楽園の在処

まめ太郎

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「そういうのって、自己満足って感じしねぇ?」
「なんでもいいよ。海が楽になりさえすればそれで」
 俺はふっと笑って、そう言う硝の腰を叩いた。

「行こう」
 二、三歩踏み出すと、俺は足を止め、もうかなり遠くに行ってしまった春の頭のてっぺんに語りかける。
「謝らないぜ。俺は楽になっちゃ、いけないからな」
 俺はふうと息を吐くと、重くなった足で人混みの中を歩き始めた。
 
 それから俺達はアパートを退去し、そのまま空港に向かった。
 飛行機に乗るのが初めてな俺は、緊張のせいで機内でほとんど眠れなかった。
 なれないスーツを着ていたせいもあって、ちっともくつろげない。
 硝は何でスーツなんて着るの?と不思議そうだったが、不審者と思われ、搭乗口で止められることを恐れた俺は、わざとかっちりしたスーツで空の旅に臨んだのだ。
 そんながちがちな俺とは対照的に、硝は離陸する前から機内で高いびきをかいていた。
 
 メキシコで乗り換え、ようやく目的地の空港に到着した。
 23時間のフライトに耐えた俺は、疲れ切って、目の下には隈ができていた。
 硝は空港で、革靴にスーツの俺を見て、カジュアルな服装に着替えろと言ったが、俺は首を振った。
「だって、海外って怪しいやつを見たら、すぐに銃をぶっ放すんだろ?少しでもまともに見えるほうがいいじゃんか」
「どんな偏見だよ。それ」
 硝がため息をついてそう言った。
 
 空港からタクシーに乗り、悪路を進むこと2時間。尻の痛みに耐えきれなくなった頃、ようやく到着した。
 現地の気温は28度の快晴で、ジャケットを脱ぎ、シャツの袖を捲っても、額から玉のような汗が滴る。
 タクシーを降りて少し歩くと、目の前に白い砂浜とエメラルドグリーンの海が広がる。
 テレビでしか見たことのない光景に、俺は言葉を忘れて呆然と立ちつくした。
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