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142 宣言

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「………本当に、素敵だったの」
「あぁ」
「本当に、本当に、素敵で、………素敵だったの」
「それは聞いたよ」

 楽器を丁寧にしまって心菜の頭をぽんぽんと撫で始めた彼を見上げて、心菜はぐずぐずと泣き続ける。

「もうちょっとだけ、………もうちょっとだけ頑張ろうかな」
「あぁ、頑張れ。お前は頑張るのが得意なんだろ?」
「………そんなこと言ったことない」

 セーターの袖で顔を覆って隠しながら、心菜はふわふわとした気分で話し続ける。ずっとずっと最近は張り詰めていた気がする。家にいるときは緩んでいても、学校に来れば、“優等生”でいなければならなくなって、どこか苦しくなってしまう。けれど、さっきの演奏で、その張り詰めていたものが少しだけ緩んだ気がした。ピンと張り詰めていた糸を丁寧に丁寧に緩められたような気分だ。心菜はほうっと息を吐いて、ふわふわとした気分で、空を見上げる。

「後2週間で2学期の期末テストが来るね」
「うえぇー、」
「………今度こそちゃんとやらなきゃな」
(前回は考え事ばっかりで成績落としちゃったし)

 心菜は苦笑した後にぐっと背筋を伸ばして、彼の方を振り返った。

「私に演奏をしてくれて、ありがとう。私、頑張れそう」
「………そっか」

 寂しそうな笑みを見て、心菜はなぜか焦燥感に駆られた。どこかに行ってしまいそうな、そんな微笑み。踏み込んではいけない領域。そんな雰囲気を感じて、心菜はぐっとくちびるを噛み締める。

「………ぁ、」

 何かを言おうとしても、舌がこわばって、上手に言葉を発せられない。情けなさに項垂れていると、彼が1歩前にやってきた。

「………期末テストが終わったら、話がある」
「………分かった。待ってるね」

 心菜はただ微笑んだ。無表情に近い微笑み。けれど、そんな微笑みでさえも、彼には満足な笑みに見えたらしい。彼は安心したかのように息を吐いて、ぐしゃっと髪をかき上げた。

「じゃあ、俺は部活に戻るから」
「うん、時間を割いてくれてありがとう。………ばいばい」

 手を振って立ち去りながら、心菜はぎゅっと鞄の持ち手を握りしめた。

(どうして、………どうしてあんなにも寂しそうな表情をしていたの………?)

 言いようのない不安に駆られながら、心菜は帰宅への道をいく。中学3年生の11月後半、中学校生活最期に向けてのカウントダウンが刻々と迫ってきている。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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