上 下
3 / 35

第三話

しおりを挟む
 咲良は年内最後の学校が終わるまで、学校以外は家に引きこもった。幸い、その間に襲われることはなく、冬休みへと入った。
 冬休み中も生活を変えることなく家にいると、遙香から初詣に行かないかと誘いがあった。断ろうかとも思ったが、了承することにした。学校での襲撃から時間が空いていたこともあり、もしかしたら、あれは全部記憶違いだったのではないかという気がしていたのだ。
「おはよー!」
「おはよう、元気だね」
「うん!」
 遙香は振り袖姿だった。因みに咲良は普通に冬用の装いで、コートを羽織っている。
「じゃあさっそくお参りしよう」
 二人は人混みをかき分け参拝の列に加わった。朝早いというのに多くの人で賑わっている。
 やっと、参拝の順が来ると、賽銭を投げ込んで手を叩いた。
「ねぇ、すみれは何をお願いしたの?」
「別に。特に何もお願いしてないよ」
「えー何それ! お参りの意味ないじゃん!?」
 ―本当は何事もなく過ごせますようにとお願いした。
「そういう遙香は何かお願いしたの?」
「したよー、『すみれが元気でいられますように』って」
「他人の幸せ願ってどうするの」
「んー、自分のこと願ったら幸せになるの自分だけじゃん? でも、友達が幸せになったら私も嬉しいし、一石二鳥! って感じかな」
「……遙香らしいね」
 咲良が苦笑いをすると、遙香は唇を尖らせた。
「それ馬鹿にしてるの?」
「してないよ」
「むー……まあいっか。あ、それより、おみくじ引こうよ」
 ―立ち直りの早さも遙香らしい。
 二人はそのままおみくじを引いた。
「あ、吉だ! 待ち人来たるって! すみれは?」
「……」
「すみれ?」
 咲良は自分のおみくじを見て口を閉ざしていた。遙香が横から覗き込む。
「凶……まー所詮おみくじだから気にしない気にしない!」
「さっき、吉で喜んでたじゃん」
「それはそれ、これはこれだよ! あ、でもすみれも待ち人来るって書いてあるじゃん!」
 確かにおみくじにはそう書いてある。
(凶なのに待ち人来る?)
 首を傾げながらもそれを木に結んだ。
 と、そこで。
「あれ?」
 遙香の視線を追うと、同じクラスの生徒がいた。名前は確か大村といったはず。
「あ、飯田さんに秋山さん」
「大村くんも初詣に来たんだ?」
 遙香がモジモジしながら大村に聞く。
 ―『待ち人来たる』……なるほどそういうことか。
 遙香のおみくじは当たったようだ。
「ん、いや、違うよ。ちょっと会いたい人がいて」
「え、それって……」
 遙香が上目がちにうかがう。
 だが。
 ニヤァ。
 大村が、笑った。
(……!)
 咲良の頭の中で、ガンガンと激しく警鐘が鳴った。遙香を見たが、彼女は気づいていないらしい。
「え、すみれ!?」
 腕を引っ張る咲良に戸惑う遙香。
「ちょっと、どうしたの!?」
 遙香が問いただそうとするが、咲良は止まらない。
 横合いから参拝客の手が伸びてきた。その手は救いではない。
 咲良たちを捉えようとする手の数はどんどん増えていく。そこで、やっと遙香は異変に気づいた。
「何なの、この人たち……!」
 二人は逃げようとするが、振り袖姿の遙香は足がおぼつかない。
 ―考えが甘かった。あの事件は夢でも幻でもなかったんだ。
「きゃあ!」
 遙香が悲鳴を上げると同時に咲良の手に抵抗があった。
 遙香が捕まったのだ。
「遙香!」
 遙香の腕を引っ張ろうとするが、一つ、二つとまた別の手が彼女を拘束していく。
(このままじゃ……!)
 ついに、咲良も捕まってしまった。
(私のせいだ……!)
 自分の考えが甘かったから、また遙香を巻き込んでしまった。前回はなんとか逃げられたが、この状況は絶望的だ。
「やあああああああああああああ!」
 もう終わりだと目を瞑ったとき、雄叫びが聞こえてきた。拘束される中、かろうじて目をやると、少女が一人突っ込んできた。そして。
 ドカッ。
 遙香を拘束する手に跳び蹴りをかまし、さらに、咲良に伸びていた手も蹴り落とした。
「急いで!」
 そのまま彼女は参拝客を牽制しつつ、二人を神社の外へ促した。

