30 / 66
30
しおりを挟む
俯いていた俺の顎が、長い指先にふいに持ち上げられた。息を飲んだ瞬間、唇を重ねられた。
心臓が暴れだし、体が歓喜に打ち震える。
「これで、分かった?」
顔を離した小糸が俺に問う。
俺は口を両手で押さえると、こくこくと頷いた。
「ファーストキス」
呟く俺をぎょっとした目で、小糸が見る。
「じょ、冗談だよ。俺だってキスくらいしたことあるって。もう平気だから、先に帰ってよ」
小糸がちらちらと振り返りながら出て行く。
俺は小糸の姿が視界から消えると、硬いマットに背中から倒れこんだ。
両手を天井に翳し、大きく息を吐く。
「初めて小糸がキスしてくれた」
俺はニマニマと笑いながらマットの上を転げまわった。
付き合いはじめてから数か月、俺達はまだキスはしていなかった。
体だけは重ねるのに、頑なにキスはしない小糸に俺はずっと不満があった。本命の彼女が別にいるんじゃないかと考えて、疑心暗鬼になったこともあった。
だからつい聞いてしまった。俺のことが本当に好きなのかと。
その答えがキスだなんて、やっぱり小糸はかっこいい。
かっこよすぎる。
散々酷使された腰が悲鳴を上げるのも構わず、俺はそこで派手に転げまわった。
その日、夕食の席には珍しく父親がいた。
食事が始まる前からウイスキーを飲んでいて、目の前のボトルが底をつくと、次子さんに言って新しいボトルを持って来させていた。
すでに泥酔しているらしく、父の吐く息は酒の匂いに染まり、呂律が回っていなかった。
「今日はやけに帰りが遅かったじゃないか」
父が俺の成績以外のことに興味を示すのは珍しかった。
「図書館で勉強をしていたので」
目を伏せそう答えると、父が鼻を鳴らした。
「勉強も大事だが、閉じこもってばかりじゃだめだ。人脈作りは高校のうちからしておけ。確か本条君と言ったかな。彼はТ建設の役員の息子だろ?またうちに遊びに来るように言いなさい」
「分かりました」
俺が素直に頷くと父は満足したようにテレビに目を向けた。
「なんだ、この番組は。おい、リモコンは何処だ」
テレビにはバラエティーに引っ張りだこの女装したコメンテーターが映っていた。
「こういう輩は全員集めて去勢しちまえばいいんだ。同性が好きだなんて、よくもまあテレビで言えるもんだ。畜生以下じゃないか」
父の言葉に俺は竦みあがった。
「貴雄も女みたいな顔をしてるが、心まで女々しくなっちまったら俺は許さんからな。まあ、俺の息子は間違ってもそんなことにはならないと思うが」
俺は黙って俯いていた。
先ほどまで俺が小糸としていた行為を知ったら、父がどんな行動に出るか、予想もつかなかった。
そんなことを考え、恐怖に身を固くしていたら、話への相槌が遅れた。
父が怒鳴り、目の前にあったグラスを掴んだ。
心臓が暴れだし、体が歓喜に打ち震える。
「これで、分かった?」
顔を離した小糸が俺に問う。
俺は口を両手で押さえると、こくこくと頷いた。
「ファーストキス」
呟く俺をぎょっとした目で、小糸が見る。
「じょ、冗談だよ。俺だってキスくらいしたことあるって。もう平気だから、先に帰ってよ」
小糸がちらちらと振り返りながら出て行く。
俺は小糸の姿が視界から消えると、硬いマットに背中から倒れこんだ。
両手を天井に翳し、大きく息を吐く。
「初めて小糸がキスしてくれた」
俺はニマニマと笑いながらマットの上を転げまわった。
付き合いはじめてから数か月、俺達はまだキスはしていなかった。
体だけは重ねるのに、頑なにキスはしない小糸に俺はずっと不満があった。本命の彼女が別にいるんじゃないかと考えて、疑心暗鬼になったこともあった。
だからつい聞いてしまった。俺のことが本当に好きなのかと。
その答えがキスだなんて、やっぱり小糸はかっこいい。
かっこよすぎる。
散々酷使された腰が悲鳴を上げるのも構わず、俺はそこで派手に転げまわった。
その日、夕食の席には珍しく父親がいた。
食事が始まる前からウイスキーを飲んでいて、目の前のボトルが底をつくと、次子さんに言って新しいボトルを持って来させていた。
すでに泥酔しているらしく、父の吐く息は酒の匂いに染まり、呂律が回っていなかった。
「今日はやけに帰りが遅かったじゃないか」
父が俺の成績以外のことに興味を示すのは珍しかった。
「図書館で勉強をしていたので」
目を伏せそう答えると、父が鼻を鳴らした。
「勉強も大事だが、閉じこもってばかりじゃだめだ。人脈作りは高校のうちからしておけ。確か本条君と言ったかな。彼はТ建設の役員の息子だろ?またうちに遊びに来るように言いなさい」
「分かりました」
俺が素直に頷くと父は満足したようにテレビに目を向けた。
「なんだ、この番組は。おい、リモコンは何処だ」
テレビにはバラエティーに引っ張りだこの女装したコメンテーターが映っていた。
「こういう輩は全員集めて去勢しちまえばいいんだ。同性が好きだなんて、よくもまあテレビで言えるもんだ。畜生以下じゃないか」
父の言葉に俺は竦みあがった。
「貴雄も女みたいな顔をしてるが、心まで女々しくなっちまったら俺は許さんからな。まあ、俺の息子は間違ってもそんなことにはならないと思うが」
俺は黙って俯いていた。
先ほどまで俺が小糸としていた行為を知ったら、父がどんな行動に出るか、予想もつかなかった。
そんなことを考え、恐怖に身を固くしていたら、話への相槌が遅れた。
父が怒鳴り、目の前にあったグラスを掴んだ。
5
お気に入りに追加
335
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる