23 / 35
第二十二話
しおりを挟む
「始めに言っておくけど、咲良の質問には答えないからね」
純麗は説明をする前に、そう言って咲良を突き放した。
「はいはい」
咲良は純麗と朱音から疎外感を感じなくはなかったが、彼女らの存在に関してそれほど固執をしてはいない。咲良が純麗に殺された理由がすでに解決済みだということも大きい。
咲良を置いといて、純麗と朱音は話をし始める。
「遙香は『大村君が無事ならそれでいい』って言ってた。おそらく、うちのクラスの大村の体を乗っ取って「こいつの命を助けて欲しければ咲良を殺せ」とでも言われたんだと思う」
「話としては簡単だけど、そんなことあの人たちがするとは思えないんだけど」
「だろうね。そんな回りくどいこと、オレグの奴らはやらない」
「じゃあどうして……」
「シン派の連中だろう」
その言葉を聞いて、朱音は驚きと共に苦い表情を浮かべた。
「シン派……でもどうして? 根拠は?」
「理由は……」
純麗は咲良をチラッと見た。彼女はブランケットを遙香にかけている途中だった。
「……詳しいことは分からないけど、混ざったからじゃないかな。今までと違うのはたぶんそこだけだよ。それから、根拠は簡単。私を一ヶ月前に襲ったのは彼らだったから」
一ヶ月前。純麗が意識不明の重体になった事件だ。
「そうだったんだ……」
「うん。で、それも偶然には出来過ぎてた。その日、咲良も学校でオレグに襲われたでしょ?」
「狙ったってこと?」
「もっと言うと、オレグをそそのかしたのかもしれない」
「じゃあ……私たちは今、両方同時に敵に回してるの?」
朱音は不安げな顔になる。
「そういうことになるね」
「…………」
「兎にも角にも、遙香は咲良を狙った訳だけど……まぁ、本気じゃなかっただろうね」
「どういうこと?」
「わざわざ人通りの多いところで前口上、目立つようなジェスチャー、加えて最後は自分を刺そうとした」
「…………」
「『男を取る』って言ってたけど、あれは嘘だな。両方助けたくて、でもどうにもならなくて、誰かに止めてもらいたくてああするしかなかったんだろうね。最後は自分が死ぬことで咲良と大村を救おうとしたんでしょ」
(遙香……)
咲良は話を聞きながらソファで眠る親友を見つめた。彼女が誰かを犠牲にする道を選ぶ訳がない。
「あのままじゃ、確実に自害してただろうね。でも私は、最後の最後に、しかも致命傷をぎりぎり避けるくらいの深手を負わせることでしか救えなかった」
純麗は悔しそうに言う。
「そうしないと、両方を救いたいっていう遙香の思いが無駄になるから」
「ごめんね、私も行ければ良かったんだけど……」
「いいよ。その体は朱音のものだけじゃないだろう?」
純麗の言う通り、朱音はなるべく凛を危険にはさらしたくなかった。咲良に近づいたり、咲良を守ったときだって、決めたのは凛だ。
一年以上前に起こった事件。当時、朱音は凛に状況を説明するために、咲良や純麗のことを話した。話すうちに凛は咲良に興味を持ち、「きっと寂しい思いをしてる」だろうから彼女を救いたいと言い出した。
「それに、その場にいたとして、朱音が私と同じ選択をするとは保証できない」
「……そう、かもね」
(私なら……)
自分ならどうしただろうか。悲痛な思いの遙香を最後一歩手前まで見ていることが出来ただろうか。彼女の思いを無視して、すぐに飛び込んでいたかもしれない。それが、良いことか悪いことかは分からないが、遙香の気持ちは救われなかっただろう。
「ま、終わったことはしょうがない。これからどうする?」
「どうするって?」
「私は売られた喧嘩は買う」
「買ってどうするの? 私たちだけじゃ何もできないよ」
「買うのは私だけだよ」
「何言ってるの? お姉ちゃんだけじゃ―」
「それで、みんな助かるの?」
「それは……」
「どっちを選んでも厳しい状況なら、行動する方を選ぶよ」
「……テルカらしいね」
(この世界に飛び込むって言ったのもテルカだったな……)
もう、あまり呼ぶこともなくなった名前を、朱音は思い出す。
純麗は説明をする前に、そう言って咲良を突き放した。
「はいはい」
咲良は純麗と朱音から疎外感を感じなくはなかったが、彼女らの存在に関してそれほど固執をしてはいない。咲良が純麗に殺された理由がすでに解決済みだということも大きい。
咲良を置いといて、純麗と朱音は話をし始める。
「遙香は『大村君が無事ならそれでいい』って言ってた。おそらく、うちのクラスの大村の体を乗っ取って「こいつの命を助けて欲しければ咲良を殺せ」とでも言われたんだと思う」
「話としては簡単だけど、そんなことあの人たちがするとは思えないんだけど」
「だろうね。そんな回りくどいこと、オレグの奴らはやらない」
「じゃあどうして……」
「シン派の連中だろう」
その言葉を聞いて、朱音は驚きと共に苦い表情を浮かべた。
「シン派……でもどうして? 根拠は?」
「理由は……」
純麗は咲良をチラッと見た。彼女はブランケットを遙香にかけている途中だった。
「……詳しいことは分からないけど、混ざったからじゃないかな。今までと違うのはたぶんそこだけだよ。それから、根拠は簡単。私を一ヶ月前に襲ったのは彼らだったから」
一ヶ月前。純麗が意識不明の重体になった事件だ。
「そうだったんだ……」
「うん。で、それも偶然には出来過ぎてた。その日、咲良も学校でオレグに襲われたでしょ?」
「狙ったってこと?」
「もっと言うと、オレグをそそのかしたのかもしれない」
「じゃあ……私たちは今、両方同時に敵に回してるの?」
朱音は不安げな顔になる。
「そういうことになるね」
「…………」
「兎にも角にも、遙香は咲良を狙った訳だけど……まぁ、本気じゃなかっただろうね」
「どういうこと?」
「わざわざ人通りの多いところで前口上、目立つようなジェスチャー、加えて最後は自分を刺そうとした」
「…………」
「『男を取る』って言ってたけど、あれは嘘だな。両方助けたくて、でもどうにもならなくて、誰かに止めてもらいたくてああするしかなかったんだろうね。最後は自分が死ぬことで咲良と大村を救おうとしたんでしょ」
(遙香……)
咲良は話を聞きながらソファで眠る親友を見つめた。彼女が誰かを犠牲にする道を選ぶ訳がない。
「あのままじゃ、確実に自害してただろうね。でも私は、最後の最後に、しかも致命傷をぎりぎり避けるくらいの深手を負わせることでしか救えなかった」
純麗は悔しそうに言う。
「そうしないと、両方を救いたいっていう遙香の思いが無駄になるから」
「ごめんね、私も行ければ良かったんだけど……」
「いいよ。その体は朱音のものだけじゃないだろう?」
純麗の言う通り、朱音はなるべく凛を危険にはさらしたくなかった。咲良に近づいたり、咲良を守ったときだって、決めたのは凛だ。
一年以上前に起こった事件。当時、朱音は凛に状況を説明するために、咲良や純麗のことを話した。話すうちに凛は咲良に興味を持ち、「きっと寂しい思いをしてる」だろうから彼女を救いたいと言い出した。
「それに、その場にいたとして、朱音が私と同じ選択をするとは保証できない」
「……そう、かもね」
(私なら……)
自分ならどうしただろうか。悲痛な思いの遙香を最後一歩手前まで見ていることが出来ただろうか。彼女の思いを無視して、すぐに飛び込んでいたかもしれない。それが、良いことか悪いことかは分からないが、遙香の気持ちは救われなかっただろう。
「ま、終わったことはしょうがない。これからどうする?」
「どうするって?」
「私は売られた喧嘩は買う」
「買ってどうするの? 私たちだけじゃ何もできないよ」
「買うのは私だけだよ」
「何言ってるの? お姉ちゃんだけじゃ―」
「それで、みんな助かるの?」
「それは……」
「どっちを選んでも厳しい状況なら、行動する方を選ぶよ」
「……テルカらしいね」
(この世界に飛び込むって言ったのもテルカだったな……)
もう、あまり呼ぶこともなくなった名前を、朱音は思い出す。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
眼異探偵
知人さん
ミステリー
両目で色が違うオッドアイの名探偵が
眼に備わっている特殊な能力を使って
親友を救うために難事件を
解決していく物語。
だが、1番の難事件である助手の謎を
解決しようとするが、助手の運命は...
水華館−水の中の華たち−
桜月 翠恋
ミステリー
時は大正あたりだろうか?
珍しい華を飾る館があるという噂が広まっていた
その珍妙な館の取材をするために記者である一人の男が
館の主である、女神と話し、真実を探るための物語である…
なお、この作品には過激な表現が含まれる可能性があります
ご注意ください。
マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~
気の言
ミステリー
いたって平凡な男子高校生の玉宮香六(たまみや かむい)はひょんなことから、中学からの腐れ縁である姫石華(ひめいし はな)と入れ替わってしまった。このまま元に戻らずにラブコメみたいな生活を送っていくのかと不安をいだきはじめた時に、二人を元に戻すための解決の糸口が見つかる。だが、このことがきっかけで事態は急展開を迎えてしまう。
現実に入れ替わりが起きたことを想定した、恋愛要素あり、謎ありの空想科学小説です。
この作品はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ファクト ~真実~
華ノ月
ミステリー
主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。
そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。
その事件がなぜ起こったのか?
本当の「悪」は誰なのか?
そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。
こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたしますm(__)m
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる