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123 心菜は理解したい

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 心菜の真面目な問いかけに、優奈はにこっと笑った気がした。そして、やっぱりなにも教えてくれなかった。ゆっくりと絵の具のバケツを持ち上げて、優奈は手洗い場でバケツと筆をごしごし洗う。

「ゆーなちゃん、」
「………今はまだ、その時じゃないから」
「………………、」

 優奈は、心菜に時々悟ったようなことを言う。同い年なはずなのに、ずっとずっとお姉さんのように振る舞うことがある。心菜はそんな時、決まって居心地が悪くなって、いつも彼女から目を逸らしてしまう。けれど、心菜は今回ばかりは目を逸らさなかった。どうしても、知ったかった。彼女が行ったことの意味を、最近感じる胸の甘やかな苦しさを。
 自分の方に、全く視線を向けてくれない優奈を見つめ続けた心菜は、やがていつものように諦めて視線を外してしまった。

「ーーー大丈夫。いずれ、いやでも分かるようになるから」

 ぽつりとつぶやかれた言葉も、全部全部意味がわからない。けれど、これだけは悟った。

(もう少しで、ゆーなちゃんの願いも、この胸の苦しさも、全部わかるのよね………?)

 小さく燻っていたぬるま湯のような居心地の良かった暖かさは、最近ではとても熱い篝火になってきている。心菜は知りたい。
 この胸の熱さを。
 願いの根源を。

「………私にも、いずれ、ちゃんとわかる日が来るのよね………?」
「………そうかもね」

 曖昧な返答。けれど、今の心菜にはそれで十分だった。

▫︎◇▫︎

『………私にも、いずれ、ちゃんとわかる日が来るのよね………?』

 優奈の幼馴染は、壊滅的なまでにいろいろな部分が鈍い。けれど、最近はその鈍さを克服しようと努力している。そんな姿でさえも愛らしくて、優奈は優しく心菜のことを見つめていた。

(ここなは頑張り屋さんだから、ちゃんとわかるよ。そして、いずれの日か、一生分からなければ良かったって後悔するのかな)

 下駄箱から靴を取り出して、下校のための道のりを2人で歩く。相変わらずちょっとだけ迷いそうになる心菜をさりげなくエスコートしながら、優奈はどうしても心菜のことを心配以外に表現しようのない瞳で見つめてしまう。

(高校の登下校、ここなってちゃんとできるのかしら)

 小さくて大きな不安。
 優奈は絶え間なく抱く揺れ動く感情を心の中に抱えながら、心菜の横顔を見つめた。

「じゃあね、ゆーなちゃん」
「また明日」

 今日も無事、心菜は帰宅していった。

********************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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