氷雪剣聖結界、フィリップは雷光剣聖結界である。ここで気になるのがカルナックが保有しているエレメントであるが、元々カルナックは特殊な性質を持ち合わせており全てのエレメントと対話ができる。それ故についた二つ名がエレメンタルマスターである。そこに剣術に最も優れている称号の剣聖を持ち合わせているため現存の人類最強と謳われる。全てのエレメントと対話出来る者は数百年に一度の割合で生まれてくると言われている、特殊な存在であることは間違いないのだが前例はある。
話を戻そう、レイとアデルがそれぞれ剣聖結界を発動させたのを見てカルナックが頷く。だがアデルはやはりものの五秒程度でその効果が切れてしまった。片膝をついて息を切らすアデルを横目にレイはしっかりとその効果を継続刺せている。
「上出来です、アデルはもっとコントロールを身につけないといけませんね。そんな調子ではすぐにエーテルが空になりますよ」
「ば……場数を踏むさ」
深呼吸をしながらゆっくりと立ち上がると一つため息を零した。カルナックは無情にもそれをニッコリと笑顔で見ていた。
「上等です、レイ君も有難う御座います」
レイがゆっくりと剣聖結界を解くとアデルに肩を貸して担ぎ上げる。
「次にまだ教えていなかった抜刀術をお見せしますね」
ゆっくりと三人は森の入り口まで歩き無事だった太い木を見つける。二人はカルナックの後ろに立ちその抜刀術をしかと記憶する。
「以前アデルには教えた五連続抜刀は覚えていますね? それの続きとなる六発目の抜刀術です。炎帝剣聖結界を前提とした技となりますので使える機会はほんの一握り、それも一瞬です。それを逃がしてしまえば放つことは今のアデルには困難でしょう」
「アレの続きがあるのかよ、五連続だって過去一回しか成功したことないのに無茶言うなよおやっさん」
アデルが絶望にも似た野次を飛ばした、だがカルナックは相変わらず笑顔のままだった。首を捻ってアデルを見た。
「大丈夫ですよアデル、今のあなたなら五連続まではきっと簡単に出来ます。それだけ成長しているのですから自信を持ちなさい」
そう言って再び前を向く、その瞬間辺りに緊張が走った。ズッシリと重い空気が辺り一面に張り巡らされているのが分かる。後ろの二人は同時に唾をのむ。ゆっくりとカルナックが左手に構える刀を少しだけ後ろに下げて姿勢を低くとった。
「一つ」
始まった、カルナック流抜刀術の神髄ともいえる神速六連撃。右手で刀を鞘から引き抜くと左斜め下から右上へと大木に一本の切れ目が入る。
「二つ」
瞬時に納刀するとすかさず二撃目が走る。今度は縦と横にそれぞれ二本の切れ目が走る。だが普通に二発の斬撃を撃ったわけではない、横に一閃入れた後一度納刀しているのだ。抜刀するときの速度を利用した高速の連続攻撃。そう、二撃目からは斬撃が一本ずつ増える。その調子でまた納刀する。
「三つ」
此処から並の人間では放てない領域へと進む、一秒の間に三回抜刀を行い三回納刀を行う。まさに神速という名にふさわしい速度だった。レイはそれに目が追い付ていない。アデルはまだその速度を追うことが出来る。大木が人間であればこの三発目は膝下を切り落とし、右下から左上に刀がすり抜け、最後の一撃で首を跳ねる。だがまだ止まらない。
「四つ」
カルナックの姿が消えた、アデルにはまだ見えている。大木の横をすれ違うと同時に横に一閃を放つ。後ろに回り込んだカルナックは次に右腕の部分、さらに左腕の部分。そしてまた元の位置に戻るために反対側の横を通り過ぎるともう一度一閃を叩きこむ。この時点で大木はまだ倒れていない、ズリズリと刀が走った線に沿ってパーツに分解された部分が崩れ落ちそうになるがそれをこの四つ目が襲う。
「五つ」
すでに人間であればこの時点で少なくとも十個のパーツに分解されている、その時間僅か五秒。炎帝剣聖結界を使わずに撃てるのが此処までと言われている。今度は上下左右、そして斜めにそれぞれ斬撃を飛ばすのがこの五発目だ。そして最後に刀を下から思いっきり切り上げる。間違いなくこの時点で絶命しているだろう、だがその更にもう一つ。これより先はアデルには未知の領域となる。
「炎帝剣聖結界」「炎帝剣聖結界」
アデルとカルナックが同時に発動させた、何故アデルが剣聖結界を発動させたのか。それは五つ目の連撃を視界でとらえるのがギリギリだったからである。それ以降は未知の領域、無意識に自身の身体能力と動体視力を上げる為に発動させていた。そしてアデルは目撃した、カルナックが抜刀した瞬間に同時に見える六つの剣線を。間違いなく残像である、それも質量を伴った。
あまりにも早すぎる同時攻撃。円を描くように一点へと集まるその斬撃にアデルは震えた。我が目を疑ってしまった、今まで教えられてきた技はこれを放つ為のいわば準備運動である。五つ目までを使いこなせなければその先にある六つの斬撃を放つことなんて到底不可能。それまではただの連続攻撃であったがこれは違った。アデルの目にははっきりと映し出されている、これは同時多段攻撃であると。
万が一、五発目で仕留めきれなくとも六発目で確実に殺せるだろう。考えても見てほしい、六方向から飛んでくる同時の刃をどう防げようか? また避け様にもそれまでの攻撃で四肢欠損を追っている可能性が高い。避けられる筈がないのだ。まさに必殺、その名にふさわしい攻撃だった。カルナックの一連の動作が終了し納刀後に斬撃音が耳に届く。剣激は音を置き去りにした。
「おやっさん、その技の名前は?」
まだアデルの体が震えている。大木が大きな音を立てて崩れ、低い姿勢を取っていたカルナックがゆっくりと姿勢を戻すと後ろを振り返る。
「六幻です、頑張ってくださいねアデル」
ニッコリと笑顔でそう答えるとアデルに自分の刀を預けてカルナックは何事も無かったかのように家へと戻っていった。
外へと連れてこられたレイとアデルはそれぞれ今回習得した剣聖結界を披露する、カルナックの目の前で互いに発動させて見せた。
外見の変化はそれぞれこうだ。レイの見た目はほぼ変わらずだが足元から冷気が放出されている、周りの雪はそれに冷やされて即座に凍り付く。変わってアデル、こちらは腰まで長い真っ黒な髪の毛が真っ赤に染まり瞳の色も赤く染まる。足元からは炎が噴き出して周りの雪を一瞬で溶かした。
それぞれの剣聖結界は準ずるエレメントによって体の一部の色素が変わるのが特徴である、炎であればそれらは赤く染まり、氷は青く染まる。また、風は緑に染まり雷は金色へと変化する。土に関しては黒く変化するが、多分これが一番変化がないと言える。というのも中央大陸では黒髪と黒の瞳を持つ人間が多数存在するからである。それぞれの効果については以前述べた通りであるが、その中でも炎帝剣聖結界は攻撃に特化している。
カルナックの弟子達三人はいずれもコレを習得している。レイヴンは炎帝剣聖結界、シトラは氷雪剣聖結界、フィリップは雷光剣聖結界である。ここで気になるのがカルナックが保有しているエレメントであるが、元々カルナックは特殊な性質を持ち合わせており全てのエレメントと対話ができる。それ故についた二つ名がエレメンタルマスターである。そこに剣術に最も優れている称号の剣聖を持ち合わせているため現存の人類最強と謳われる。全てのエレメントと対話出来る者は数百年に一度の割合で生まれてくると言われている、特殊な存在であることは間違いないのだが前例はある。
話を戻そう、レイとアデルがそれぞれ剣聖結界を発動させたのを見てカルナックが頷く。だがアデルはやはりものの五秒程度でその効果が切れてしまった。片膝をついて息を切らすアデルを横目にレイはしっかりとその効果を継続刺せている。
「上出来です、アデルはもっとコントロールを身につけないといけませんね。そんな調子ではすぐにエーテルが空になりますよ」
「ば……場数を踏むさ」
深呼吸をしながらゆっくりと立ち上がると一つため息を零した。カルナックは無情にもそれをニッコリと笑顔で見ていた。
「上等です、レイ君も有難う御座います」
レイがゆっくりと剣聖結界を解くとアデルに肩を貸して担ぎ上げる。
「次にまだ教えていなかった抜刀術をお見せしますね」
ゆっくりと三人は森の入り口まで歩き無事だった太い木を見つける。二人はカルナックの後ろに立ちその抜刀術をしかと記憶する。
「以前アデルには教えた五連続抜刀は覚えていますね? それの続きとなる六発目の抜刀術です。炎帝剣聖結界を前提とした技となりますので使える機会はほんの一握り、それも一瞬です。それを逃がしてしまえば放つことは今のアデルには困難でしょう」
