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第三話
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咲良は年内最後の学校が終わるまで、学校以外は家に引きこもった。幸い、その間に襲われることはなく、冬休みへと入った。
冬休み中も生活を変えることなく家にいると、遙香から初詣に行かないかと誘いがあった。断ろうかとも思ったが、了承することにした。学校での襲撃から時間が空いていたこともあり、もしかしたら、あれは全部記憶違いだったのではないかという気がしていたのだ。
「おはよー!」
「おはよう、元気だね」
「うん!」
遙香は振り袖姿だった。因みに咲良は普通に冬用の装いで、コートを羽織っている。
「じゃあさっそくお参りしよう」
二人は人混みをかき分け参拝の列に加わった。朝早いというのに多くの人で賑わっている。
やっと、参拝の順が来ると、賽銭を投げ込んで手を叩いた。
「ねぇ、すみれは何をお願いしたの?」
「別に。特に何もお願いしてないよ」
「えー何それ! お参りの意味ないじゃん!?」
―本当は何事もなく過ごせますようにとお願いした。
「そういう遙香は何かお願いしたの?」
「したよー、『すみれが元気でいられますように』って」
「他人の幸せ願ってどうするの」
「んー、自分のこと願ったら幸せになるの自分だけじゃん? でも、友達が幸せになったら私も嬉しいし、一石二鳥! って感じかな」
「……遙香らしいね」
咲良が苦笑いをすると、遙香は唇を尖らせた。
「それ馬鹿にしてるの?」
「してないよ」
「むー……まあいっか。あ、それより、おみくじ引こうよ」
―立ち直りの早さも遙香らしい。
二人はそのままおみくじを引いた。
「あ、吉だ! 待ち人来たるって! すみれは?」
「……」
「すみれ?」
咲良は自分のおみくじを見て口を閉ざしていた。遙香が横から覗き込む。
「凶……まー所詮おみくじだから気にしない気にしない!」
「さっき、吉で喜んでたじゃん」
「それはそれ、これはこれだよ! あ、でもすみれも待ち人来るって書いてあるじゃん!」
確かにおみくじにはそう書いてある。
(凶なのに待ち人来る?)
首を傾げながらもそれを木に結んだ。
と、そこで。
「あれ?」
遙香の視線を追うと、同じクラスの生徒がいた。名前は確か大村といったはず。
「あ、飯田さんに秋山さん」
「大村くんも初詣に来たんだ?」
遙香がモジモジしながら大村に聞く。
―『待ち人来たる』……なるほどそういうことか。
遙香のおみくじは当たったようだ。
「ん、いや、違うよ。ちょっと会いたい人がいて」
「え、それって……」
遙香が上目がちにうかがう。
だが。
ニヤァ。
大村が、笑った。
(……!)
咲良の頭の中で、ガンガンと激しく警鐘が鳴った。遙香を見たが、彼女は気づいていないらしい。
「え、すみれ!?」
腕を引っ張る咲良に戸惑う遙香。
「ちょっと、どうしたの!?」
遙香が問いただそうとするが、咲良は止まらない。
横合いから参拝客の手が伸びてきた。その手は救いではない。
咲良たちを捉えようとする手の数はどんどん増えていく。そこで、やっと遙香は異変に気づいた。
「何なの、この人たち……!」
二人は逃げようとするが、振り袖姿の遙香は足がおぼつかない。
―考えが甘かった。あの事件は夢でも幻でもなかったんだ。
「きゃあ!」
遙香が悲鳴を上げると同時に咲良の手に抵抗があった。
遙香が捕まったのだ。
「遙香!」
遙香の腕を引っ張ろうとするが、一つ、二つとまた別の手が彼女を拘束していく。
(このままじゃ……!)
ついに、咲良も捕まってしまった。
(私のせいだ……!)
