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第二章 紋の疼きと心の揺れと

(俺がムラムラすりゃあ、紋も匂いを発するはずだ)

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 * * *

「ただの布切れにしか見えねぇけどなぁ」

 朝食を終えてすぐ、リアノの研究室をおとずれたカヒトは、渡された布をためつすがめつした。

「すぐにわかるようなものではないからな。だが、完全に無事でいられるという保証はない。無理はするな」

「危なくなったら、逃げてくるからよろしくな」

「それを前提で行動するなと言っているんだ」

 キッとにらみつけたリアノは、今日の鍛錬の行程を確認しておくことにした。

「訓練場での鍛錬だけだろうな」

「いや。今日は森での演習が入ってる。別部隊との合同だからな、中止するわけにゃあ、いかねぇんだ」

 眉間にシワを寄せたリアノの背中を、カヒトは力強く叩いた。

「だぁいじょうぶだって。この布が守ってくれるんだろ? それに、森なら隠れられる場所がいっぱいあるからな。妙な具合になりそうなら、うまく逃げてくるって」

「そうか。だが、過信はするな」

「おうよ」

 言って、カヒトはさっそく服を脱ぎ、下着の代わりに魔術のほどこされた布を下肢に巻き
つけた。

「よっ、と……こんだけきっちり締めておきゃあ、ずれねぇだろ。じゃ、行ってくる」

「危険を察したら、早めに逃げろ」

「あいよ」

 気楽な返事に不安を募らせるリアノの様子に、カヒトはニンマリした。

(俺のことで、頭がいっぱいって感じだな)

 リアノのことだ。仕事を滞らせたりはしないだろうが、それでも手を止めた瞬間に、自分のことを考えてくれているんだろうなと思うと、愉快な気分になる。

(性格悪ぃなぁ、俺)

 浮かれた気分を背中に乗せて、廊下を進むカヒトを見送るリアノは、演習がはじまるまでに今日中にしなければならない仕事を早急に終わらせて、薬草を採りに行くという名目で演習場の近くへ行こうと決めた。

(部下ではない兵士たちが、カヒトの命令に素直に従うとは思えないからな)

 命令を聞きなれている部下だからこそ、昨日は危ういことにならなかったのではないか。違う部隊の兵士や兵団長が、紋の放つフェロモンにあてられた場合を考えておいたほうがいい。

(まったく、世話の焼ける)

 文句を浮かべるリアノの唇には、なぜかほんのりと笑みが刷かれていた。

 廊下を抜けて兵舎に入ったカヒトを迎えたのは、気まずそうな顔の部下たちだった。

「辛気臭い顔をしてんじゃねぇよ。おら、あいさつ!」

「おはようございますっ!」

「おう! 今日は、午後から演習だ。わかってんな。相手はオティ団長のところだ。手ごわいぞ。心してかかれ」

「はいっ!」

「あの、団長」

 おずおずと手を上げた兵士が、チラチラとカヒトの腹のあたりに視線を送る。

「大丈夫なんですか?」

「あん? ああ、問題ねぇよ。魔術の布を当ててきた。なんかあったら、昨日みてぇに逃げるから、そんときは副団長の命令をよく聞いて行動するんだぞ」

「オティ団長には、説明しているんですか」

「いんや。けど、演習前に言っておく。問題があってからじゃ、遅いからな」

「団長は、参加しないでいたほうがいいんじゃないんですかね。また、あんなふうになったら」

「俺が参加しねぇで、どうすんだよ。おまえたちも、オティ団長んとこの兵士たちも魔物に負けねぇように鍛錬してんだ。俺に刻まれた紋は、魔物の最後っ屁みてぇなもんだからな。大丈夫だって」

「でも、オティ団長がそれを利用して鍛錬しようって言いだしたら」

「うん? まあ、そんときゃ、それでもいいけどよ。なんせ、魔術の布で守られているからな」

 リアノがいれば蒼白になって怒りそうなことを、けろりとして言ったカヒトに心配そうな視線が集まる。

「なぁに、大丈夫だ。俺の実力を甘く見るんじゃねぇぞ。おら、午後の演習のために、体を慣らすぞ!」

 号令をかけたカヒトに絡む部下たちの不安は、カヒトの認識外の思惑を絡めて的中することになった。

 演習相手のオティ団長は、体躯がよくて朗らかで、粗野に見えるが乱暴ではなく、人当たりの良さと整った顔立ちをしているカヒトに、一方的な嫉妬を向けていた。実力も出自も申し分のない自分より、カヒトのほうが評価されているのが気に食わない。自分だって見目は悪くないはずなのに、気になった娘はカヒトに想いをかけている。

