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絶望
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「あ、………、」
「ろって………?」
私は、………私はなんてことをしてしまったのでしょうか。呆然とした彼の顔に、驚きに染まった周囲。私はとんでもないことをしでかしてしまいました。まるで、感情のタガが外れてしまったかのように、ふわふわとしたお日様のような石鹸混じりの匂いに、甘い蜂蜜のようなとろんとした誘惑。今までにも何度も感じてきた甘美な感情に、私は負けてしまったようです。
「ーーーー、」
私は拙い動きで立ち上がり、もつれる足で必死になって走りました。息が切れても、転けても、人にぶつかっても、ただただ何かから、いいえ、ケイから、人々の視線から逃げるように必死になって走りました。
「はあ、はあ、」
ぽたぽた目から溢れてくる液体を服の裾で乱雑に拭って、私はまだまだ走り続けます。甘い香りの誘惑から逃げるために。本能に逆らうために。私は、必死になって走り続けます。
やがて、貧民街と呼ばれる区画に入ってしまい、私は息を詰めました。目の前に広がる惨状。そして、何より悪臭にここがこの世に存在する場所なのかと呆然とすらしてしまいます。
「ああぁ、」
私は一体今まで何を見てきたのでしょうか。ちょっと路地裏に入れば、そこには貧民街があるような国の、どこが素晴らしいのでしょうか。しっかりとした政策が実行できているのでしょうか。
「………ごはん、ちょう、だい。」
窪んだ空虚な瞳をしたガリガリの少女が、私のローブの裾を引っ張ってガサガサの声で呟きます。引っ張っているとも言えない力が、今の彼女の限界といった具合であることに、私は自分が情けなくなります。
あぁ、私は何と愚かなのだろうか。
絶望に暮れても、私のそばには私を励ましてくれる人なんて今は誰1人としていません。だって私が置いてきてしまったかのですから。
*******************
読んでいただきありがとうございます😊😊😊
「ろって………?」
私は、………私はなんてことをしてしまったのでしょうか。呆然とした彼の顔に、驚きに染まった周囲。私はとんでもないことをしでかしてしまいました。まるで、感情のタガが外れてしまったかのように、ふわふわとしたお日様のような石鹸混じりの匂いに、甘い蜂蜜のようなとろんとした誘惑。今までにも何度も感じてきた甘美な感情に、私は負けてしまったようです。
「ーーーー、」
私は拙い動きで立ち上がり、もつれる足で必死になって走りました。息が切れても、転けても、人にぶつかっても、ただただ何かから、いいえ、ケイから、人々の視線から逃げるように必死になって走りました。
「はあ、はあ、」
ぽたぽた目から溢れてくる液体を服の裾で乱雑に拭って、私はまだまだ走り続けます。甘い香りの誘惑から逃げるために。本能に逆らうために。私は、必死になって走り続けます。
やがて、貧民街と呼ばれる区画に入ってしまい、私は息を詰めました。目の前に広がる惨状。そして、何より悪臭にここがこの世に存在する場所なのかと呆然とすらしてしまいます。
「ああぁ、」
私は一体今まで何を見てきたのでしょうか。ちょっと路地裏に入れば、そこには貧民街があるような国の、どこが素晴らしいのでしょうか。しっかりとした政策が実行できているのでしょうか。
「………ごはん、ちょう、だい。」
窪んだ空虚な瞳をしたガリガリの少女が、私のローブの裾を引っ張ってガサガサの声で呟きます。引っ張っているとも言えない力が、今の彼女の限界といった具合であることに、私は自分が情けなくなります。
あぁ、私は何と愚かなのだろうか。
絶望に暮れても、私のそばには私を励ましてくれる人なんて今は誰1人としていません。だって私が置いてきてしまったかのですから。
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