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二人で車から降りて、引き戸を開けると、中から「いらっしゃい」という威勢のいい声が聞こえた。
「おお、春。どうしたんだ?お前は酒飲まないから、鶴子さんのお使いか?」
「勘蔵(カンゾウ)ちゃん。久しぶり。いや、違うんだ。この人会社の上司の方なんだけど、日本酒が好きだから、勘蔵ちゃんのコレクション見せてもらおうと思って」
がっしりした体つきで蒼い麻のエプロンをつけた武村勘蔵は俺の三つ上で、小学校も中学も同じだった。ここ一帯は昔から子供が少ないせいで、学年関係なく仲良くしていた。そのため家も近所の俺と勘蔵ちゃんは幼馴染のような関係だった。
俺の後ろで将仁さんがそんな勘蔵ちゃんにぺこりと頭を下げた。
「日本酒好きなんですか?こんな高い酒誰が買うんだって仕入れの度に親父にどやされるような商品ばかりですけど、良かったら見ていってください」
勘蔵ちゃんはそう言って将仁さんを店の奥まで案内した。
「嘘だろ。田酒も能代もある」
将仁さんが呟いた。
「よくご存じで。そこら辺は入手するのが大変だったんですよ」
「これ、お幾らですか?」
「まあ、春の知り合いってことで、二本でこの値段でいかがですか?」
勘蔵ちゃんが、電卓をはじいて見せる。その数字を見て、将仁さんが驚いた表情をした。
「いいんですか?」
「ええ。その代わりこれからもご贔屓に。ここら辺は物の価値が分かる人間が少なくてねえ」
二人はそれからも蔵元だ米麹だと俺の分からない話で盛り上がり、終いにはメアドまで交換していた。
「毎度ありぃ」
わざわざ店の外まで出て、勘蔵ちゃんが俺達を見送る。
「そんなに珍しいお酒なんですか?」
シートベルトを締めながら声をかけると、将仁さんが頷く。
「ああ。まさかこんなところで手に入るとはな。連れてきてもらって良かったよ」
「実家に行ったらそれ飲んでみてください。帰りは俺が運転しますから」
「そうか?悪いな」
将仁さんはよほど日本酒を買えたことが嬉しかったのか、珍しく興奮していた。
喜んでくれて、良かった。
そう思いながら、俺も微笑んだ。
「おお、春。どうしたんだ?お前は酒飲まないから、鶴子さんのお使いか?」
「勘蔵(カンゾウ)ちゃん。久しぶり。いや、違うんだ。この人会社の上司の方なんだけど、日本酒が好きだから、勘蔵ちゃんのコレクション見せてもらおうと思って」
がっしりした体つきで蒼い麻のエプロンをつけた武村勘蔵は俺の三つ上で、小学校も中学も同じだった。ここ一帯は昔から子供が少ないせいで、学年関係なく仲良くしていた。そのため家も近所の俺と勘蔵ちゃんは幼馴染のような関係だった。
俺の後ろで将仁さんがそんな勘蔵ちゃんにぺこりと頭を下げた。
「日本酒好きなんですか?こんな高い酒誰が買うんだって仕入れの度に親父にどやされるような商品ばかりですけど、良かったら見ていってください」
勘蔵ちゃんはそう言って将仁さんを店の奥まで案内した。
「嘘だろ。田酒も能代もある」
将仁さんが呟いた。
「よくご存じで。そこら辺は入手するのが大変だったんですよ」
「これ、お幾らですか?」
「まあ、春の知り合いってことで、二本でこの値段でいかがですか?」
勘蔵ちゃんが、電卓をはじいて見せる。その数字を見て、将仁さんが驚いた表情をした。
「いいんですか?」
「ええ。その代わりこれからもご贔屓に。ここら辺は物の価値が分かる人間が少なくてねえ」
二人はそれからも蔵元だ米麹だと俺の分からない話で盛り上がり、終いにはメアドまで交換していた。
「毎度ありぃ」
わざわざ店の外まで出て、勘蔵ちゃんが俺達を見送る。
「そんなに珍しいお酒なんですか?」
シートベルトを締めながら声をかけると、将仁さんが頷く。
「ああ。まさかこんなところで手に入るとはな。連れてきてもらって良かったよ」
「実家に行ったらそれ飲んでみてください。帰りは俺が運転しますから」
「そうか?悪いな」
将仁さんはよほど日本酒を買えたことが嬉しかったのか、珍しく興奮していた。
喜んでくれて、良かった。
そう思いながら、俺も微笑んだ。
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