13 / 42
くつろげる
しおりを挟む
自分の言葉の返答ではなく団子の事を問われ、里長が奇妙な顔をする。
「そうか」
しっかりと味を確かめるように咀嚼する晴信を、里の者たちがいぶかしげに見た。
「うん。うまい」
晴信は、ひとつをつまんで克頼に差し出した。
「うまいぞ、克頼。これほどうまい団子を作れる者を、大切にせねばらないな」
受け取った克頼が、ぽんと団子を口に入れる。それを満足そうに見て、晴信は里の者たちに顔を戻した。
「あの者に、とてもうまい団子だったと伝えてくれ。団子の礼に、必ず応えると」
感動のざわめきが立ち、彼らは再び頭を下げた。
「晴信様。そろそろ」
克頼が促し、里長が彼の息子を振り返った。
「隼人」
呼ばれ、前に出た男が晴信の顔をにらむようにして、挨拶した。
「長谷部の里長、長谷部源九郎の息子、隼人です。俺が、お館様をご案内いたします」
晴信は彼の射抜くような視線にたじろぎつつ、あいまいに頷いた。克頼が目の端に不快を滲ませる。
「それでは、こちらへ」
さっさと出て行く隼人に、晴信は慌てて立ち上がり、挨拶もそこそこに後を追った。克頼は警戒を漲らせて腰を上げる。
表に出れば、隼人はギロリと晴信を見た。
「何もかも、包み隠さず申し立てます。不快になられる事を、先にお覚悟ください」
隼人は晴信と克頼の腰に目を向けた。刀を意識している隼人に、晴信は苦笑する。
「克頼」
「は」
「刀を、預けていこう」
「は?」
「この里では、不要のようだ」
「ですが、どこにどのような者が潜んでいるか」
「かまわないさ」
晴信はさっさと刀を外し、屋敷の壁に立てかけた。
「ほら、克頼」
隼人を鋭くにらみながら、克頼も刀を外す。満足そうに、晴信が頷いた。
「よし。それでは行こうか」
屈託の無い晴信に、隼人の目が丸くなった。
「どうした?」
「ぷ……ははははは!」
豪快な笑いを響かせた隼人が、立てかけられた刀を取り、晴信と克頼に差し出した。
「途中で妙な連中に襲われて、怪我をされちゃあ困る。持っていってくれ」
口調が気安いものになっている。克頼は不快を示し、晴信は首を傾げた。
「いいのか」
晴信の問いに、さわやかな笑みで隼人が応える。そうかと刀を受け取った晴信は、それを腰に差し、克頼を見た。
「心配をする必要はなさそうだな。克頼」
「無茶をなさいます」
「苦労するなぁ」
隼人が笑いを滲ませ、誰のせいだと言わんばかりに克頼が鋭い目線を向ける。それを受け流した隼人は、好奇心むき出しの顔で晴信を見た。きらきらと童子のように輝く瞳に、晴信はふと疑問を浮かべる。
「そうか」
しっかりと味を確かめるように咀嚼する晴信を、里の者たちがいぶかしげに見た。
「うん。うまい」
晴信は、ひとつをつまんで克頼に差し出した。
「うまいぞ、克頼。これほどうまい団子を作れる者を、大切にせねばらないな」
受け取った克頼が、ぽんと団子を口に入れる。それを満足そうに見て、晴信は里の者たちに顔を戻した。
「あの者に、とてもうまい団子だったと伝えてくれ。団子の礼に、必ず応えると」
感動のざわめきが立ち、彼らは再び頭を下げた。
「晴信様。そろそろ」
克頼が促し、里長が彼の息子を振り返った。
「隼人」
呼ばれ、前に出た男が晴信の顔をにらむようにして、挨拶した。
「長谷部の里長、長谷部源九郎の息子、隼人です。俺が、お館様をご案内いたします」
晴信は彼の射抜くような視線にたじろぎつつ、あいまいに頷いた。克頼が目の端に不快を滲ませる。
「それでは、こちらへ」
さっさと出て行く隼人に、晴信は慌てて立ち上がり、挨拶もそこそこに後を追った。克頼は警戒を漲らせて腰を上げる。
表に出れば、隼人はギロリと晴信を見た。
「何もかも、包み隠さず申し立てます。不快になられる事を、先にお覚悟ください」
隼人は晴信と克頼の腰に目を向けた。刀を意識している隼人に、晴信は苦笑する。
「克頼」
「は」
「刀を、預けていこう」
「は?」
「この里では、不要のようだ」
「ですが、どこにどのような者が潜んでいるか」
「かまわないさ」
晴信はさっさと刀を外し、屋敷の壁に立てかけた。
「ほら、克頼」
隼人を鋭くにらみながら、克頼も刀を外す。満足そうに、晴信が頷いた。
「よし。それでは行こうか」
屈託の無い晴信に、隼人の目が丸くなった。
「どうした?」
「ぷ……ははははは!」
豪快な笑いを響かせた隼人が、立てかけられた刀を取り、晴信と克頼に差し出した。
「途中で妙な連中に襲われて、怪我をされちゃあ困る。持っていってくれ」
口調が気安いものになっている。克頼は不快を示し、晴信は首を傾げた。
「いいのか」
晴信の問いに、さわやかな笑みで隼人が応える。そうかと刀を受け取った晴信は、それを腰に差し、克頼を見た。
「心配をする必要はなさそうだな。克頼」
「無茶をなさいます」
「苦労するなぁ」
隼人が笑いを滲ませ、誰のせいだと言わんばかりに克頼が鋭い目線を向ける。それを受け流した隼人は、好奇心むき出しの顔で晴信を見た。きらきらと童子のように輝く瞳に、晴信はふと疑問を浮かべる。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
鬼が啼く刻
白鷺雨月
歴史・時代
時は終戦直後の日本。渡辺学中尉は戦犯として囚われていた。
彼を救うため、アン・モンゴメリーは占領軍からの依頼をうけろこととなる。
依頼とは不審死を遂げたアメリカ軍将校の不審死の理由を探ることであった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
毛利隆元 ~総領の甚六~
秋山風介
歴史・時代
えー、名将・毛利元就の目下の悩みは、イマイチしまりのない長男・隆元クンでございました──。
父や弟へのコンプレックスにまみれた男が、いかにして自分の才覚を知り、毛利家の命運をかけた『厳島の戦い』を主導するに至ったのかを描く意欲作。
史実を捨てたり拾ったりしながら、なるべくポップに書いておりますので、歴史苦手だなーって方も読んでいただけると嬉しいです。
聲は琵琶の音の如く〜川路利良仄聞手記〜
汀
歴史・時代
日本警察の父・川路利良が描き夢見た黎明とは。
下級武士から身を立てた川路利良の半生を、側で見つめた親友が残した手記をなぞり描く、時代小説(フィクションです)。
薩摩の志士達、そして現代に受け継がれる〝生魂(いっだましい)〟に触れてみられませんか?
古色蒼然たる日々
minohigo-
歴史・時代
戦国時代の九州。舞台装置へ堕した肥後とそれを支配する豊後に属する人々の矜持について、諸将は過去と未来のために対話を繰り返す。肥後が独立を失い始めた永正元年(西暦1504年)から、破滅に至る天正十六年(西暦1588年)までを散文的に取り扱う。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる