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第五章 好きなものを、素直に大切にできるしあわせ

「好きなものを、素直に大切にできるって、とてもしあわせなことだなぁって考えていたの」

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 * * *

「やっと、ふたりきりになれた」

 ふうっと息を吐いて首のボタンをいくつか外したサイラスが、ドサリとベッドに腰かける。

 窓の外は夕茜に染まっていた。夜の気配がジワリジワリと迫っている。城内には式に招待した貴族たちが宿泊しており、いまだ式の余韻を広間で楽しんでいた。

「主役が抜け出して、よかったのかしら」

「式は終わったのだから、問題はないだろう? それに、婚約のときも抜け出したが、誰も気にしていなかった」

 手を伸ばされて近づくと、ベッドに沈められた。

「きゃっ」

「ようやくだ……こうして、誰はばかることなくティファナを愛せる」

「いままで、さんざん愛してくれたのに」

「きちんと、人目のないよう配慮をしてきたつもりだが?」

「そうだけど」

 はにかむと、キスをされた。

「愛している、俺の妻……俺のティファナ」

「サイラス、あんっ」

 耳裏に舌を這わされ、ゾクゾクした。そのまま耳朶を甘く噛まれて、耳の中をくすぐられる。唇を指でなぞられると、心臓がわななきがらふくらんだ。そのぶん押し上げられた胸に、サイラスの大きな手がかかる。なめらかに動く指に布越しにくすぐられると、先端が硬く尖った。布越しの刺激はもどかしくて、だからこそ気持ちがいい。じわじわと肌を炙られ、喉が急速に乾いていく。

「ふっ、ぁ……んんっ」

 唇をなぞっていた指が口内に滑り込み、舌をもてあそばれた。唾液が湧いて、無意識に呑み込もうとすれば、彼の指を吸ってしまった。ゾクンと会陰に痺れが走り、陰唇がヒクリと動く。淫らな己の反応に身をよじりつつ、ティファナは彼の空色の瞳に魂を吸い込まれた。

「は、ぁ……サイラス、あっ、ああ」

 ドレスの前がはだけられ、素肌の乳房にさまよう指が心地いい。尖りを爪で弾かれると、腰が跳ねた。

「ひんっ、ぁ、サイラス」

 クスクス笑うサイラスの、ティファナの唾液で濡れた指に胸の先端をつままれた。もう片方を口に含まれ、チュクチュクと愛されると肌が粟立つ。火照った体の奥に快感のうねりを覚えたティファナの奥が、トロリと溶けた。

「はっ、ああ……あ、んっ、あ、サイラス、あっ」

 胸に顔を伏せたまま、視線を向けてくる彼の目は野欲を含んで鋭く光っている。捕食される獲物の気分を味わったティファナの肉花が、蜜壺から流れた愛液にしっとりと濡れた。グッと押しつけられたサイラスの下肢が硬くなっている。そこで女丘を擦られると、陰唇がふっくらと熟した。

「んっ、ぁ、ああ……サイラス、ああ」

「ティファナ、君が欲しい」

「私も……っ」

 息をあえがせて答えれば、ドレスがまくられた。脚を大きく広げられ、硬く凝った彼の熱を押しつけられる。ドクドクと脈打つそれは、暴力的なほどに高まっていた。すぐにでも貫かれたいのに、彼は布越しに滾るものを押しつけて、欲しがる秘裂を擦ってくる。与えられないもどかしさに焦れて身もだえると、呼気を奪うほどの激しいキスをされた。

「んぅうっ、んっ、んう……うっ、ふう……うっ、うう、んぅうっ」

 息苦しくて涙がにじむ。噛みつくようなキスは、激情のままに続けられた。あまりにも苦しくて彼の肩を強く叩くと、ようやく口が解放される。肩で息をしながら手を伸ばし、獰猛な目つきのサイラスを抱きしめた。

「サイラス」

「壊してしまいそうだ」

「壊れないわ」

 それほど彼は、この瞬間を待ち望んでくれていたのだ。幾度も体を重ねたけれど、彼にとっては特別な一夜。そしてそれは、ティファナにとってもそうだった。

「やさしく、じっくりと愛するつもりだった」

 ボソボソと耳元に落ちる声は、傷ついた獣のうなりに似ている。

「それなのに、このざまだ。特別な日であるのに、俺は己の欲望のままに振る舞おうとしている」

 グッとシーツを握った彼の手に手を重ねる。痛いほどに、いたわりの気持ちが伝わってきた。

「サイラス。すこし、退いてくれない?」

 ためらってから、サイラスは身を起こした。ベッドに座った彼にニッコリとしてドレスを脱ぎ、一糸まとわぬ姿になって、向かい合う形で座ると腕を広げる。

「来て、サイラス。あなたも、全部脱いでから」

「ティファナ」

 困惑する彼の額にキスをして、早くと促す。裸身になったサイラスに向けて、ふたたび腕を広げると、おずおずと抱きしめられた。

「ねえ、サイラス。私、とてもドキドキしているわ」

「俺も、している」

「とてもうれしいの。あなたと正式に結ばれたことが」

「俺とて、おなじ気持ちだ」

「だったら、その気持ちをそのまま私にぶつけて?」

「壊してしまうやもしれぬ」

「それだけ、うれしいってことでしょう? 大丈夫……その、ちょっとだけ手加減をしてくれるなら、きっと大丈夫だから」

「ティファナ。俺はもっと、花を扱うように愛したいのだ。それなのに、ガマンならなくなってしまった」

 すまないと言外で告げられて、首を振る。

「それなら、後でそうしてくれればいいわ。これから私たち、ずっと一緒にいるんだから。誰もが私たちが結ばれたことを知っているんだもの。遠慮をすることなんて、もうないのよ。だから、ね? サイラス。あなたの好きにして。いままで、さんざん好きにされてきたのに、こんなところで紳士になられると調子が狂うわ」

