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41 お嬢さま

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「お花?」
「俺の水筒に入っているのは?」
「………分かんないよ」

 心菜は若干途方に暮れた。真っ黒なステンレス製の魔法瓶水筒の中身を言えだなんて結構な無理がある。

「じゃあ当ててみろ」
「えー、………う~ん、じゃあ、お水?お茶?」

 心菜は意味が分からないが、とりあえずどんどん質問に答えて行く。

「今から買いに行くのは?」
「飲み物とお菓子、いや、おやつかな?」
「ほーらな」

 やっぱり心菜には何が言いたいのか、綺麗さっぱり分からない。というか、今の質問に何の意味があるのだろうか。心菜は困り果てて頼りになる優奈の方を向いたが、彼女は助けてくれるどころか、思いっきり苦笑するばかりだ。一才何も教えてくれない。

「久遠って、なんかの言葉の前に大体『お』が付くんだよ。普通『夜食』は『お夜食』なんて丁寧に言わねーし、花もそうだ。水やお茶、もそうだし、おやつも菓子で終了だ。言葉が1つ1つすっげー丁寧なんだよ。丁寧すぎるんだ」

 心菜は作り笑いも思いっきり忘れて、思わずポカーンとしてしまった。全部1~10まで無意識だったのだ。お夜食もお花もお水もお茶も、お菓子もおやつも全部全部無意識のうちに『お』をつけてしまっていたのだ。

「だーかーらー、久遠のニックネームは『お嬢さま』。反論はあるか?」
「うっ、………わ、私は、お、お嬢さまらしくなんてないよ。ジャジャ馬だし、ヤンチャだし、ち、小さい頃なんか男の子たちと一緒に元気に川原の方を駆け回ってたんだから!!」
「………久遠は足を川の中に突っ込んで木陰で涼んでただけだぞ。駆け回ってたのは高梨の方だ」

 心菜は有栖川の言葉によってぐっと次の言葉に詰まった。実際、体力のない心菜は木陰でみんなが楽しそうに遊んでいるのを眺める方が好きだった。だから、遊びには参加していても、木陰でぼーっと眺めている時間の方が圧倒的に長かった。

「ま、しばらく久遠のニックネームは『お嬢さま』で決定だな」
「ふぐにゃん………」

 心菜は優奈の背中に額を押しつけて、ぐりぐりしながらくぐもった声を漏らした。変な声になったが、本人は特に気にはならなかった。それよりも、この不可思議というか、似合わなすぎるニックネームの撤回方法を考える方が優先だった。

「いや、だから、その微妙な悲鳴ってなんだよ!!」

 だから、立花のびっくりしたようなツッコミのような、大きな声は一切気にならなかった。今は心菜はそれどころではないのだ。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊
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