楽園の在処

まめ太郎

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 やはりあの日、星と月は藤崎に小物入れを買ってもらっていた。
 家に帰るなり包みを開け、二人で輝くそれをかわるがわる持ち上げご満悦だ。
「中には大切なものを入れよう」
 そう星が言い、月が持ってきたものはいつか俺がオムライスの上に建てた旗だった。

 硝は家に帰ってからすぐに咳をするようになった。
 ベットで本を読んでいる時も、一緒にDVDを見ている時も空咳をくり返す。
「それ、俺への当てつけかよ」
 咳を終えた硝は俺の言葉にきょとんとして何も言わない。
 俺は舌打ちすると、キッチンに向かった。
 硝の苦し気な咳の音を聞くと、あの日自分が屋上に誘ったことを責められているような気分になる。
 俺はキッチンの棚からレシピ本を取り出し、あるページを眺めた。
「うわ、意外とめんどくせえな」

 俺は冷蔵庫から卵を取り出すと、卵黄だけ器に入れた。
 電子レンジで日本酒を温めると、卵黄をいれ、かき混ぜる。
「大体、あいつがコーラなんて飲むから、体が冷えて風邪ひいたんだろうが。自分のせいじゃねえかよ」
 俺はぼそりと呟くとカスタード色のそれに砂糖を入れ、更に混ぜ、ガーゼで濾した。
 俺はベットにいる硝に出来上がった玉子酒を持って行った。

「飲め」
 硝は俺から渡されたカップの匂いを嗅ぐと、顔を顰めた。
「うわ、何これ。変な匂い」
 俺はぎりりと奥歯を噛みしめた。
「体が温まるんだよ。いいから、飲め」
 確か玉子酒は風邪の時にいいのだと以前付き合っていた女が言っていた。それに人がわざわざ作ってやったのだから、絶対に飲ませるつもりだった。
 硝は渋々という雰囲気で、カップに口を付けた。
 ほんの少し唇に飲み物が触れた瞬間、硝がカップを持った手を遠ざけた。
「まずっ。いらない」
「いいから、全部飲めよっ」
 硝はよほど玉子酒の味が口に合わないのか、俺がカップを押し付けようとすると思い切り顔を背ける。俺は苛立って、硝の顎を掴むと、口に無理やりカップを押し当てた。
 そんな格闘の末、カップの中を空にする頃には硝の熱は38度以上に上がっていた。
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