6 / 35
第六話
しおりを挟む
全校集会でクラスメイトの死が告げられた。しかし、悲劇はここから始まった。五日後にもう一人死んだのだ。また、クラスメイトだった。今度は交通事故だった。さらに四日後、三人目が死んだ。彼女もクラスメイトで、死因はマンションからの飛び降り自殺。
学校側は、クラスメイトが立て続けに死んだことでショックを受けたことが原因ではないかと考えていた。しかし、咲良は嫌な予感がしていた。
「ねぇ、咲良」
「何?」
「偶然かな?」
何が、とは聞かなくても咲良には分かっていた。
「遙香も、変だと思う?」
「うん、さすがに三人連続は普通じゃ考えられないと思う」
―去年から私が襲われてきたことと関係があるかもしれない。でも、これがそうだとして、何で急に矛先が変わったのだろうか。
「日直、挨拶」
「起立。礼」
数学の授業が始まり、話はそこで中断となった。
――あれ以来、姉とは話していなかったけど、そろそろ頃合いかもしれない。
咲良がそんなことを考えていたら、机がポンポンと叩かれた。どうやら、教師に当てられていたらしい。
「集中しろよ」
「すみません……」
「ここ最近、飯田に限らずボーッとしているやつが多いから気をつけろ」
三人もの仲間が死んだのだ。皆、いつもの精神状態ではない。教師もそれが分かっていてあえて注意したのだろう。まともに咎める意思はないようだ。
「先生」
ガタッ、という音とともに、男子生徒が立ち上がった。
「何だ? トイレか?」
皆の視線が向くと、彼は言った。
「授業に集中できてない飯田さんは、死んだ方がいいと思います」
教室が凍り付いた。普段であっても許されない発言だが、最近の状況でこの冗談はまずい。誰もがそう思い、教師の顔色を窺った。
だが、教師は落ち着いていた。
「私はそんなことは思わないがな」
皆が安堵したとき、男子生徒はニヤッと笑う。
「じゃあ、僕が殺しますね」
ゾワッ、と咲良の身の毛がよだった。直後に男子生徒は咲良にとびかかった。その手にはカッターナイフが握られている。突然の出来事に咲良は対処が遅れた。
(あ……)
振り下ろされるカッターナイフがスローモーションに見えた。
遙香が目を見開き、純麗が手を伸ばすが間に合わない。
(私、死―)
死を察した咲良。
ドスッ。
心臓を一突きだった。
しかし。
「え」
心臓を刺されていたのは男子生徒。
そして、刺したのは。
「先生?」
男子生徒に突き刺さるナイフ。その柄を握っていたのは教師だった。
「死んだ方がいいのはお前だ」
教師はそう言い放った。
数秒遅れて遙香と純麗が駆け寄った。
「咲良!」
「大丈夫!?」
「……うん、私は……大丈夫だけど……」
咲良は目の前の惨状に体が震えたが、純麗は咲良にケガがないことを冷静に確認したあと、教師に向き直った。
「シン派の者か」
教師は淡々と答えた。
「あなたは……もしかしてテルカ様ですか?」
「聞いているのはこちらだ。答えろ」
「ええ、いかにも私はシン派の者ですが」
純麗の鋭い視線を受けて、教師は弁明する。
「そんなに睨まないでください。私はシン派の中でも穏健派ですので」
教師は男子生徒に刺さったままのナイフから手を引いた。男子生徒は床に倒れ、血だまりが広がっていく。
それまであまりのことに言葉を失っていた生徒たちが悲鳴を上げた。
「私の役目は終わりですね。次の者に引き継がなくては。テルカ様、次の者が穏健派とは限らないのでご注意を。それでは私は戻ります」
「待て!」
純麗が呼び止めようとしたが、答えはなく、代わりにおかしな反応が返ってきた。
「え、あ、え? なんだこれ……何が起きたんだ!? おい! 大丈夫か!? 誰か保健室と職員室に連絡を! 救急車を呼ぶよう伝えてくれ!」
「ばれたらまずいって言ったのにぃ~」
椅子の上でしゃがみながら回転する少女、純麗。もちろん、姿形は河合あんずである。
「そんなこと言ってる場合じゃない」
「あ、遙香もしかして怒ってる? ねぇ怒ってるの?」
椅子の回転を止めた純麗が煽る。
それを見届けた遙香は表情を消して一言だけ喋った。
「すみれ」
「あ、はい。すみませんでした」
普段はその持ち前の性格で後れを取ることがない純麗だが、遙香が本気で怒った時はその限りではない。とにかく、純麗は手のひらを返して謝った。
頃合いだと思った咲良が純麗に尋ねる。
「それで、お姉ちゃん。昨日のこと教えてくれるんだよね?」
昨日、教師が生徒を刺し殺すという前代未聞の事件が起きたことにより、学校が休校になったため、ことの真実を知るために咲良と遙香があんずの家に押しかけたのだ。
「う~ん……まぁ、たぶんもうあっちにはばれてるだろうからいっか」
純麗は諦めたかのようにため息をついた。
そして、語り始める。
