楽園の在処

まめ太郎

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 久しぶりの外は予想したよりずっと寒かった。
 息を吸い込むと、鼻の先が冷たく痛い。藤崎にコートを借りて正解だった。
 車に乗り込み、窓の外に目をやる。車道脇の街路樹は紅葉も終わってすっかり葉を落とし、枝だけの姿になっていた。
 俺は目に映る景色全てが新鮮に感じ、ワゴンタイプの車の窓に額をつけ、何一つ見逃さないように、じっと冬の街を眺めた。
 デパートの地下の駐車場に車が止まる。
 助手席と運転席に座っていた大柄のスーツの男が車を降り、左右の扉を開ける。
 俺達が順番に降り、歩き始めると、後ろからぴったりスーツの二人が付いてくる。

 デパート一階のブランドショップが立ち並ぶ通路を、ぞろぞろと歩く。
 客や店員から強い視線を感じ、顔を上げると、その眼差しの大半は硝に向けられていた。
 月や星も硝が隣にいなければ、芸能人に間違えられてもおかしくないほどの顔をしていたが、硝の容姿は別次元だ。
 これほどの美しい男は、ブラウン管の向こうでもなかなかお目にかかれない。
 何で藤崎は平凡な容姿の俺なんか拾ったんだろうなあと改めて疑問に感じながら、一番後ろから着いて行った。

 藤崎が海外のブランドショップの前で立ち止まるとお辞儀をする店員に目もくれず、中に入る。
 月と星も続き、硝も相変わらず興味のなさそうな顔をしながらも入って行く。
 俺は今までの人生でほとんど足を踏み入れたことのない場所に気後れしながらも、それを店員にけどられないようにポーカーフェイスで後に続いた。


「海。来い」
 藤崎に呼ばれて近づくと、やけに肌触りのいい黒いセーターを押し付けられた。
「ああ、いいな。これ買うか」
 そう藤崎が呟く。
 俺が手渡されたセーターの値札を覗くと8万の数字が見えた。
 俺は血の気の引く思いで、藤崎の肩を掴んだ。
「こんなのいいよ。通りを渡ったところにある店なら同じもんが2,000円で買えるぜ」
 ヒモのような生活を送っていたことはあったが、相手に高額な出費を求めたことはなかった。服なんて着られればいいという考えで育ったせいで、こんな値段のセーターが世の中にあることさえ信じられない。
 特に今はほとんど室内で生活しているのに、こんな高い服を買う意味が分からなかった。
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