初恋のチェリーシード

水戸けい

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「俺はおまえに、ずっと甘えていたんだなぁ」

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 そういうことは、おいおい知ればいいことだ。とりあえずいまは、和臣と自分の距離をどうするか。それを決めるために、悟は和臣に身を任せると決めた。

「悟」

 艶めいたささやきに、悟はドキリとした。耳の奥で血流を感じるほどに鼓動が高まり、緊張する。近づいてくる和臣の瞳は切ない輝きに満ちていた。緊張を抜くために薄く開いた悟の口に、和臣の唇がおおいかぶさる。

「ん……っ」

 甘えるような、甘やかせるようなキスに自然と悟のまぶたが落ちた。角度を変えて幾度もキスをされ、じんわりと肌身が熱くなる。

(なんだよ。思ったより慣れてんじゃねぇか)

 肩にあった和臣の指が滑った。片手は悟の後頭部に、もう片手は服の中に入る。そして舌が口内に侵入してきた。

「んっ、ん……ふ」

 上あごをくすぐられると、甘いうずきが生まれた。鼻にかかった自分の息に、悟は目を白黒させた。

(なんて声を出してんだ、俺は)

「ふっ、ん、ん」

 うろたえている間も和臣の舌はうごめき、悟の口腔を丁寧に愛撫した。服の内側に入った指が、悟の胸筋の山を登って色づきに到達する。指の腹で擦られると、そこが硬く尖った。

「ん……ん、ふ……っ、う」

 そんなところが性感帯になるとは思いもしなかった悟は、口腔の刺激と連鎖する乳首のうずきにとまどった。クスリと和臣が余裕の息をもらす。カチンときた悟は応戦に出た。

 口内の舌に吸いつき、和臣の腰に手を乗せる。服をたくしあげて、身幅の薄い体のなめらかな肌に指を滑らせた。

「んっ、ふぁ……悟」

 わずかに乱れた和臣の息に、やられっぱなしじゃないんだぞと片頬を持ち上げた悟の乳首がひねられる。

「っ、うぁ」

 そのままクリクリとこねられて、肌の内側が淫靡にざわめく。粟立つ肌を快感が走り抜け、悟の股間が熱くなった。

「悟」

 息交じりに呼ばれた悟の背骨を、淫らな悪寒が駆け抜ける。和臣は唇で悟の耳朶を噛み、舌を耳奥に差し込みながら両手で悟の胸乳をまさぐった。

「ぅ、あ……っ、ふ」

「悟、敏感」

「んっ」

 キュッと唇を結んだ悟は己の反応に驚いていた。たったこれだけの行為で、体中が劣情の渦に落とされるとは予想していなかった。いったいこれはどういうことだと困惑している間にも、和臣の愛撫は着実に悟の股間に興奮の血を巡らせる。

「っ、う、く……んっ、ん」

 せめて嬌声は上げまいと喉奥で声を殺した悟に、和臣はうっとりと夢見心地に目を細めた。

「悟」

「あっ」

 胸の先に吸いつかれて息を呑む悟を後目に、和臣は尖りを舌先でもてあそんだ。そこは舌ではじかれるごとに大きく過敏になっていく。

「ふっ、ん……ぅう、うっ」

 片側を舌で、もう片方を指でいじくられる悟の肌は興奮に薄赤く染まった。クッキリとズボンを押し上げている部分が、感じていると示している。それでも素直に声を上げる気にはなれなくて、悟は必死に奥歯を噛みしめ嬌声を殺していた。イスを握って体中に力を込めていないと、もだえてしまいそうだ。

(それだけは)

 年上の男の威厳を守りたいのか、ただ恥ずかしいだけなのか。自分でもわからないまま、悟は快感におぼれるのを拒んだ。そんな悟の反応にほほえみながら、和臣は怒張している悟の牡を空気にさらした。

