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【覚悟】

4.

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「俺はトヨホギのそれに言葉を合わせた。そうであればいいという願いからだ。傷ついた大地を、神の末裔である大君とともに癒すために、兄者はエミナの父となった。そのために、人の子の父になる機能を天が奪ったんだと、トヨホギに言った」

「バカな」

 鼻先で笑おうとして、ホスセリは失敗した。シキタカの目はどこまでも真摯に澄んでいる。

「兄者」

 シキタカはホスセリの手を取り、翡翠をその中に置いた。

「俺はトヨホギの笑みを、曇らせたくはない」

「そのためには、我が退くほかはないだろう。一時は悲しみに暮れるだろうが、自分の心に気づいたトヨホギは真実の幸福と愛を手に入れる」

 ホスセリは自分の言葉に胸の奥深くをえぐられた。死ぬつもりはないと、シキタカに言った。それは真実だ。だが、そうすればシキタカとトヨホギが夫婦として睦まじく暮らす姿を、目にし続けることとなる。

(慣れるさ。……慣れてみせる)

 それが大切に思うふたりの幸せのためなのだからと、ホスセリは心の奥からあふれ出る冷たい血潮のような感情に言い聞かせる。

「本当に、兄者はそう思っているのか」

「真実の心に気づいたトヨホギが、偽りの関係を結び続ける中で、どれほど苦しむか。ならば傷は浅い方がいい。そう考えたまでのこと」

 シキタカは首を振り、深く重い息を吐いた。

「兄者はトヨホギのもろさに目をつぶっている」

「――なに?」

「兄者の妻というものを、自己のありようだと思い続けていたトヨホギが、壊れるだけだと思わないのか」

「……それを、支えるのがシキタカの役目だろう」

 ホスセリはうめいた。

「兄者は身勝手だ。きれいごとの中に、自分を入れておこうとする。真実の気持ちを吐き出さずに、他者のために犠牲になるというのは自己満足だ。美しい物語の中に理想の自分を置こうとしているだけだ。そのためにトヨホギを犠牲にして、支えられぬ俺を悪者とするのか」

 シキタカはできるだけ皮肉めいて見えるように、小ばかにした顔を作った。ホスセリの心の裡を引きずり出して、本音をぶつけてほしかった。

「兄者はいつもそうだ。己はいずれエミナの王となる。そのために、ふさわしい言動をしなければならないと、自分を押し殺していただろう」

「そのようなことは――」

「ないとは言わせぬぞ、兄者」

 シキタカはホスセリが動揺をしていると悟った。その動揺がおさまれば、もはやホスセリの気持ちを揺らがすことはできないと、シキタカは必死に言葉を探して放つ。
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