冷酷無慈悲なお兄さまに認められたい

58. わたしはうまく言えない

「じゃあやるよ？」
「うん。」

　キラキラとした魔力が舞い散り、ジェフの傷が一気に癒えた。
　わたしはジェフの怪我が傷跡が残ることなく治るように、力をしっかりと制御して魔法を使った。
　ジェフは体質的にも傷跡が残りにくいが、それでも気を使って治さないと傷跡が残ってしまうのだ。
　……わたしはわたしの所為で負ったジェフの傷が完治しないのは、嫌なのだ。この行為は、十中八九わたしの自己満足だし、自分の犯した罪から目を逸らしているだけだ。だが、それでも、それが分かっていたとしても、わたしは彼の身体に痛々しい傷跡が残ってほしくないのだ。

「ありがとう、レティー。」
「ん。………ごめんね、ジェフ。」
「良いよ、これは僕がやりたくてやったことだから。」
「それでもごめんなさい。」

　わたしは俯いてぽつりと呟いた。思ったよりも、弱々しい声音になってしまった。

「う～ん、僕はレティーに謝ってほしくて身を挺してレティーを守ったわけじゃないんだけどなー。」

　ジェフは横を向いてふふーん♪といでも言いたげに言った。

　もちろんわたしは、彼の欲しい言葉を分かっている。けれど、今のわたしはその言葉が口にし難い。いつもならば、簡単に口にすることのできる、ありがとう、その言葉が今は口にできない。言葉は本当に不思議だ。

「……………、　　　とう。」
「うん？」
「　　がとぅ……。」
「もっとハッキリ言ってよ！」
「……はぅ、あ、ああ、ありが、ありがいた。じゃなくて、その、えっと、ありが、ありがー、じゅ、じゅっとう、でもなくて、あ、あああ、あり、ありー、ありーー！！もう！ありがとう！！………あぅ……。」

　わたしの情け無い言葉によって咲き誇った、ジェフの心底嬉しそうな、それでいて、悪戯っ子のような幼さの残る笑みに、口籠もりすぎて疲れたわたしの視線は釘付けになった。そして、あぁ、やっぱり彼の心からの笑顔が好きだな、と思った。

「うん、どういたしまして。我が君。」
「その呼び方は嫌いよ。」
「じゃあ、僕の愛しの姫君？」

　こてんと小首を傾げる仕草ですら、愛おしく見えるのだから、わたしはわたしが思っている以上に彼の事を心底気に入っているのだろう。
　けれど、わたしはそんな気持ちを一切表には出さない。
　だって恥ずかしいもの。

「………よくそんな歯が浮くセリフを何の躊躇いもなく言えるわね。」

だから、言っていることが多少拗ねた口調になってしまったのは致し方ない。

「……本心なんだけどな………。」
「ん？どうしたの？ジェフ。」
「ううん、なんでもないよ。レティーは鈍感だなって話。」
「なによ、それ！」

　アクアマリンと純白に包まれた、お空の上のようなお部屋に、わたしとジェフの楽しげな笑い声が響いた。

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題名は
「あの、………どなたでしょうか？」
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「キャサリン・ルーラー
　爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」

見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………

「あの、……どなたのことでしょうか？」

まさかの意味不明発言！！

今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ！！

結末やいかに！！

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