自分の考えが甘かったから、また遙香を巻き込んでしまった。前回はなんとか逃げられたが、この状況は絶望的だ。
「やあああああああああああああ!」
もう終わりだと目を瞑ったとき、雄叫びが聞こえてきた。拘束される中、かろうじて目をやると、少女が一人突っ込んできた。そして。
ドカッ。
遙香を拘束する手に跳び蹴りをかまし、さらに、咲良に伸びていた手も蹴り落とした。
「急いで!」
そのまま彼女は参拝客を牽制しつつ、二人を神社の外へ促した。
「はぁ、はぁ……」
遙香と咲良は荒い息を吐いた。
「もう、大丈夫かな」
そう言った少女を、咲良は膝に手を置きながら見上げた。
「河合さん?」
二人を救った小柄な少女の名は河合あんず。それはクラスメイトだった。
「うん」
「何で?」
咲良が問うと、河合は少し悩むそぶりを見せた。
「何でって言われても困っちゃうな。私もまだ悩み中だし。……ああ、そうだ」
「何?」
「頑張ったね、咲良」
冬休み中も生活を変えることなく家にいると、遙香から初詣に行かないかと誘いがあった。断ろうかとも思ったが、了承することにした。学校での襲撃から時間が空いていたこともあり、もしかしたら、あれは全部記憶違いだったのではないかという気がしていたのだ。
「おはよー!」
「おはよう、元気だね」
「うん!」
遙香は振り袖姿だった。因みに咲良は普通に冬用の装いで、コートを羽織っている。
「じゃあさっそくお参りしよう」
二人は人混みをかき分け参拝の列に加わった。朝早いというのに多くの人で賑わっている。
やっと、参拝の順が来ると、賽銭を投げ込んで手を叩いた。
「ねぇ、すみれは何をお願いしたの?」
「別に。特に何もお願いしてないよ」
「えー何それ! お参りの意味ないじゃん!?」
―本当は何事もなく過ごせますようにとお願いした。
「そういう遙香は何かお願いしたの?」
「したよー、『すみれが元気でいられますように』って」
「他人の幸せ願ってどうするの」
「んー、自分のこと願ったら幸せになるの自分だけじゃん? でも、友達が幸せになったら私も嬉しいし、一石二鳥! って感じかな」
「……遙香らしいね」
咲良が苦笑いをすると、遙香は唇を尖らせた。
「それ馬鹿にしてるの?」
「してないよ」
「むー……まあいっか。あ、それより、おみくじ引こうよ」
―立ち直りの早さも遙香らしい。
二人はそのままおみくじを引いた。
「あ、吉だ! 待ち人来たるって! すみれは?」
「……」
「すみれ?」
咲良は自分のおみくじを見て口を閉ざしていた。遙香が横から覗き込む。
「凶……まー所詮おみくじだから気にしない気にしない!」
「さっき、吉で喜んでたじゃん」
「それはそれ、これはこれだよ! あ、でもすみれも待ち人来るって書いてあるじゃん!」
確かにおみくじにはそう書いてある。
(凶なのに待ち人来る?)
首を傾げながらもそれを木に結んだ。
と、そこで。
「あれ?」
遙香の視線を追うと、同じクラスの生徒がいた。名前は確か大村といったはず。
「あ、飯田さんに秋山さん」
「大村くんも初詣に来たんだ?」
遙香がモジモジしながら大村に聞く。
―『待ち人来たる』……なるほどそういうことか。
遙香のおみくじは当たったようだ。
「ん、いや、違うよ。ちょっと会いたい人がいて」
「え、それって……」
遙香が上目がちにうかがう。
だが。
ニヤァ。
大村が、笑った。
(……!)
咲良の頭の中で、ガンガンと激しく警鐘が鳴った。遙香を見たが、彼女は気づいていないらしい。
「え、すみれ!?」
腕を引っ張る咲良に戸惑う遙香。
「ちょっと、どうしたの!?」
遙香が問いただそうとするが、咲良は止まらない。
横合いから参拝客の手が伸びてきた。その手は救いではない。
咲良たちを捉えようとする手の数はどんどん増えていく。そこで、やっと遙香は異変に気づいた。
「何なの、この人たち……!」
二人は逃げようとするが、振り袖姿の遙香は足がおぼつかない。
―考えが甘かった。あの事件は夢でも幻でもなかったんだ。
「きゃあ!」
遙香が悲鳴を上げると同時に咲良の手に抵抗があった。
遙香が捕まったのだ。
「遙香!」
遙香の腕を引っ張ろうとするが、一つ、二つとまた別の手が彼女を拘束していく。
(このままじゃ……!)
ついに、咲良も捕まってしまった。
(私のせいだ……!)
自分の考えが甘かったから、また遙香を巻き込んでしまった。前回はなんとか逃げられたが、この状況は絶望的だ。
「やあああああああああああああ!」
もう終わりだと目を瞑ったとき、雄叫びが聞こえてきた。拘束される中、かろうじて目をやると、少女が一人突っ込んできた。そして。
ドカッ。
遙香を拘束する手に跳び蹴りをかまし、さらに、咲良に伸びていた手も蹴り落とした。
「急いで!」
そのまま彼女は参拝客を牽制しつつ、二人を神社の外へ促した。
「はぁ、はぁ……」
遙香と咲良は荒い息を吐いた。
「もう、大丈夫かな」
そう言った少女を、咲良は膝に手を置きながら見上げた。
「河合さん?」
二人を救った小柄な少女の名は河合あんず。それはクラスメイトだった。
「うん」
「何で?」
咲良が問うと、河合は少し悩むそぶりを見せた。
「何でって言われても困っちゃうな。私もまだ悩み中だし。……ああ、そうだ」
「何?」
「頑張ったね、咲良」
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