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89 第2王子の従者

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 冷や汗を流しながら最後まで言葉を紡いだルーカスはほっと息を吐いた。どうやら今日の体調はいつもよりはマシなだけで、相当に悪かったらしい。アイリスとアキレスに魔法の楽しさを教えたいという無茶が祟ったのか、熱まで出始めたようだ。身体が寒いのに妙にぽかぽかしていて、鈍器で殴られるような頭痛が治らない。視界がぐらぐらとぶれてしまい、ついにはアキレスの顔さえもまともに判別できなくなってきた。

「ハクレイ」

 小さくルーカスが声を出すと、アキレスの目の前に今まで気配すら感じなかった細身の青年が現れた。焦茶色の癖っ毛に気だるげな焦茶色の瞳。

 ーーーいや、あれは黄金か?

 よくよく見てみるともっと明るい色彩をした瞳を持った青年は、困ったような表情をした後にルーカスを抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。

「すまないね、アキレス。今日は体調がすぐれないから、お暇ーーー………」
「………申し訳ございません。アキレス王子殿下。ルーカス殿下は、」
「気をうしなったんですよね。だいじょーぶです。アイリスもそーですし」

 愛おしい双子の妹の頭を撫でながら、アキレスは柔らかい印象を与える仮面の笑みを浮かべた。ハクレイと呼ばれた男はその表情に一瞬驚きながらも、無表情のまま膝を折ってアキレスに目線を合わせた。やっぱり、間近から見ると彼の瞳の色は見事な黄金だった。

「自分なんかに敬語を使う必要はありませんよ。それに、………無理をして笑う必要も。年長者は年少者に甘えてもらうことこそが喜びっすから」
「………じゃあ、お言葉に甘えて」

 すっと表情を全て消したアキレスは、仄暗い闇と僅かな明るい光を宿した深い深い海色の宝石のような瞳をハクレイへと向けた。そして、挑発するように口の端を上げて笑う。

「ーーー君も楽に話したら?それ、本性じゃないでしょ?」

 にっこりと笑って、次の瞬間には闇にどっぷりと沈んだ瞳を元の明るい印象に戻した。底が知れない暗闇に一瞬引き込まれかけたハクレイは、怯えるように一瞬だけ身体を硬くしたが、すぐにふわっと印象を柔らかくして取り繕った。
 流石は第2王子に仕えている従者だ。不足の事態への立ち回りも早い。
 アキレスはにっこりと笑ってアイリスの頭を愛を込めて撫でた。ふにゃふにゃと無警戒な笑みを浮かべる姿は本当に愛らしい。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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