楽園の在処

37

珍しく藤崎はどこにも出かけず、朝からリビングのソファで毛玉のついたスエット姿で新聞を読んでいる。
　奴の足元には星と月の二人が並んで座っていて、藤崎はたまに二人の頭を撫でたり、頬にキスしてやったりしていた。
　俺はここ最近、すっかり料理にはまっていた。
　今度鳥一羽まるごと用意してもらって出汁を取り、スープからラーメンを作ってみたいと藤崎の隣に座り、レシピ本を眺めながら考えていた。
　硝はここのところ三食ラーメンにしていたら、流石に太ってきたらしく星から「デブ」と言われたことを気にしたのか、奥の部屋にあるランニングマシンで黙々とジョギングに励んでいた。
　藤崎が読んでいた新聞をばさりと机に置いた。

「久しぶりにデパートでも行くか」
「お出かけ？」
「やったー」
　藤崎の言葉に月と星の二人が文字通り飛び跳ね、奥の部屋に消えた。
　藤崎もこきこきと首を鳴らすと、そんな二人の後を追っていく。
　一人残された俺は三人が消えた部屋のドアを呆然と見つめた。

　えっ、お出かけとかそんな制度あんの？まさかこの格好のままじゃないよな？あー俺の服、初日に脱がされて、どこやったっけ。
　そんなことを考えていると、星と月の二人が部屋から出てきた。
　星はベージュのズボンにモヘアのホワイトのニット。
　裏地が赤チェックのキャメル色のダッフルコートを手に持っている。
　月は黒のジーンズにグレーのモヘアのニット。頭に黒のハットをかぶっていた。
　そんな二人がキャッキャとはしゃいでいる様は、正直テレビで見かけるアイドルのようで、しか20歳を超えているようには到底見えなかった。
　藤崎も髪を整えながら、歩いてくる。ハイネックのだぼっとしたグレーのニットに黒のジーンズと、いつもスーツ姿なのに珍しくカジュアルだ。
　最後に硝が藤崎の後ろから姿をみせた。
　カーキのズボンに白いТシャツ、紺色のダッフル。
　特別な格好でもないのに、これから雑誌の撮影ですか？と聞きたくなるほどきまっていた。惜しむらくはどこかぼんやりとした目の焦点と、せっかくの金髪についた酷い寝癖だろう。
　ともかく三人とも首輪はついたままだが、日頃素っ裸で生活しているようにはとても見えなかった。