 勢いよく飛び出したそこに指がかかると、悟は思わず恍惚の息をもらした。

「悟」

 耳裏にキスをされつつ扱かれて、悟はうめいた。先走りがトロトロとあふれ出る。それを先端に塗り広げられて、悟は声を震わせた。

「は、ぁ、あ、ぁ、あ」

「これ、気持ちがいいんだ?」

「う、るせ」

 クスクス笑う和臣の指がクビレにかかる。手のひらで先端を包まれてこねられながら、根元をもう片手で扱かれるとたまらなく気持ちいい。

「は、ぁあ、ぅ……っ、ん、ぁ、ああ」

 イスを掴む悟の腕に力が籠り、二の腕の筋肉がふくらんだ。浮き上がった力の筋を、和臣の舌がなぞる。

「はぁ……悟」

「うっ、んぅう……くぅ」

 たっぷりと先走りで濡れた悟の陰茎を和臣の指が上下するたび、かすかな濡れ音が響いた。それに鼓膜を愛撫され、悟はクラクラした。

「は、ぁあ……カズ、ぅうっ」

「ん。もう、イキそう?」

「ううっ」

「悟のイキ顔、見たい」

 そう言われると反発心と羞恥が湧き起こる。グッと口を引き結んだ悟に、和臣は楽しそうに肩をすくめた。

「かわいいなぁ」

「バッカ……やろ」

「なんで、バカなんだよ」

「趣味、悪ぃ」

「俺の好みを否定するなよな」

「うあっ」

 強く陰茎を握られた悟の腰が跳ねる。乱れ切った悟の息に唇を重ねて、和臣は願った。

「恥ずかしいなら、うつぶせでもいいよ。そのかわり、最後までちゃんとさせてくれ」

「はぁ?」

「イスに腹を乗せてくれたら、あとはぜんぶ俺がするから」

「なんだそれ」

「いいから」

 よくわからないまま、悟は快楽に気だるくなった体を動かして言われた格好になった。

「これでいいのかよ」

「うん。ありがとう」

 そう言って和臣が離れる。

「おい」

「必要なものを取ってくるだけだから」

 なんだろうと見守る悟の目に、サラダ油が映った。なんでそんなものをと考えた矢先に、ハッと気づく。

(そうか……ケツに突っ込むから、それで)

 女と違って自然と濡れはしないので、サラダ油を使うのかと理解した悟はギュッとイスの脚を握った。

「ちゃんと、たっぷりほぐすから」

「宣言すんな。とっととヤれよ」

「豪気だなぁ」

「おまえは豹変しすぎだろ。はじめは遠慮がちだったってのによぉ」

「悟が言ったんだろ。妄想してたことをしてもいいって」

「カズはいつも、俺をエロい目で見ていたってことか」

「見てたよ」

 尻の谷にサラダ油を垂らされて、ヒャッと悟は身をすくめた。和臣の指が悟の秘孔に触れる。入り口に丹念にサラダ油を塗りつけられて、悟はザワザワと這い上がる奇妙な感覚に「ぐうっ」とうなった。

「怖い?」

「んなわけねぇだろ。一度おまえにヤられてんだからよ」

「あれは……いまとは状況が違うだろ」

「ヤるこた、おなじだ」

「身も蓋もないなぁ」

「情緒的なコメントが欲しいんなら、あきらめろ」

「そうは言ってないよ」

「じゃあ、なんだ」

「俺にこんなことされて、悟はどんな気持ちなのかなって」

「どんなもこんなも……終わったら教えてやる。そのかわり、おまえはしっかり俺に黙ってたもんを、なにもかも素直に吐き出せ。いいな」

「ん。わかった」

 つぷんと指が秘孔に沈む。抜けては入る和臣の指が、サラダ油を肉筒に塗りつける。すこしずつ奥へと進む指に、悟は緊張した。尻にエクボが浮き上がり、和臣はそこに口づけた。

「もっと、体の力を抜いて。余裕なんだろ?」

「うるせぇ。おまえがもっとうまくやりゃあいいんだ」

「あ、そう。それなら、遠慮はしないからな」

「うあっ、あ……そこっ、ぁ、あう」

 和臣の指が乱暴に、けれどやさしく内壁を愛撫する。敏感な部分を刺激され、悟の陰茎から先走りがほとばしった。無意識に揺れる悟の腰を熱っぽい視線で味わいながら、和臣は秘孔を淫らにほぐす。

「はっ、ぁ、ああっ、あ、あっ……あぁあああっ!」

 腰のあたりにわだかまっていた快楽に爪を立てられ、悟は絶頂を迎えた。

「あ、ああ……あ」

(ケツだけでイッちまった)

 呆然としながら解放の恍惚を味わう悟の尻に、そそり立った和臣があてがわれる。尻の谷に擦りつけられて、悟は戦慄した。

「悟」

 いよいよかと覚悟した瞬間、太く熱いものに貫かれて悟は身をそらした。

「がはっ、ぁ、ああ、ぅぐ……ん、ぅうっ」

「は、キツい」

(俺だってそうだよ!)

