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53,5 (1) 疲れ切った第2王子
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▫︎◇▫︎
心配そうな顔をしている双子と分かれて、近衛兵たちと合流したルーカスは、途中でふらっと倒れかけそれを普段からずっと自分のそばに支えているヒトに支えてもらった。
彼はこの国で最も立場の低いとされる獣人だ。けれど、実力主義なルーカスは彼のことがとても気に入って常に側に置いていた。他の人間よりも何倍も努力家で、それでいて真摯で、真っ直ぐに物事を見て、そして損得なしに捉えられる。これ以上ない完璧で使い勝手のいい逸材だと、ルーカスは彼のことを常にベタ惚れしてしまうくらいに、彼は優れた能力を持っていた。
獣人というだけでこの国では最底辺に位置してしまう彼だが、ずっと病弱で体調が余程いい時でなければ、あまり動くことのできないルーカスのことを精神誠意支えている。せめて満足のいくレベルくらいには動きたいと願っているルーカスには、この優秀な従者の頑丈すぎる身体が時に羨ましくて妬ましくなるというのが、ルーカスびとっては玉に瑕だろうか。
「すまないね」
「………いえ、………………これは魔法の代償ですか?」
「あぁ、少し無理をしてしまったようだ」
くすっと笑ったルーカスに、獣人の男は深々と溜め息をつく。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、感覚、そして力、全てが人並み外れている彼は、普通の人に比べれば小柄だと言っても、年頃の男であるルーカスを片腕で軽々と持ち上げて片腕に乗せた。彼の頭には獣耳はない。だからこそ、周囲の人間には、彼は異常なまでの能力を持つ異端者だと恐れられている。
(そのくらいがちょうどいい。………僕の周りには、孤立している人間以外は置けないからね)
自分の作った特製の魔道具を身につけることによって、人間に化けている自分の従者を見つめながらルーカスはふわっと笑った。王城の皆はいつからかルーカスがこう笑う時に寒気を覚えるようになってしまっていたこの笑顔は、ルーカスが企みをしている時の癖でもあって、そしてそのことは大抵碌でもない。
ルーカスは自分の後をつけている気配のない人間に対して何でもないふうに仄暗い笑みを浮かべながら、こう呟く。
「………父上に対して、早めにあのお願いをしなければならないようだ」
*******************
読んでいただきありがとうございます😊😊😊
心配そうな顔をしている双子と分かれて、近衛兵たちと合流したルーカスは、途中でふらっと倒れかけそれを普段からずっと自分のそばに支えているヒトに支えてもらった。
彼はこの国で最も立場の低いとされる獣人だ。けれど、実力主義なルーカスは彼のことがとても気に入って常に側に置いていた。他の人間よりも何倍も努力家で、それでいて真摯で、真っ直ぐに物事を見て、そして損得なしに捉えられる。これ以上ない完璧で使い勝手のいい逸材だと、ルーカスは彼のことを常にベタ惚れしてしまうくらいに、彼は優れた能力を持っていた。
獣人というだけでこの国では最底辺に位置してしまう彼だが、ずっと病弱で体調が余程いい時でなければ、あまり動くことのできないルーカスのことを精神誠意支えている。せめて満足のいくレベルくらいには動きたいと願っているルーカスには、この優秀な従者の頑丈すぎる身体が時に羨ましくて妬ましくなるというのが、ルーカスびとっては玉に瑕だろうか。
「すまないね」
「………いえ、………………これは魔法の代償ですか?」
「あぁ、少し無理をしてしまったようだ」
くすっと笑ったルーカスに、獣人の男は深々と溜め息をつく。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、感覚、そして力、全てが人並み外れている彼は、普通の人に比べれば小柄だと言っても、年頃の男であるルーカスを片腕で軽々と持ち上げて片腕に乗せた。彼の頭には獣耳はない。だからこそ、周囲の人間には、彼は異常なまでの能力を持つ異端者だと恐れられている。
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自分の作った特製の魔道具を身につけることによって、人間に化けている自分の従者を見つめながらルーカスはふわっと笑った。王城の皆はいつからかルーカスがこう笑う時に寒気を覚えるようになってしまっていたこの笑顔は、ルーカスが企みをしている時の癖でもあって、そしてそのことは大抵碌でもない。
ルーカスは自分の後をつけている気配のない人間に対して何でもないふうに仄暗い笑みを浮かべながら、こう呟く。
「………父上に対して、早めにあのお願いをしなければならないようだ」
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