 唇を尖らせれば、軽くついばまれた。

「俺も、いろいろと覚えたのだ」

「余計なことを考えるようになってしまったのね」

「俺で、いいのか」

「いいに決まっているわ。サイラス以外は、イヤよ」

「俺も、ティファナでなくばイヤだ」

「だったら、ね?」

「う、む」

 直前になって臆病になるのは、それだけ大切に想ってくれているからだ。それだけ、幸福が大きすぎるということでもある。

「愛している」

「私もよ」

「ティファナ!」

「あっ」

 さきほどまでの不安をかなぐり捨てて、挑んできたサイラスの動きは素早かった。仰向けに倒されたかと思うと、脚を高く広げられ、一気に奥まで貫かれる。衝撃に、声にならない悲鳴を上げた喉とは違い、陰唇は求めていた刺激に歓喜し、隘路が熱に絡みついた。

「っは、あ……ああっ、あっ、あっ、あああ」

 勇躍したサイラスのリズムに合わせて嬌声があふれ出る。たっぷりと濡れた狭い路を行き来する情熱が、円を描くようにヒダをめくった。

「ふっ、あ、あああっ、あ……ああっ、あ」

 奥をえぐられガクガクと揺れながら、背をのけぞらせて身をよじる。突き上げられるごとに浮く体をしっかりと抱き留められて、肌がぶつかるほど深く強く打ちつけられた。これ以上ないほど深く開かれたかと思うと、熱が引いて隘路がぽっかりと空虚を覚える。そこをまた激しく擦られると、快感の波がとめどなく押し寄せた。

「ひっ、はんっ、あ、はぁあううっ、あっ、あぁああっ」

 髪を振り乱してサイラスにしがみつく。彼のほかは、自分自身すら頼りなかった。体の輪郭があやふやになるほど、肌が悦楽にとろけている。すがる腕と彼の匂い、体温と、胎内を行き来する情欲だけが、すべてだった。

「ふ、あ、ああっ、あ、あああ!」

 ひときわ深くえぐられて、灼熱の想いを注がれる。水面に跳ねる魚のように背をしならせて弾けたティファナは、彼の青い瞳の中に羽ばたいた。

(なんて、自由なんだろう)

 突き上げられるままに飛び立った空は、なんのてらいもなくティファナを愛し、包んでくれる。これ以上の幸福があるはずがない。これからずっと、彼の空色の瞳の中で、鳥のように自由に飛んでいられるのだと、ティファナは口元をほころばせた。

「は、ぁ」

 息を抜いたサイラスの唇に頬を撫でられる。汗ばんだ肌に張りついた前髪をかき上げるしぐさは、最高にセクシーだった。

「壊れてはいないようだな」

 髪を撫でられキスをされ、甘い声でささやかれる。壊れてはいないけれど、とろけてしまって指先ひとつも持ち上げられない。

「ティファナ?」

 返事をしなかったから不信に思われたのか、けげんな顔をされた。心地よい気だるさに包まれた体は重いが、心はふわふわと浮いている。しまりのない顔をしていると自覚をしても、どうすることもできないほどに筋肉がゆるんでいた。

 じっと見ていたサイラスが、ふうっと息を吐きだしてほほえむ。

「ずいぶんと、酷使してしまったらしいな」

 腕の中にくるまれて、彼の肩に顎を乗せる。乳房が胸筋に潰されて、体が彼の形にしなった。髪を繰り返し撫でられて、目を閉じる。全力で想いをぶつけてくれた、汗でふくらんだ彼の香りが肺に満ちて血液に溶け、全身に広がっていく。体の隅々にまでサイラスが行き渡っているのだと思うと、笑いがこみ上げてきた。

「ティファナ?」

 クスクス笑っていると、どうした? という響きで呼ばれた。

「好きなものを、素直に大切にできるって、とてもしあわせなことだなぁって考えていたの」

 彼の内側を自分で満たしたくて、首を伸ばして唇をふさぎ、息を注いだ。目を丸くした彼の口に、チュッと音を立てて吸いつくと目じりがとろける。

 てらいのない少年のようなほほえみに、少女の顔で応えたティファナは、ありのままの自分で生きていける場所を強く抱きしめ、そのぬくもりに頬を重ねた。

-END‐
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みんなの感想(1件)

匿名性
2020.02.17 匿名性

悲惨な状況が暗くならない水戸節は健在だと思いました。
森や自然の描写が素敵ですね。
エッチが今回淡白だなと思っていたら最後でヤられました(笑)

面白かったです!

解除

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