 頭の中の文句は言葉にならなかった。圧迫感に喉の奥まで襲われて、うまく呼吸ができない。うめいている悟の陰茎に和臣の指がかかった。ゆるゆると扱かれると、快感に力が抜けて圧迫が薄れる。

「は、ぁ……ああ、あ」

「息を止めないで、そうやって声を出して」

「ぁ、カズ……ぅ」

「悟……ああ」

 満たされた和臣の吐息が悟の上に降り注ぐ。それが肌身に沁み込んで、悟の心をじわりとあたためた。

 和臣は悟の陰茎をしごきながら、緩慢なストロークで腰を動かす。緊張にきつく締まっていた悟の肉壁が、和臣の質量に慣れてムズムズとうごめいた。蠕動する内壁に誘われて、和臣の動きが深く大きくなっていく。陰茎に触れていた和臣の指が離れて、悟の腰を掴んだ。

「もっと、してもいいよな?」

「ふっ、ぁ、なに……あっ、あ」

「妄想どおりにしてもいいんだろ」

「ぅんっ、く、ぁああっ」

 ズゥンと深く突き上げられた悟の喉から、高く大きな悲鳴が飛び出る。それを合図に和臣はガツガツと腰を打ちつけ、悟は淫らな遠吠えを響かせた。

「は、ぁあっ、あぁあううっ、くふぅう、ぁ、カズっ、ぅく……あはぁ」

「ふっ、悟、悟……っ、ああ」

 乱れた和臣の息が悟の背中に触れる。揺さぶられる悟と同調したイスが、ガタガタと鳴った。

「ひっ、ぁううっ、カズ、あっ、ぁあ」

「悟、もう……っ、イク……俺、悟も……っ」

「んふっ、はぁうううっ、く、ぁはぁあああっ」

 深く激しく内壁をえぐられて、悟は二度目の極まりに襲われた。白く弾ける意識の奥で、和臣の欲が奔流となって内側に叩きつけられたのを知る。

「は、ぁあ……あ、あ」

「悟……はぁ……悟」

 切れ切れの息の合間に名を呼ばれた悟は、グッタリしながら背後に腕を伸ばした。気づいた和臣が指先に噛みつく。軽い歯の圧迫に、悟はフッと鼻を鳴らした。

(案外、悪くねぇ気分だ)

 手を振って和臣の歯を外し、重い声で「はやく抜け」と命じる。名残を惜しみつつ離れた和臣は、充足と不安を全身にみなぎらせて悟を見つめた。

「ふう」

 体にたまった淫蕩の気だるさを吐き出した悟は、ズルズルとイスから床へ落ちると体を反転させた。目の前に和臣の股間があった。ゆっくりと見上げてニヤリとする。

「どうだ」

「なにが」

「俺の許可をちゃんともらって、ヤッた感想だよ。よかったか?」

「よかったに決まってるだろ。……そのぶん、すげぇ不安だよ」

「なんで」

 しゃがんだ和臣が難しい顔をする。

「タガが外れたからに決まってるだろ。これで拒まれたら、立ち直れない」

「そんなに俺が好きか」

「くやしいくらいに、悟が好きだ。ずっと、悟だけが好きなんだよ」

「ふうん? にしちゃあ、慣れてる感じがしたけどな。俺がはじめてじゃねぇんだろ」

「それは……だって、悟はそんな気がないだろ」

「ねぇな」

「だからだよ。あきらめたくて、いろんな相手と付き合った」

「おもしろくねぇな」

「は?」

「終わったら、俺の気持ちを聞かせてやるっつったろ?」

「それが、おもしろくないって感想なのかよ」

「おう」

「もっと、わかりやすく言ってくれ」

「そう言われてもなぁ。俺はあんま頭がよくねぇ」

「それは知ってる」

「だな」

 ハハッと笑った悟につられて、和臣の顔もほころぶ。悟は腕を伸ばして、クシャクシャと和臣の髪を掻き混ぜた。

「俺はおまえに、ずっと甘えていたんだなぁ」

「え?」

「なんだかんだで、おまえの夢に乗っかって進路を決めてさ。オヤジたちがいっぺんに死んだときも、カズが泣き場所になってくれたんだったな」

 しみじみと噛みしめる悟に、和臣がうろたえる。

「なんだよ、いきなりそんな……悟」

「だからよ、いっしょに店をやろうぜ」

「は?」

「ケガをしたのも、ちょうどいい機会だ。仕事を辞めて、料理人に戻れってことかもしんねぇな」

「ちょ……悟?」

「おまえも成人したし、いろいろ勉強してるしよ。卒業するまでは日曜のカフェを続けて、その間にどんな店にするかを相談しようぜ」

「いや、えっと……悟」

「なんだよ」

「話が見えない」

「は? なんでだよ」

「順を追って説明してくれよ」

「おまえなら理解できるだろ。俺はあれこれ、きっちりまとめて説明すんのが苦手なんだよ」

「なんだそれ」

「いいから、俺が言ったことを思い返して考えろ」

 視線で文句を言いつつも、和臣は考えた。それを見ながら、悟は己の心を確認する。

(抱かれても平気だったっつうか、気持ちよかったっつうか、なんかうれしかったっつうか……つまりは俺も、カズに惚れてるってことだよな)

 行為そのものより、全力で求められたという事実がとてもうれしい。

(腐れ縁も醗酵すりゃあ、食い物とおなじで旨くなるってところか)

 ひとり心中で「うまいこと言った」と満悦している悟のニヤケ顔に、和臣の照れた拗ね顔が向けられる。

「つまり悟は、俺が卒業したらいっしょに店をやろうって言ってんのか」

「おう」

「仕事辞めるって、本気かよ」

「信用できねぇんなら、いますぐ会社に連絡するぞ」

「いますぐって」

「どっちにしろ治るまでは仕事できねぇんだから、いま辞めたって問題ねぇだろ。俺の代わりはもう見つかってるしよ。そんで日曜だけ厨房に立って、あとはなんだ……開く店をどうするのか考えたり、準備をしたりしていりゃあ、あっという間におまえの卒業になるだろ。店の場所を探すだけでも大変だろうしさ」

「まあ、そうだな」

「なら、善は急げだ。とりあえず俺は週明けに辞表を出す。そんで、おまえと開く店の準備をする」

「するって……そんな簡単に決めるなよ」

「簡単じゃねぇよ。なんだかんだで長い間、持ち続けた夢を実現しようってんだ。そのために俺は貯金してたんだしな。これはもう、いますぐやれってこったろ。流れには乗っておかねぇと、機会を逃しちまうぞ」

 あっけに取られている和臣の肩をポンポン叩きながら、悟はニカッと歯を見せた。

「おまえ、もういっそ越してきちまえよ」

「えっ」

「同棲しちまえば相談も楽だし、俺も助かる」

「でも……俺は」

「抱きたくなったら、ヤらせてやるしよ」

 バッと顔から火を噴いた和臣に、悟はカラカラと豪快に笑った。

「まあでも、おばさんには謝っとかねぇとな」

「なんで」

「孫の顔を見せらんねぇからだよ」

 含み笑いの悟に、和臣が目を見開く。

「それって……俺と、その」

「おう。これから死ぬまで、よろしく頼むぜ。ああ、あいつらにも報告しとかねぇとな。そのほうがスッキリすんだろ。翔太も俺をあきらめるだろうしな。そうしたら、カズも安心だろ?」

「悟……ほんと」

「なんだよ」

「めちゃくちゃ好きだ」

「なんだそれ」

 涙をにじませつつ満面を輝かせた和臣を、力いっぱい抱き寄せる。

 やわらかな髪に鼻をうずめて、悟は思った。

(ガキのころの約束をどっちとも叶えちまうなんて、カズはほんとにすげぇよな)

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