10 / 15
世知辛い世の中にサヨナラを6
しおりを挟む「――邪魔するよ」
「はいはい? …ああ、カシューイン侯爵の坊っちゃん!」
「坊っちゃんって呼ぶなって、いっつも言ってるだろーが!」
「分かってますって。 そのムキになる態度がおかしくて、ついねぇ」
「ったく。 今日はおれの親友が、兄弟の誕生日に贈る品物がほしいって言うんで、連れてきたんだが」
「兄弟の、誕生日?」
恰幅が良く、髭をたくわえた店主が首を捻るその前で体を横にずらし、金糸と銀糸が絶妙に織り込まれた乳白色のローブを目深に被った小柄なシルエットをその視界へ晒すと、束の間黙りした店主は目を見開き、
「これはこれは…」
と言って、なぜか得意顔をしているアルデバランへ目を向けた。
「つーことで、金に糸目はつけねぇ買い物がしたい」
「わ、分かった。 どうぞ、こちらへ」
淡い明かりが灯された店内には、様々な金銀細工が展示されている。
しかしそれは、一般庶民でも生活にかかる金を切り詰めればどうにか手の届く値段のものばかりで、高価な品物は店の奥にしまっていることをアルデバランも承知していた。
「お前らは、店の中と外で警護しろ」
「はっ」
城勤めの騎士団からアルデバランが選んだ数人の男たちは命令する声にそう応えると、店を人に任せ、奥へと続く扉を開いた店主に続き、アルデバラン、カノープス、エンケラドゥスの順番で、あまり人を通したことのない小部屋へ足を踏み入れた。
「カノープス王子様」
人目のある場所ではその名を呼ばぬよう努めていた店主に名前を呼ばれて顔を上げると、店主から隣にいたエンケラドゥスへ視線を向ける。
「…」
フード、取っていい? と、視線で尋ねたカノープスに向け、軽く頷き応えた仕草で了承を得たカノープスがフードを取ると、どんな金糸より美しく輝いて見える頭髪が溢れ出すように現れ、その輝きを目にした店主は、思わずほうっと称賛のため息をついた。
「なんと、お美しい…」
鳥の羽ばたきを思わせるほど長い睫毛が瞬くたびに、色を変える青い瞳に見惚れる口からカノープスの美しさを讃える言葉が零れ落ちると、照れくさそうにはにかんだその頬に薔薇色が灯る。
「おっちゃん」
「!」
「褒めてばっかいねぇで、ちゃんと仕事してくれよ」
「い、いやいや、申し訳ない! こんな間近で美しいことで評判の王子様を見たことがなくて…舞い上がっちまったっ」
「そぉーだろ~。タダで見せたんだ、いーもん紹介しなかったら、逆におれが金取るからなッ」
「アディーが言うと、冗談に聞こえないから止めとくれ! え、ええっと…それで、ご所望の品物とはどういったものでしょう?」
「金でできた、細工物のブレスレットを探している」
しゃきっと背を正し、客人用のソファーへ座るよう促した店主は、勧めたソファーに座ったカノープスから、その背後に立ち発言をしたエンケラドゥスへと視線を転じた。
.
56
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています
葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。
そこはど田舎だった。
住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。
レコンティーニ王国は猫に優しい国です。
小説家になろう様にも掲載してます。
旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。
ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。
実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。
私が悪役令嬢? 喜んで!!
星野日菜
恋愛
つり目縦ロールのお嬢様、伊集院彩香に転生させられた私。
神様曰く、『悪女を高校三年間続ければ『私』が死んだことを無かったことにできる』らしい。
だったら悪女を演じてやろうではありませんか!
世界一の悪女はこの私よ! ……私ですわ!
【完結】魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?
北川晶
BL
もっちり、ぽっちゃりなぼく、サリエルは、六歳のときに落馬したんだけど。目が覚めたら、人の横に備考欄が見えるようになった。そんなぼくが、魔族の国でゆるふわっと漂い危機回避する、のほほんハートフルライフ。うーん、記憶喪失というわけではないが、なんか、家族に違和感があるなぁ? わかっている。ここは魔族が住む国で、父上が魔王だってことは。でも、なんかおかしいと思っちゃう。あと、備考欄も、人に言えないやつだよね? ぼくの備考欄には『悪役令嬢の兄(尻拭い)』と書いてあるけど…うん、死にかけるとか殺されかけるとか、いろいろあるけど。まぁいいや。
ぼくに優しくしてくれる超絶美形の長兄、レオンハルト。ちょっと言葉のきつい次兄のラーディン。おそらく悪役令嬢で、ぼくが死にかかっても高らかに笑う妹のディエンヌ。気の弱い異母弟のシュナイツ、という兄弟に囲まれた、もっちりなぼくの悪魔城ライフです。
さらに、従兄弟のマルチェロやマリーベル、ラーディンの護衛のファウスト、優秀な成績ですごいシュナイツのご学友のエドガーという友達も巻き込んでのドタバタ魔王学園乙女ゲームストーリーもあるよ。え? 乙女ゲーム? なにそれ、美味しいの?
第11回BL小説大賞で、アンダルシュノベルズb賞をいただきました。応援していただき、ありがとうございます。完結しましたが、おまけなど、たまに出します。よろしくお願いします。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします
ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに
11年後、もう一人 聖女認定された。
王子は同じ聖女なら美人がいいと
元の聖女を偽物として追放した。
後に二人に天罰が降る。
これが この体に入る前の世界で読んだ
Web小説の本編。
だけど、読者からの激しいクレームに遭い
救済続編が書かれた。
その激しいクレームを入れた
読者の一人が私だった。
異世界の追放予定の聖女の中に
入り込んだ私は小説の知識を
活用して対策をした。
大人しく追放なんてさせない!
* 作り話です。
* 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。
* 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。
* 掲載は3日に一度。
後妻を迎えた家の侯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
私はイリス=レイバン、侯爵令嬢で現在22歳よ。お父様と亡くなったお母様との間にはお兄様と私、二人の子供がいる。そんな生活の中、一か月前にお父様の再婚話を聞かされた。
もう私もいい年だし、婚約者も決まっている身。それぐらいならと思って、お兄様と二人で了承したのだけれど……。
やってきたのは、ケイト=エルマン子爵令嬢。御年16歳! 昔からプレイボーイと言われたお父様でも、流石にこれは…。
『家出した伯爵令嬢』で序盤と終盤に登場する令嬢を描いた外伝的作品です。本編には出ない人物で一部設定を使い回した話ですが、独立したお話です。
完結済み!
ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。
ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。
しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。
その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる