124 / 161
124
しおりを挟む
「ムカついててもさ、美味い飯食って、腹一杯になると、まあ、いっかって気持ちになんだよ」
「分かるよ。お腹空いてる時って怒りっぽくなるしね。それ以上に腹減ると、怒る元気もなくなるけどさ」
「ははっ。そうだな」
俺達は子供の頃、常に腹を減らしていた時期があった。
お互いその時の気持ちを思い出したのだろう。しんみりとした沈黙が落ちる。
「海が頑張っているから、俺もやってみようかなって」
ふいに硝がそう言って、俺の上からどいた。
きっちり枕元に正座している。
これはホストクラブで働きたいと言いだした時に見た光景だと、俺も体を起こした。
「実はホストやってた時のお客さんで、油絵の画家がいたんだ。けっこう有名な人みたいで、俺に絵のモデルやってほしいってずっと言われてたんだけど、ホストの仕事始めたばっかりだし、断ってた。でも、今なら時間あるし、連絡取ってみようかなって思ってる」
「大丈夫な奴なのかよ?」
俺の質問に答える代わりに、硝がスマホの画面を突きつける。
「この人」
画面には、長い髪を垂らした50代くらいの女が写っていた。
画家の紹介ページらしく津軽波子という名前の彼女は、日本とフランスの大学を卒業した油絵画家で、輝かし受賞歴がずらずらっと書かれていた。今もっとも有名な日本人画家の一人であると文章は締めくくられていた。
彼女の代表作の写真も記載されていて、芸術なんて全く分からない俺ですら、その絵には見覚えがあった。
それを硝に伝えると、「テレビのCМに使われているみたい」との返答だった。
「まあ、ちゃんとしてるおばさんみたいだし。やってみれば?」
俺がそう言うと、硝は何度も頷き「頑張る」と繰り返していた。
硝はそれからすぐに連絡を取ったようで、週三日、昼の間、その画家の家に通い、モデルを務めることになった。
なんと月に20万、絵が書き終わったらまた別に50万支払うという破格の対応だった。
「分かるよ。お腹空いてる時って怒りっぽくなるしね。それ以上に腹減ると、怒る元気もなくなるけどさ」
「ははっ。そうだな」
俺達は子供の頃、常に腹を減らしていた時期があった。
お互いその時の気持ちを思い出したのだろう。しんみりとした沈黙が落ちる。
「海が頑張っているから、俺もやってみようかなって」
ふいに硝がそう言って、俺の上からどいた。
きっちり枕元に正座している。
これはホストクラブで働きたいと言いだした時に見た光景だと、俺も体を起こした。
「実はホストやってた時のお客さんで、油絵の画家がいたんだ。けっこう有名な人みたいで、俺に絵のモデルやってほしいってずっと言われてたんだけど、ホストの仕事始めたばっかりだし、断ってた。でも、今なら時間あるし、連絡取ってみようかなって思ってる」
「大丈夫な奴なのかよ?」
俺の質問に答える代わりに、硝がスマホの画面を突きつける。
「この人」
画面には、長い髪を垂らした50代くらいの女が写っていた。
画家の紹介ページらしく津軽波子という名前の彼女は、日本とフランスの大学を卒業した油絵画家で、輝かし受賞歴がずらずらっと書かれていた。今もっとも有名な日本人画家の一人であると文章は締めくくられていた。
彼女の代表作の写真も記載されていて、芸術なんて全く分からない俺ですら、その絵には見覚えがあった。
それを硝に伝えると、「テレビのCМに使われているみたい」との返答だった。
「まあ、ちゃんとしてるおばさんみたいだし。やってみれば?」
俺がそう言うと、硝は何度も頷き「頑張る」と繰り返していた。
硝はそれからすぐに連絡を取ったようで、週三日、昼の間、その画家の家に通い、モデルを務めることになった。
なんと月に20万、絵が書き終わったらまた別に50万支払うという破格の対応だった。
0
お気に入りに追加
346
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
組長様のお嫁さん
ヨモギ丸
BL
いい所出身の外に憧れを抱くオメガのお坊ちゃん 雨宮 優 は家出をする。
持ち物に強めの薬を持っていたのだが、うっかりバックごと全ロスしてしまった。
公園のベンチで死にかけていた優を助けたのはたまたまお散歩していた世界規模の組を締め上げる組長 一ノ瀬 拓真
猫を飼う感覚で優を飼うことにした拓真だったが、だんだんその感情が恋愛感情に変化していく。
『へ?拓真さん俺でいいの?』
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる