小さな別れは、淡く儚い恋を呼ぶ

桐生桜月姫

文字の大きさ
上 下
14 / 144

13 甘やかな苦しみ

しおりを挟む
 だが、心菜には1つだけどうしても聞いておきたい、気になることがあった。

「どうして私に奢ってほしいの?立花は意地悪だけれど、お金のやり取りは嫌いそうだよね?」

 そう、昨日話してみて思ったが、立花は異常なまでに真面目なのだ。
 心菜は彼が奢る奢られるという行為を、嫌いっているような気がする。

「………お前、貸し作るの嫌いなタイプだろ?」
「ん?うぅーん、まあ嫌いだけど………」
「だからだよ」
「?」

 心菜には彼が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。ただただ首を傾げて必死になって彼の会話の意図を探ろうとする。

「………昨日有栖川が『久遠はコミュ症で、静かで、何考えてんのか分かんないくらい大人びてる』って言ってた」

 意図を探っている途中で会話を変えられてしまった心菜は、困り果てた。彼は何を伝えようとしているのだろうか。確かに心菜はコミュ障で、話せなくて、何を考えているのか分からないってよく言われる。

「でも、俺は違うって思ったんだ」
「?」
「確かにお前はコミュ症かもしれない。だけど、俺には誰も傷つけないように必死になって、丁寧に丁寧に言葉を探して、その所為で言葉が遅れて、そんで会話に交われないって、………そんな印象を受けた」
「………………」
「お前、優しいよな。昨日の学校生活見てて思ったけど、周りのことをよく見てる。誰にも気づかれること無く、みんなのサポートに徹して、本当に尊敬した。本当にすごいと思った」

 こんな風に評価されたのは初めてだった。
 心菜は純粋に嬉しくて、でも、怖かった。裏があるのではないかと思った。褒めちぎって、そして舞い上がったところで、何かされるのではないかと怯えた。

「俺、お前みたいなヤツ、好きだよ」
「っ、」

 心菜は大きく目を見開いた。
 『綺麗』、『美人』、『愛らしい』、『別嬪さん』、『モデルさんみたい』、そんな言葉は今までに何度も何度も聞いてきた。耳にタコができるくらいに言われ続けてきたし、社交辞令には比較的慣れている方だ。けれど、『好きだ』という言葉を真正面から突きつけられたのは初めてのことだ。

「みんなに優しいお前みたいな性格の人間が大好きだ」
(あぁ、そういうことか)

 心菜はほっと息を吐き出した。どうやら彼は心菜に告白したのでは無く、性格がいいと褒めてくれていたらしい。
 得意の作り笑いを浮かべて、心菜はぎゅっと痛む苦しい左胸の鼓動を無視した。

「ありがとう、立花。私、性格を褒めてもらったのは初めてだよ」

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。 柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。 そして… 柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

処理中です...