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譲に寄り添うように立った。
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譲の中で、これが一番自然に恭平の言動を腑に落とせる筋書だった。
好きだと言ってくれた恭平に、俺もと答えたかった。けれどそうすれば、抑えていた気持ちがあふれて止まらなくなる。
――友達に戻れる自信は?
問いに、無いと心中で答える。きっと、友達には戻れない。あのとき、とっさに「ありがとう」と答えた。好きだと返してはいけない気がして。そう言えば、恭平の負担になってしまうような気がして。
あれから恭平は、本田薫であろうと徹していた。女装をしている間は、恭平の片鱗など見せぬように、今まで以上に女性になりきっていた。譲をホテルに誘う事も、キス以上の事をしようともしない。
前に、恭平が自分に手を出したのは気紛れだと、譲は片付けた。寂しがり屋な恭平は、体を重ねることが自然なことだと思っていただけなんだ。特別な理由など、何も無い。今までの彼女たちと同じように、自分を扱っただけだ。けれど男同士だから、だから譲の意識を飛ばすようなやり方をして、ごまかすような態度を取った。
よくよく考えれば、それはとてもずるい事なのに、譲はそれでもいいと、再び恭平が手を伸ばしてくれることを望んだ。彼に乱された時を思い出し、自慰に耽ったりもした。
晴彦と付き合っていると勘違いをしているから、それで遠慮をしているのだろうか。フリーだと思っていた譲に男の恋人がいて、その相手が嫉妬をして歯型とキスマークを付けたと考えたのかもしれない。だからキス以上の事は、かりそめの恋人として必要のないことは、しないと決めたのかもしれない。
晴彦とは何も無いと、改めて説明をするのも妙な気がして、譲はふたたび恭平が聞いてくれるのを待っていたが、本田薫になりきった恭平は純粋な譲の恋人であり続けた。
そして何の進展も好転も無いまま、勝負の日が来てしまった。
◇◆◇
待ち合わせ場所は、万丈セントラル公園のゲート前。親の時代から地元の学生たちのデートスポットとして知られ、家族連れの憩いの場としても存在している。十二月に入ればイルミネーションが輝き、この地方のクリスマスおでかけマップに載ったりもする。
緊張気味な譲とは裏腹に、勝昭たちは余裕の笑みを浮かべて待っていた。すぐに彼らの恋人たちが現れ、少し遅れて恭平扮する本田薫が姿を現した。譲はこれで最後と胸に覚悟を決めて、親しげな笑みを浮かべて持ち上げた片手を『彼女』に向けて振った。
「薫!」
ぱ、と顔を輝かせた本田薫が小さく手を振りかえしながら、小走りに駆け寄ってくる。譲が振っていた手を彼女に差し伸べれば、薫は自然な動作でその手を取り、譲に寄り添うように立った。
「はじめまして。譲君の、その、恋人の本田薫です」
はにかみながら言葉を紡ぎ、薫が頭を下げる。あんぐりと重人が口を開き、勝昭が信じられないようにまばたきをして、真がぽかんと見つめる。
好きだと言ってくれた恭平に、俺もと答えたかった。けれどそうすれば、抑えていた気持ちがあふれて止まらなくなる。
――友達に戻れる自信は?
問いに、無いと心中で答える。きっと、友達には戻れない。あのとき、とっさに「ありがとう」と答えた。好きだと返してはいけない気がして。そう言えば、恭平の負担になってしまうような気がして。
あれから恭平は、本田薫であろうと徹していた。女装をしている間は、恭平の片鱗など見せぬように、今まで以上に女性になりきっていた。譲をホテルに誘う事も、キス以上の事をしようともしない。
前に、恭平が自分に手を出したのは気紛れだと、譲は片付けた。寂しがり屋な恭平は、体を重ねることが自然なことだと思っていただけなんだ。特別な理由など、何も無い。今までの彼女たちと同じように、自分を扱っただけだ。けれど男同士だから、だから譲の意識を飛ばすようなやり方をして、ごまかすような態度を取った。
よくよく考えれば、それはとてもずるい事なのに、譲はそれでもいいと、再び恭平が手を伸ばしてくれることを望んだ。彼に乱された時を思い出し、自慰に耽ったりもした。
晴彦と付き合っていると勘違いをしているから、それで遠慮をしているのだろうか。フリーだと思っていた譲に男の恋人がいて、その相手が嫉妬をして歯型とキスマークを付けたと考えたのかもしれない。だからキス以上の事は、かりそめの恋人として必要のないことは、しないと決めたのかもしれない。
晴彦とは何も無いと、改めて説明をするのも妙な気がして、譲はふたたび恭平が聞いてくれるのを待っていたが、本田薫になりきった恭平は純粋な譲の恋人であり続けた。
そして何の進展も好転も無いまま、勝負の日が来てしまった。
◇◆◇
待ち合わせ場所は、万丈セントラル公園のゲート前。親の時代から地元の学生たちのデートスポットとして知られ、家族連れの憩いの場としても存在している。十二月に入ればイルミネーションが輝き、この地方のクリスマスおでかけマップに載ったりもする。
緊張気味な譲とは裏腹に、勝昭たちは余裕の笑みを浮かべて待っていた。すぐに彼らの恋人たちが現れ、少し遅れて恭平扮する本田薫が姿を現した。譲はこれで最後と胸に覚悟を決めて、親しげな笑みを浮かべて持ち上げた片手を『彼女』に向けて振った。
「薫!」
ぱ、と顔を輝かせた本田薫が小さく手を振りかえしながら、小走りに駆け寄ってくる。譲が振っていた手を彼女に差し伸べれば、薫は自然な動作でその手を取り、譲に寄り添うように立った。
「はじめまして。譲君の、その、恋人の本田薫です」
はにかみながら言葉を紡ぎ、薫が頭を下げる。あんぐりと重人が口を開き、勝昭が信じられないようにまばたきをして、真がぽかんと見つめる。
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