楽園の在処

94

　その週末の夜、ベッドの上で藤崎は初めに俺を相手として指名した。
　藤崎が俺を抱くときに硝が良い顔をしないのはいつものことだが、その日は星と月まで憮然とした表情を見せた。

　藤崎が背後から俺を抱きしめ、首筋を舐める。
「ああ」
　俺が掠れた声をあげると、耳元で藤崎が笑った気配がした。
「ほら。星と月もそんなところにいないで、一緒に楽しもうぜ」
　藤崎はベッドの端に座り、こちらを睨んでいる二人にそう声をかけた。
　二人は渋々こちらに近づいてくると、月が藤崎とディープキスを始め、星が俺の股間で勃ちあがっている性器を舐めた。
「あっ…ああ、いっイイ。イク」
　藤崎に乳首を縊りだされ、星に敏感なくびれを舐められ、俺は放つ寸前だった。
　その瞬間、星が口に含んでいるモノに歯を立てた。

「いっ」
　俺はあまりの痛みに腰を引いた。
　怒りで体が震え、気付いたら俺は星の頬を平手打ちしていた。
　華奢な体がベッドの外に転げ落ちる。

「痛ぇじゃねえか。何すんだよ」

　俯くと俺のモノは赤くなっていたが、血は出ていなかった。
　俺がほっと息を吐くと、後ろから冷たい声で名前を呼ばれた。
「海」
　顔を上げると、怖いくらい無表情の藤崎と目が合う。
　藤崎が片手を振り上げた。
　俺はそれが自分の頬に落ちるのを身を固くして待った。

　その瞬間、藤崎の手首が掴まれる。
　硝だった。
「離せ」
　藤崎は短く自分の要求を伝えた。
「嫌だ」
　硝は鋭い目線で藤崎を睨むとそう答えた。
　藤崎は硝の言葉を聞くと、首をコキコキと左右に曲げ、大きく息を吐いた。
　そして掴まれていた手と反対の手で、硝の頬を思い切り殴りつけた。
　硝はベッドに倒れ込んだが、すぐに顔を上げた。
　口の端が切れたのか、血が滴っている。
　暴力を受けたばかりなのに、硝は反抗的な瞳で藤崎を睨みつけていた。
　藤崎はそんな硝を見て、舌打ちした。