 いわゆる逆恨みというやつなのだが、オティは不当な嫌悪だとは思っていなかった。だからカヒトから呪いの紋の話を聞いて、これは使えると考えた。

 いくら膂力の優れたカヒトでも、大勢の兵士を相手に逃げおおせられはしないはず。紋の影響で性欲が増幅するなら、理性に反して男の精を求めるはずだ。兵士たちに体を提供し、享楽をむさぼったと広まれば、彼の評価は地に落ちる。

 カヒトがよろこんで輪姦されたと聞けば、誰もが彼から離れるだろう。自分への注目が増すはずだと、オティはほくそ笑んだ。

「魔物退治を想定して、カヒト団長の紋を使った訓練を試せませんか」

「いやぁ、それは」

「未熟なものが呪いをかけられれば、ひとたまりもなく屈してしまうでしょう。警戒心をしっかりと植えつけるためにも、いい機会だと思うんですがね」

 うーんとうなって拒絶をしないカヒトの甘さを、オティは腹の底であざ笑った。なぜこれほどに思考の足りない男が、自分よりも評価されているのだと嫉妬を滾らせる。ちょっと考えれば、自分を陥れようとしているのだとわかりそうなものなのに、愚鈍な男だとオティはカヒトを侮った。

「魔力のかかった防具を身に着けているのなら、問題ないのではありませんか。カヒト団長は、あの秀才と誉れ高い魔導士リアノの友人なのでしょう? その防具も、リアノのものなら、相当な威力を持っているはず。演習程度で問題が起こることは、ないと思うのですがねぇ」

 リアノを褒められ、さらに友人と言われて、カヒトは気分がよくなった。

「まあ、ちっとくらいなら」

(魔力に弱いやつが紋を刻まれたら、たしかにひとたまりもねぇよな。抗う訓練をするってんなら、たしかにこの紋はうってつけだ)

 危ういことになったとしても、リアノの魔術で助かったとなれば、彼の評価は兵士たちの間に広まる。魔導士を下に見る兵士は少なからず存在する。そういう連中に、魔導士という職の重要性を教えるのにも役に立つのではないか。

(なにより、試してみてぇこともあるし)

 本当に紋に精を吸収すれば、体の疼きは治るのか。どのくらい吸えば落ち着くのかを知りたいという欲求もあった。

(リアノは怒るかもしんねぇが、研究の役に立つだろうしな)

 命の危険はないのだからかまわないと決めたカヒトは、オティの個人的な嫉妬に気づくことなく提案を受け入れた。

「そんじゃあ、どうやりますか」

「紋の匂いというものを、自在に出すことは?」

「や、それができれば、困らねぇんですけどね」

 オティは年上で先輩なので、カヒトは奇妙な敬語を使った。この言葉遣いも、オティの気分を害するものだった。カヒト自身はうやまっているつもりなのだが、オティはバカにされていると感じていた。

「紋の匂いが出ていなければ、意味がないな。なんとかならないのですか」

「うーん、出せるかもしれない方法は、あるっちゃあ、あるんですけどねぇ」

「なら、それをしてください。時間は有限ですからね。さっそく、はじめるとしましょうか」

 うながされて、カヒトはとりあえず散開して目標物となる自分を探索するよう命じると、森の中に身をひそめた。

(汗の匂いで興奮が増すってのは、わかってんだけどな。誰かの匂いを嗅ぎまわって、こっちが動けなくなっちまったら問題だしなぁ)

 紋が性欲を引き起こすのならば、宿主の性欲が増せば紋は反応するのではないかと発想を逆転させたカヒトは、太い木の上によじ登り、リアノとの性交を脳裏によみがえらせた。

(俺がムラムラすりゃあ、紋も匂いを発するはずだ)

 紋を操る術を見つけられるかもしれないと、カヒトは昨夜のキスやリアノの愛撫を記憶の中から引きずり出した。

「んっ、ぅ」

 官能的なキスや彼の陰茎をしゃぶった感触、味、代わりにしゃぶられた快感と秘孔をまさぐられた興奮、乳首などへの愛撫を順番に手繰り寄せたカヒトの体がほんのりと熱を持ち、ヘソの下がムズムズしだした。

(これは、いけそうだな)