「アレの続きがあるのかよ、五連続だって過去一回しか成功したことないのに無茶言うなよおやっさん」
アデルが絶望にも似た野次を飛ばした、だがカルナックは相変わらず笑顔のままだった。首を捻ってアデルを見た。
「大丈夫ですよアデル、今のあなたなら五連続まではきっと簡単に出来ます。それだけ成長しているのですから自信を持ちなさい」
そう言って再び前を向く、その瞬間辺りに緊張が走った。ズッシリと重い空気が辺り一面に張り巡らされているのが分かる。後ろの二人は同時に唾をのむ。ゆっくりとカルナックが左手に構える刀を少しだけ後ろに下げて姿勢を低くとった。
「一つ」
始まった、カルナック流抜刀術の神髄ともいえる神速六連撃。右手で刀を鞘から引き抜くと左斜め下から右上へと大木に一本の切れ目が入る。
「二つ」
瞬時に納刀するとすかさず二撃目が走る。今度は縦と横にそれぞれ二本の切れ目が走る。だが普通に二発の斬撃を撃ったわけではない、横に一閃入れた後一度納刀しているのだ。抜刀するときの速度を利用した高速の連続攻撃。そう、二撃目からは斬撃が一本ずつ増える。その調子でまた納刀する。
「三つ」
此処から並の人間では放てない領域へと進む、一秒の間に三回抜刀を行い三回納刀を行う。まさに神速という名にふさわしい速度だった。レイはそれに目が追い付ていない。アデルはまだその速度を追うことが出来る。大木が人間であればこの三発目は膝下を切り落とし、右下から左上に刀がすり抜け、最後の一撃で首を跳ねる。だがまだ止まらない。
「四つ」
カルナックの姿が消えた、アデルにはまだ見えている。大木の横をすれ違うと同時に横に一閃を放つ。後ろに回り込んだカルナックは次に右腕の部分、さらに左腕の部分。そしてまた元の位置に戻るために反対側の横を通り過ぎるともう一度一閃を叩きこむ。この時点で大木はまだ倒れていない、ズリズリと刀が走った線に沿ってパーツに分解された部分が崩れ落ちそうになるがそれをこの四つ目が襲う。
「五つ」
すでに人間であればこの時点で少なくとも十個のパーツに分解されている、その時間僅か五秒。炎帝剣聖結界を使わずに撃てるのが此処までと言われている。今度は上下左右、そして斜めにそれぞれ斬撃を飛ばすのがこの五発目だ。そして最後に刀を下から思いっきり切り上げる。間違いなくこの時点で絶命しているだろう、だがその更にもう一つ。これより先はアデルには未知の領域となる。
「炎帝剣聖結界」「炎帝剣聖結界」
アデルとカルナックが同時に発動させた、何故アデルが剣聖結界を発動させたのか。それは五つ目の連撃を視界でとらえるのがギリギリだったからである。それ以降は未知の領域、無意識に自身の身体能力と動体視力を上げる為に発動させていた。そしてアデルは目撃した、カルナックが抜刀した瞬間に同時に見える六つの剣線を。間違いなく残像である、それも質量を伴った。
あまりにも早すぎる同時攻撃。円を描くように一点へと集まるその斬撃にアデルは震えた。我が目を疑ってしまった、今まで教えられてきた技はこれを放つ為のいわば準備運動である。五つ目までを使いこなせなければその先にある六つの斬撃を放つことなんて到底不可能。それまではただの連続攻撃であったがこれは違った。アデルの目にははっきりと映し出されている、これは同時多段攻撃であると。
万が一、五発目で仕留めきれなくとも六発目で確実に殺せるだろう。考えても見てほしい、六方向から飛んでくる同時の刃をどう防げようか? また避け様にもそれまでの攻撃で四肢欠損を追っている可能性が高い。避けられる筈がないのだ。まさに必殺、その名にふさわしい攻撃だった。カルナックの一連の動作が終了し納刀後に斬撃音が耳に届く。剣激は音を置き去りにした。
「おやっさん、その技の名前は?」
まだアデルの体が震えている。大木が大きな音を立てて崩れ、低い姿勢を取っていたカルナックがゆっくりと姿勢を戻すと後ろを振り返る。
「六幻です、頑張ってくださいねアデル」
ニッコリと笑顔でそう答えるとアデルに自分の刀を預けてカルナックは何事も無かったかのように家へと戻っていった。
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