「はぁ、はぁ……」
 遙香と咲良は荒い息を吐いた。
「もう、大丈夫かな」
 そう言った少女を、咲良は膝に手を置きながら見上げた。
「河合さん?」
 二人を救った小柄な少女の名は河合かわいあんず。それはクラスメイトだった。
「うん」
「何で?」
 咲良が問うと、河合は少し悩むそぶりを見せた。
「何でって言われても困っちゃうな。私もまだ悩み中だし。……ああ、そうだ」
「何?」
「頑張ったね、咲良・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

虚像のゆりかご

新菜いに
ミステリー
フリーターの青年・八尾《やお》が気が付いた時、足元には死体が転がっていた。 見知らぬ場所、誰かも分からない死体――混乱しながらもどういう経緯でこうなったのか記憶を呼び起こそうとするが、気絶させられていたのか全く何も思い出せない。 しかも自分の手には大量の血を拭き取ったような跡があり、はたから見たら八尾自身が人を殺したのかと思われる状況。 誰かが自分を殺人犯に仕立て上げようとしている――そう気付いた時、怪しげな女が姿を現した。 意味の分からないことばかり自分に言ってくる女。 徐々に明らかになる死体の素性。 案の定八尾の元にやってきた警察。 無実の罪を着せられないためには、自分で真犯人を見つけるしかない。 八尾は行動を起こすことを決意するが、また新たな死体が見つかり…… ※動物が殺される描写があります。苦手な方はご注意ください。 ※登場する施設の中には架空のものもあります。 ※この作品はカクヨムでも掲載しています。 ©2022 新菜いに

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

月明かりの儀式

葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、幼馴染でありながら、ある日、神秘的な洋館の探検に挑むことに決めた。洋館には、過去の住人たちの悲劇が秘められており、特に「月明かりの間」と呼ばれる部屋には不気味な伝説があった。二人はその場所で、古い肖像画や日記を通じて、禁断の儀式とそれに伴う呪いの存在を知る。 儀式を再現することで過去の住人たちを解放できるかもしれないと考えた葉羽は、仲間の彩由美と共に儀式を行うことを決意する。しかし、儀式の最中に影たちが現れ、彼らは過去の記憶を映し出しながら、真実を求めて叫ぶ。過去の住人たちの苦しみと後悔が明らかになる中、二人はその思いを受け止め、解放を目指す。 果たして、葉羽と彩由美は過去の悲劇を乗り越え、住人たちを解放することができるのか。そして、彼ら自身の運命はどうなるのか。月明かりの下で繰り広げられる、謎と感動の物語が展開されていく。

駒込の七不思議

中村音音(なかむらねおん)
ミステリー
地元のSNSで気になったこと・モノをエッセイふうに書いている。そんな流れの中で、駒込の七不思議を書いてみない? というご提案をいただいた。 7話で完結する駒込のミステリー。

【完結】縁因-えんいんー 第7回ホラー・ミステリー大賞奨励賞受賞

衿乃 光希
ミステリー
高校で、女子高生二人による殺人未遂事件が発生。 子供を亡くし、自宅療養中だった週刊誌の記者芙季子は、真相と動機に惹かれ仕事復帰する。 二人が抱える問題。親が抱える問題。芙季子と夫との問題。 たくさんの問題を抱えながら、それでも生きていく。 実際にある地名・職業・業界をモデルにさせて頂いておりますが、フィクションです。 R-15は念のためです。 第7回ホラー・ミステリー大賞にて9位で終了、奨励賞を頂きました。 皆さま、ありがとうございました。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

処理中です...