楽園の在処

まめ太郎

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「俺だって外に出られたら、海の欲しい物何でも買ってあげた」
 硝はそう言うと、片足をダンと踏み鳴らした。
「外に出られたら、海の好きなところに連れて行って、美味しいものを食べて…最高の誕生日にしたのにっ」
 そう言って子供のように地団太を踏む硝を、俺は呆れて見つめた。
 外に出られたとしても無一文のお前にそれは無理なんじゃないかという言葉が喉元まで出かかったが、興奮している硝にそれを言うのはやめておいた。
「おい、落ち着けよ。分かったから」
 俺は立ちあがると、硝の肩を両手で掴んだ。
「外に出られたら、外に…」
 壊れた機械のようにくり返す硝を睨みつける。
「やめろ。そんなことを言ってるのがばれたら、お前もあそこに閉じ込められるぞ」
 俺は一度閉じ込められた便器しかないあの部屋を思い出して、気分が悪くなった。
 硝は俺の言葉が聞こえていないみたいに、ただ俺の手首に嵌る輝く時計をじっと見た。

「海。俺、こんなにも外に出たいと思ったことないよ」
 暫く経ってそう呟いた硝に俺は眉を顰めた。
「分かったよ。お前のその気持ちだけで充分だから。変なこと考えるんじゃねえぞ」
 俺の言葉に硝は分かったとは言わなかった。
 だからってまさか本当に硝が脱走しようとするなんて、その時の俺は思いもしなかった。
 
 俺の誕生日から一週間経った日の昼間。
 正午過ぎ藤崎の部下が顔を出した。
 無言で宅配ピザを机に置き、出て行こうとする。
 部下が玄関に向かってから少しして、大きな音と怒声が聞こえた。
 直ぐに両手を後ろで縛られた硝がリビングに連れて来られた。
 硝は部下の男に肩を押されて、前のめりになり床に額を打った。
「お前の処分は社長が決める」 
 それだけ言うと男は出て行った。
「一体何があったんだよ?」 
「逃げようとしたら掴った」
 硝はぶすりとそう言った。
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