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始まりの終わり
しおりを挟むセンはその時、机の上の書類を見て、大きなため息をついていた。
その息で上のほうの書類が、カサコソと音をたてる。
センは目を閉じ、首を振ると、書類の山をひっくり返し、もう一度目当ての決算書を探し始めた。
片づけが苦手な自分のせいで、この書類の山が出来あがったことは分かっていたが、一時間近くも探し物と格闘していると、さすがにセンもイライラし始めた。
そんな時に能天気に鳴り響く、笑い声。
知らないおっさんの笑い声を着メロに選んだのも自分だったが、センの苛立ちはそれのせいで余計に増し、大きく舌打ちをしてから、スマホを掴んだ。
そこに表示された名前を見て、センは眉を寄せると、ハンズフリーの通話ボタンを押した。
「はい。どうも」
「なんだ、覇気のねえ声だな」
センの愛想のない対応に、ククッと笑う藤崎の声が聞こえた。
センは書類を探す手を止めず、藤崎に応じた。
「いや、今ちょっと探し物してまして…。どうしたんです?まさか海が何かしでかしましたか?」
「いや、そんなんじゃない。そもそもあいつはもう、うちに住んじゃいねえよ」
「やっぱりいくら藤崎さんでも、あんな奴と暮らすのは無理だったんでしょう?」
はっとセンが息を吐く。
「そんなことはないぜ。あいつの作る飯は美味かったし、それに少しお前にも似ていた」
センの眉間に深い皺が刻まれる。
付き合いの長い藤崎にまさかそんなことを言われるとは、思ってもみなかった。
「俺のことロクデナシだと言いたいんですか?」
藤崎はまたもククッ笑う。
藤崎はいかつい見た目に反して、笑い上戸だとセンは思っていた。
「そんなこと言ってないだろ?お前と海は、寂しいのにそれを隠そうとするところがよく似ていると思っただけだよ」
思いの外、優しい声でそう呟かれ、センは顔を赤くするとコホンと咳を一つした。
「俺はそんな奴じゃないです」
「そうかねえ」
「そうですよ」
センはそう言いながら、目の前の紙を一枚引っ張った。
ビンゴ。
目当ての決算書を見つけ、センの口角が持ち上がる。
早速赤ボールペンを片手に、上から書類を読んでいく。
「暇なら、ほかのペットたちと遊んでやったらどうですか?」
センはクルクルとボールペンを回しながら、書類に目を走らせている。
「ペットなあ。みんな居なくなっちまったんだよな」
「そりゃまた何で?」
たいして興味なさげにセンが問うと、電話口から大きなため息が聞こえた。
「駄目なんだよなあ。こいつ俺が居なくても生きていけると気付いた瞬間、冷めちまう」
「我儘な飼い主様だ。俺だったら、一人で生きていけないような依存性のあるタイプなんて、勘弁ですけどね」
そう言って笑ってから、ふとセンはスマホを見つめた。
「あなたみたいな人が我を忘れるくらい夢中になる相手って、どんな方なんでしょうね」
「気になるのか?」
その問いにセンはまた笑うと、ペン回しを再開させた。
「いいえ」
「冷たいなあ」
藤崎も笑って言う。
「なんならお前がなってくれてもいいんだぜ?」
藤崎が突然そう呟いた。
「俺はあんたのペットになるつもりはありません」
藤崎がこんな冗談を言うのは珍しい。
ペットと離れたのが、堪えているのだろうか。
センは軽く返しながら、そんな風に考えた。
「ペットになれとは言ってない」
「じゃあ、何ですか?」
くるくるとペンを回しながら、センは書類の不備に気付いた。
あいつこの前と同じ個所、計算ミスしてやがる。
部下の一人の顔を思い浮かべ、また注意しなければと、センの右手で回るペンの速度が速くなる。
「そうだな。恋人はどうだ?」
「は?」
ペンはセンの手を離れると、弧を描き、コトリと音を立てて床に落ちた。
To be continued?
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