春に落ちる恋

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「それでもやっぱり一人息子だから心配だったみたい。少ししておば様に電話をかけさせたんだけど、すでに将仁のスマホは解約済み。私も将仁のマンションに行って様子を見て来てくれって頼まれたんだけど、引き払った後だったわ。もう別の人が住んでた」
「えっ、将仁さん。引っ越しまでしたんですか？」
「そうよ。そんなことも知らなかったの？」
　久世さんは意外そうに俺を見て、それから目を閉じ顔周りの髪を払うと言った。

「とにかく今回は私の負け。将仁の居場所なんて想像もつかないもの。貴方なら将仁の行きそうな場所、心当たりあるんじゃない？」
「そんなこと言われても……」
　二人のお気に入りだったレストラン、行列に並んで食べたパンケーキ屋…そんなところくらいしか思いつかない。あんなに長く付き合っていたのに、自分が情けなかった。
「私、イギリスに帰ることにしたの。将仁と一緒に過ごすために日本に来たようなものだったし。それが叶わないなら、ここに残っても意味がないわ。もし貴方が将仁と連絡がついたなら、しつこくして悪かったと伝えて」
　久世さんは伝票を片手に持つと立ち上がった。
「最後だからおごるわ。じゃ、幸運を」
　そう言って、こちらを見た久世さんの瞳は濡れていた。
　俺は何か声をかけたかったが、言葉が思い浮かばなかった。
　しばらく俺はそこでぼんやりすると、席を立った。

　店から出て空を見上げると、分厚い黒い雲が広がり始めていた。
「将仁さん、どこにいるんですか？」
　そう呟いた俺の頬に冷たい雨の雫が落ちた。
　
　それから俺は会社帰りや休日に、将仁さんと出かけた場所を一人で訪れるようになった。
　もしかしたら将仁さんに会えるかも…。俺は辺りをきょろきょろと見回し、人にぶつかりながら、彼の姿を探した。
　しかし見つけることはできなかった。
　将仁さんと別れて三か月ほどが過ぎた。
　その間、俺はずっと将仁さんを探し歩いていた。将仁さんとよく行ったレストランで一人で注文をし、懐かしい味に胸が痛くなることもしばしばだった。後悔や諦めに似た感情が、容赦なく襲い掛かり、暗い気持ちになることも多かった。