「昔々の話です。この宇宙が生まれるよりほんの少し前、最初の宇宙は誕生しました――」
学校側は、クラスメイトが立て続けに死んだことでショックを受けたことが原因ではないかと考えていた。しかし、咲良は嫌な予感がしていた。
「ねぇ、咲良」
「何?」
「偶然かな?」
何が、とは聞かなくても咲良には分かっていた。
「遙香も、変だと思う?」
「うん、さすがに三人連続は普通じゃ考えられないと思う」
―去年から私が襲われてきたことと関係があるかもしれない。でも、これがそうだとして、何で急に矛先が変わったのだろうか。
「日直、挨拶」
「起立。礼」
数学の授業が始まり、話はそこで中断となった。
――あれ以来、姉とは話していなかったけど、そろそろ頃合いかもしれない。
咲良がそんなことを考えていたら、机がポンポンと叩かれた。どうやら、教師に当てられていたらしい。
「集中しろよ」
「すみません……」
「ここ最近、飯田に限らずボーッとしているやつが多いから気をつけろ」
三人もの仲間が死んだのだ。皆、いつもの精神状態ではない。教師もそれが分かっていてあえて注意したのだろう。まともに咎める意思はないようだ。
「先生」
ガタッ、という音とともに、男子生徒が立ち上がった。
「何だ? トイレか?」
皆の視線が向くと、彼は言った。
「授業に集中できてない飯田さんは、死んだ方がいいと思います」
教室が凍り付いた。普段であっても許されない発言だが、最近の状況でこの冗談はまずい。誰もがそう思い、教師の顔色を窺った。
だが、教師は落ち着いていた。
「私はそんなことは思わないがな」
皆が安堵したとき、男子生徒はニヤッと笑う。
「じゃあ、僕が殺しますね」
ゾワッ、と咲良の身の毛がよだった。直後に男子生徒は咲良にとびかかった。その手にはカッターナイフが握られている。突然の出来事に咲良は対処が遅れた。
(あ……)
振り下ろされるカッターナイフがスローモーションに見えた。
遙香が目を見開き、純麗が手を伸ばすが間に合わない。
(私、死―)
死を察した咲良。
ドスッ。
心臓を一突きだった。
しかし。
「え」
心臓を刺されていたのは男子生徒。
そして、刺したのは。
「先生?」
男子生徒に突き刺さるナイフ。その柄を握っていたのは教師だった。
「死んだ方がいいのはお前だ」
教師はそう言い放った。
数秒遅れて遙香と純麗が駆け寄った。
「咲良!」
「大丈夫!?」
「……うん、私は……大丈夫だけど……」
咲良は目の前の惨状に体が震えたが、純麗は咲良にケガがないことを冷静に確認したあと、教師に向き直った。
「シン派の者か」
教師は淡々と答えた。
「あなたは……もしかしてテルカ様ですか?」
「聞いているのはこちらだ。答えろ」
「ええ、いかにも私はシン派の者ですが」
純麗の鋭い視線を受けて、教師は弁明する。
「そんなに睨まないでください。私はシン派の中でも穏健派ですので」
教師は男子生徒に刺さったままのナイフから手を引いた。男子生徒は床に倒れ、血だまりが広がっていく。
それまであまりのことに言葉を失っていた生徒たちが悲鳴を上げた。
「私の役目は終わりですね。次の者に引き継がなくては。テルカ様、次の者が穏健派とは限らないのでご注意を。それでは私は戻ります」
「待て!」
純麗が呼び止めようとしたが、答えはなく、代わりにおかしな反応が返ってきた。
「え、あ、え? なんだこれ……何が起きたんだ!? おい! 大丈夫か!? 誰か保健室と職員室に連絡を! 救急車を呼ぶよう伝えてくれ!」
「ばれたらまずいって言ったのにぃ~」
椅子の上でしゃがみながら回転する少女、純麗。もちろん、姿形は河合あんずである。
「そんなこと言ってる場合じゃない」
「あ、遙香もしかして怒ってる? ねぇ怒ってるの?」
椅子の回転を止めた純麗が煽る。
それを見届けた遙香は表情を消して一言だけ喋った。
「すみれ」
「あ、はい。すみませんでした」
普段はその持ち前の性格で後れを取ることがない純麗だが、遙香が本気で怒った時はその限りではない。とにかく、純麗は手のひらを返して謝った。
頃合いだと思った咲良が純麗に尋ねる。
「それで、お姉ちゃん。昨日のこと教えてくれるんだよね?」
昨日、教師が生徒を刺し殺すという前代未聞の事件が起きたことにより、学校が休校になったため、ことの真実を知るために咲良と遙香があんずの家に押しかけたのだ。
「う~ん……まぁ、たぶんもうあっちにはばれてるだろうからいっか」
純麗は諦めたかのようにため息をついた。
そして、語り始める。
「昔々の話です。この宇宙が生まれるよりほんの少し前、最初の宇宙は誕生しました――」
0
あなたにおすすめの小説
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる