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【告白】
12.
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「醜く、愚かで弱い我を、どうか許してくれ――、トヨホギ、シキタカ」
季節の変化を含んだ風が、ホスセリの声を吹き流した。
まぶたを上げたホスセリの目に、山にかかる白灰色の薄い雨雲が映った。
「宴のころには、雨が降るかもしれないな」
己の心を見ろと天に言われた気がして、ホスセリは泣き顔のような笑みを浮かべた。
***
宴の時刻になると、山にかかっていた雨雲が里に流れて、しのつく雨となった。
宴の席は天気とはうらはらに、明るくにぎやかなものとなっている。誰もが大声でしゃべり、笑い、これからの平和を口々に唱えて、若い国王夫婦を祝っている。
トヨホギは笑みを浮かべて祝いの言葉に礼を言い、ひと目が外れると吐息をもらした。今の天気のように、トヨホギの心は曇り、雨の帳が降りている。
この場にいる誰もが、そんな心地を抱えているのかもしれないと、トヨホギは思う。笑顔を浮かべて大声ではしゃいでいるのは、悲しみを安堵と喜びに変えたいからではないか。
三年もの戦の間に、誰もが何かを失っている。
戦の終わった安堵と、戦で失われたものへの悲しみ。
それを希望に変えたいがための宴なのだと、ホスセリは宴の前にトヨホギに語った。我等のための宴ではなく、彼等のための宴なのだと。
(ホスセリもお父様を亡くしたのだし。そういう気持ちを持っているはずだわ)
そして自分も父を失った。亡くなった顔見知りも少なくない。命を持って帰ってきた者の中には、働くに不自由な身となってしまった者もいる。これからどう生活をしていくのか、食い扶持を手に入れる方法をどうしようかと、不安になってもいるだろう。
(奇妙な宴だわ)
誰もが闇を抱えて、それを無理やり光に変えようとしている。
トヨホギの目には、そう映った。
これはトヨホギとホスセリの婚儀の宴などではなく、エミナの民が生きていくための、気力と決意を養うためのものだ。
トヨホギは宴の意味を、そう解釈した。
トヨホギは、老齢のため戦に出なかった男と話をしている、ホスセリの横顔を見た。男は目を潤ませて、「ご立派になられた」と繰り返している。
「そなたらが国を守ってくれていたからこそ、こうして帰る場所が無事に残っていたのだ。礼を言う」
「もったいない……、もったいないことでございます」
ホスセリの言葉に、男はとうとう泣き出した。トヨホギは口辺に笑みを漂わせて、宴の意味を噛みしめる。自分は国王の妻になったのだという実感が、民の顔をながめていると湧いてきた。
自分自身の幸せのためではなく、エミナの幸せのための宴なのだ。
季節の変化を含んだ風が、ホスセリの声を吹き流した。
まぶたを上げたホスセリの目に、山にかかる白灰色の薄い雨雲が映った。
「宴のころには、雨が降るかもしれないな」
己の心を見ろと天に言われた気がして、ホスセリは泣き顔のような笑みを浮かべた。
***
宴の時刻になると、山にかかっていた雨雲が里に流れて、しのつく雨となった。
宴の席は天気とはうらはらに、明るくにぎやかなものとなっている。誰もが大声でしゃべり、笑い、これからの平和を口々に唱えて、若い国王夫婦を祝っている。
トヨホギは笑みを浮かべて祝いの言葉に礼を言い、ひと目が外れると吐息をもらした。今の天気のように、トヨホギの心は曇り、雨の帳が降りている。
この場にいる誰もが、そんな心地を抱えているのかもしれないと、トヨホギは思う。笑顔を浮かべて大声ではしゃいでいるのは、悲しみを安堵と喜びに変えたいからではないか。
三年もの戦の間に、誰もが何かを失っている。
戦の終わった安堵と、戦で失われたものへの悲しみ。
それを希望に変えたいがための宴なのだと、ホスセリは宴の前にトヨホギに語った。我等のための宴ではなく、彼等のための宴なのだと。
(ホスセリもお父様を亡くしたのだし。そういう気持ちを持っているはずだわ)
そして自分も父を失った。亡くなった顔見知りも少なくない。命を持って帰ってきた者の中には、働くに不自由な身となってしまった者もいる。これからどう生活をしていくのか、食い扶持を手に入れる方法をどうしようかと、不安になってもいるだろう。
(奇妙な宴だわ)
誰もが闇を抱えて、それを無理やり光に変えようとしている。
トヨホギの目には、そう映った。
これはトヨホギとホスセリの婚儀の宴などではなく、エミナの民が生きていくための、気力と決意を養うためのものだ。
トヨホギは宴の意味を、そう解釈した。
トヨホギは、老齢のため戦に出なかった男と話をしている、ホスセリの横顔を見た。男は目を潤ませて、「ご立派になられた」と繰り返している。
「そなたらが国を守ってくれていたからこそ、こうして帰る場所が無事に残っていたのだ。礼を言う」
「もったいない……、もったいないことでございます」
ホスセリの言葉に、男はとうとう泣き出した。トヨホギは口辺に笑みを漂わせて、宴の意味を噛みしめる。自分は国王の妻になったのだという実感が、民の顔をながめていると湧いてきた。
自分自身の幸せのためではなく、エミナの幸せのための宴なのだ。
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