 淫靡な記憶に反応をした陰茎が、魔力を含んだ布を押し上げる。リアノが自分のために用意をしてくれたものだと思うと、興奮が増した。

「はぁ」

 息の塊を吐き出して、ヘソの下に手のひらを当てる。ゾワッと全身に鳥肌が立つと、紋が火傷しそうなほどに熱くなった。

「く、ぁあ」

 歯の根が合わなくなり、体が膨張する錯覚に襲われる。秘孔がひくつき、奥からたっぷりと液があふれてわなないた。

(欲しい)

 口に含んだリアノの欲望を思い出す。舌で口内をなぞれば、彼の味がありありとよみがえった。喉を突くほど深く呑み込み、吸い上げたときの感覚に息を乱せば、背骨の中が甘美な蜜に満たされて脳髄を痺れさせた。

「あ、あ……ああ……っ」

 体がどんどん熱くなり、蜜嚢が膨らんでいく。隆起した陰茎が窮屈だと訴えて、秘孔は空虚を主張した。

「リアノ……っ」

 うめいて硬く目を閉じれば紋が脈打ち、森の中を歩いているリアノの姿が“視”えた。カッと目を見開いたカヒトは勇躍し、大地に飛び降りると草を鳴らして駆けだした。紋がリアノへ至る道をはっきりと示している。

(リアノ、リアノ……っ!)

 彼の名を呼びながら走るカヒトは、彼の姿が目視できる距離に来ると身を低めて速度を上げ、飛びかかった。

「なっ」

 どのあたりで演習をしているのかと、森を歩いていたリアノは急に現れたカヒトに驚いた。肩に重い衝撃を感じ、草の上に押し倒される。

「くっ、カヒト?」

「ふぅ……ふ……リアノ」

 獲物を捕らえた獣のように、カヒトは興奮しきった息遣いでリアノを見下ろした。欲しくて欲しくてたまらない。それ以外になにも考えられなくなっている。

「カヒト、なにがあった」

 喉を獰猛に鳴らしているカヒトの目が、紫から赤に変わっている。魔性の色だと、リアノはゾッとした。むせかえるほどの甘い匂いに顔をしかめて、カヒトの下から逃れようと身をよじる。紋から放たれる香りに刺激されたリアノの本能が、硬く持ち上がった。

「落ち着け、カヒト」

「う、うう……リアノ……リアノ」

「あっ」

 乱暴にリアノのズボンを引きちぎったカヒトは、紋の匂いのせいで勃起した箇所に鼻を近づけうごめかす。

「はぁ……リアノ」

 うっとりと口を開いて舐めながら、ズボンを脱いだカヒトは下着代わりの布に手をかけ、歯を食いしばった。

「くそっ、外れねぇ」

 二の腕が膨らむほどに力を込めても、魔力のこもった布はびくともしなかった。苛立つカヒトのヘソの下、布からわずかに見えている紋が光っている。彼の体を味わったときにも、これほどの反応はしていなかったとリアノはカヒトの腕を掴んだ。

「説明しろ。どういうことだ」

「くぅっ、なんでだよ! なんで、脱げねぇんだ」

「聞いているのか、カヒト」

「くそっ」

 叫んだカヒトはリアノの肩を両手でつかみ、彼の腰にまたがった。

「なんで、なんで取れねぇんだよ……っ、欲しいんだよ、たまんねぇんだよ……っ、リアノ、なぁ、リアノ」

「カヒト」

「リアノが欲しいんだ、リアノ……外してくれよ、なぁ、リアノ、リアノ……リアノリアノリアノリアノリアノリアノリアノリアノリアノリアノリアノリア――っ、うぐっ」

 森に入る際は、常に身に着けている魔封じの術を含ませた布を、リアノはカヒトの腹に押し当てた。バチッと鋭い音がして、布がたちまち黒焦げになる。焦げた匂いに甘い香りが消されると、グルリと目を回したカヒトは気を失った。

 ずっしりとのしかかるカヒトの重みに、リアノは泣きたくなった。欲しいと言われた。あのまま訴えられていれば、自分が与えた結界を取り払って、彼を犯していただろう。

(なんということだ)

 これほどまでにカヒトは浸食されていたのか。わずかでも紋の存在をありがたく思ってしまった自分を恥じる。彼を苦しめているものを、自分の欲望を満たせるものだと利用した。瞳に魔性が浮かぶほど、カヒトは苛まれている。

「カヒト」

 意識のない愛しい人の髪を優しく撫でて、頬を寄せる。心が熱く震えているのに、腹の底は罪悪感で凍えていた。

「カヒト」

 欲しいと叫んだカヒトの声が、鼓膜にこびりついている。

(紋が言わせた)

 彼の本心ではない。本能を刺激されたカヒトは、正気を失っていた。

(私を求めたわけではない)

 ただ目の前に、獲物となるものがいた。だから欲しがり、知っている名を呼んだ。これが自分ではなく、部下だったとしても、カヒトはおなじことを言ったはず。

「私を、欲しがったわけではない」

 音にして、心をなだめる。本気にしてはいけない。本心ではないのだから。

(だが)

 うれしかった。そこは正直に認めようと、リアノは細く長い息を吐いた。木の葉の隙間から見える空は、澄んだ色をしていた。ふりそそぐ陽光はやわらかく、草の香りが焦げた匂いを薄めていく。

 平和そのものの光景に、リアノはクッと皮肉に喉を鳴らした。

 しばらくすれば、足音が近づいてきた。顔を向ければ、おそるおそる草の影から覗く顔があった。

「あの、兵団長はどうしたんですか」

 カヒトを団長と呼ぶのだから、彼の部下なのだろう。リアノは表情を引き締めて、冷淡な声を出した。

「ひとりか」

「え、あ……はい」

「なぜ、ここに来た」

「甘い匂いを辿ったんです」

「残り香か。おまえは、カヒトの部下だな」

「はい。ええと」

「私は、魔導士だ。リアノと言う」

「あっ、兵団長の友達の」

 友達か、とリアノは腹の底で笑った。浅ましい欲求を抱くものを、はたして友と呼べるのか。

「カヒトの部下なら、紋のことは聞いているな」

「はい」

「紋が暴走したので抑え込んだ。私の研究室まで、運んでもらいたい」

「わかりました」

 うなずいた部下は、カヒトの体を苦労しながら抱え上げ、破れたリアノのズボンを目にしてギョッとした。

「紋がどういうものか、理解しているだろう」

「は、はい。でも、人を襲うなんて」

「魔物に紋を刻まれたものがどうなるかは、未知数だ。魔力が暴走することもありうる。時間が経つにつれて、体になじんでいく場合もあるだろう」

「ひぇ。兵団長は、大丈夫なんですか」

「なんとかするために、私がいる」

 起き上がり、破れたズボンを脱ぎ捨てたリアノは魔導士のローブを腰に巻きつけた。

「カヒトが暴走する姿を、誰も見ていないんだな」

「はい。誰も知りません」

「単独行動中に、暴走をしたということか」

「ええと、そうですね」

「はっきりしないな。説明をしろ」

 厳しく問われた部下は、カヒトが演習前にオティに紋についての説明をしたこと。オティがそれを利用して対魔物訓練ができると言いだしたこと。彼に押されて、悩みはしたもののカヒトが了承したことを伝えた。

「バカが」

 小さく吐き捨てたリアノは、オティがカヒトに理不尽な嫉妬を向けていると知っていた。うまく罠にはめられたのだ。

(人がいいにもほどがある)

 それは部下もおなじ考えだったようで、カヒトを運びながらぼやいていた。

「まったく腹立ちますよね。オティ団長はうちの団長を目の敵にしているんですよ。なんにも悪いことしていないのに。それも、兵団長が優秀だからしかたないっちゃあ、ないんですけどね。ええと、リアノさん」

「なんだ」

「兵団長は、大丈夫ですよね」

 眉を下げた部下を、リアノは一瞥した。

「大丈夫に決まっている」

「ですよね」

 無言でいると落ち着かないのか、部下はあれこれとカヒトについての話をしゃべり続けた。リアノが相づちを打とうが打つまいが関係なく、研究室に到着するまでずっと口を動かしていた部下は、物珍しそうに研究室内をながめながらベッドにカヒトを寝かせると、よろしくお願いしますと深く頭を下げた。

「カヒトは私に呼び出されたと伝えておけ。紋が暴走したとは言うな」

「わかっています」

 それじゃあと、気を失ったカヒトを心配そうに見てから部下が去る。息を抜いたリアノは、カヒトの額の髪をかき上げた。

「まったく。おまえはどこまでバカなんだ」

 己の力を過信しすぎだと苦笑して、部下の説明を頭でなぞったリアノは、紋が暴走した原因らしいものは含まれていなかったなと、額の手を滑らせて、紋の上に置いた。そこはもう光も匂いも放っていない。

 魔力を込めた布を身に着けさせていてよかったと、リアノは布を取ってカヒトの下肢を空気にさらした。布は尻のあたりが濡れていた。欲しいと言ったカヒトの声が鼓膜の奥によみがえる。

「欲しい、か」

 正気のときに言われたらと考えて、あり得ないなと首を振る。紋をなぞって、これが言わせたのだと期待を持ちそうになる己を抑えた。気を失っているというのに、カヒトの陰茎は硬くそびえたままだった。こわばっているそれが愛しくて、紋をなぞる指を動かし、下生えをまさぐって陰茎をくすぐった。

「んっ、ぅ」

 ちいさくうめいたカヒトの目は、開かなかった。魔封じの布が焼け焦げてしまうほど強い衝撃を受けたのだ。ちょっとやそっとで目を覚ますことはないだろうと、リアノはカヒトの陰茎を味わうことに決めた。

 顔を近づけ、口を開く。舌先で張り出しをなぞり、裏筋を舐め上げて鈴口をつついた。

「っ、は……ぁ」

 色っぽい息がカヒトの口から洩れると、リアノは頬をゆるませた。

「気持ちよくしてやる」

 ささやいて、先端を口に含む。舌の上で転がしながら根元をゆるゆると扱くと、カヒトの腰がこわばった。意識がなくとも感覚はある。感じているのだと、リアノはねっとりと舌を這わせた。

「は、ぁ……っ、ん、う」

 舌と上顎で先端を押しつぶし、強く吸えば先走りがあふれ出た。ゆっくりと深く呑み込み、根元を支えて頭を上下させる。ビクンと口内で脈打ち跳ねるものがたまらなく愛おしい。

「ふ、ぅ……う、っ」

 意識がないまま発せられるカヒトの声を、もっともっと聞きたくて口淫を続ける。

 自分の口から濡れた音が漏れるのを、リアノは楽しんだ。じっくりと時間をかけてカヒトの熱を上らせていく。

「は、ん、ぅ、う」

 起こさないよう、慎重に、ゆるやかに愛撫を続けるリアノは、彼の尻がどうなっているのか知りたくなった。内腿の間に腕を差し込み、尻の谷をなぞって秘孔の口をつつくと、キュウンと吸いつくように動いた。第一関節までを埋め込み、小刻みに抜き差しをすると陰茎が反応した。口の中で暴れたがるものを頬をすぼめて抑え込み、舌で撫でながら濡れた秘孔を刺激した。

「は、ぁう……ん、ふ……っ、う」

 カヒトの声が甘さを増して、じんわりとリアノの股間も熱くなる。欲しいと言ったカヒトの声を脳内に響かせながら、秘孔を犯す指を深くした。

「ぁ、あ……は、う」

 軽く詰まった嬌声が色っぽい。ここに自分の欲を埋め込んで、思うさま腰を振り立てられたらどれほどいいだろう。求められるままに精を放って、彼の奥底に自分の証を刻みつけたい。

「ん、ぅうっ、あ、はぁ、は……っ、う、ん」

 カヒトの息が乱れて、指に肉壁がすがりついてくる。口内のものは爆発寸前になっていた。そろそろ解放させてやろうと、リアノは昨日まさぐっている最中に見つけた、カヒトの泣き所を指で強く刺激しながら、陰茎を吸い上げた。

「くっ、あ、ああっ」

 ドクンと弾けて吹き出した精を飲み込んで、顔を上げる。カヒトは目を閉じたままで、荒く胸を上下させていた。手を伸ばし、胸の色づきを指先でクルクルとなぞりながら、彼の厚い胸に自分の薄い胸を重ねた。

「カヒト」

 想いを込めて名を呼んで、頬に唇を寄せる。

「カヒト」

 ふたたび呼んで、目を閉じた。ぬくもりが心地いい。紋のせいになどせずに、彼を愛し求められたら、どんなにいいだろう。

(夢……だな)

 これは一時の夢なのだ。早く冷めて現実に戻らなければならない。カヒトを守るためにも、一刻も早く紋を消す方法を見つけなければ。

 魔性に赤く染まった瞳にゾッとした。あれを誰にも見せてはいけない。紋に支配されたカヒトが、自分以外のものに体をさらけ出すなど許せない。

(私欲だ)

 これは自分のためでもあると、リアノは体を起こしてカヒトの口に唇を当てた。かすめる程度のキスをして、ベッドから下りる。

(結界は有効だと判明した。解決策が見つかるまでは、身に着けさせておかねばな)

 それともう一度、考えなしの行動はするなと釘を刺しておかなければならない。本人からすれば考えた末の結論なのかもしれないが、今回のようなことは二度と起こってはならない。

(これで、懲りたとは思うが)

 いっそ閉じ込めてしまおうかと考えながら、リアノは名残を惜しみつつ手を拭って机に向かった。
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