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恭平を失いたくない。
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あんな声で、恭平は恋人の名を呼んでいたのか。何かを堪えるように眉根を寄せて、息を乱して揺さぶるのか。自分ではない誰かを、恭平はあんな顔をして求めるのか。
「っ、ふ」
どす黒いものがあふれ出て、譲は胸元を握りしめる。あんな顔を、あんな声を、あんな熱を知ってしまった後で、恭平に新しい彼女が出来たと聞いて、今までのように笑って祝福が出来るだろうか。
ゆるくかぶりをふり、手近な木に背をもたせかける。
「無理だ」
出来そうにない。
友達になど、戻れない。
ならば、どうすればいいのだろう。
恭平を失いたくない。
友達を超えた存在として、いられはしないだろうか。恋人にはなれなくても、キスを交わし身を重ねることのできる間柄では、いられないだろうか。
嫉妬は、するだろう。
恭平の彼女に、嫉妬はする。今まで以上の痛みが、この身を苛むだろう。けれど、二度と触れられない事よりも、求められる時間が少しでもある方が、良いような気がする。
どうせ、戻れないのなら。
「恭平」
抱かれた事を、二度とも譲が憶えていると知れば、恭平はどうするだろう。それならばと意識の混濁を待たずに、譲を抱くだろうか。面倒くさいことになったと、鼻に皺を寄せるだろうか。
「恭平は」
期間限定の恋人を、どう思っているのだろう。どうして、抱いたのだろう。どうして、別れ際に俺からキスをするよう求めたのだろう。
いくら考えてもわからないということに、譲はとっくに気付いている。気付いているが、考えずにはいられない。
かりそめの恋人の期間は、あと一か月足らず。
その間、何も知らぬ風を装って別れの時を迎えるか。恭平に気持ちを告げてしまおうか。
見上げた空は木の葉に阻まれて、とても小さく狭く、切れ切れになっている。見上げたまま、譲は林を抜けた。
木々の間から抜け出た目には、広く高く澄んだ空が映った。今の自分は、木々の間で空を見上げているようなものだ。そこから抜け出さなくては、どこまでも広い空を見ることが出来ない。
次に恭平と会った時に、どう切り出せばいいのかはわからないけれど、気持ちを吐露し、抱かれた時の記憶があったことを告げようと決めて、譲は公園を後にした。
「っ、ふ」
どす黒いものがあふれ出て、譲は胸元を握りしめる。あんな顔を、あんな声を、あんな熱を知ってしまった後で、恭平に新しい彼女が出来たと聞いて、今までのように笑って祝福が出来るだろうか。
ゆるくかぶりをふり、手近な木に背をもたせかける。
「無理だ」
出来そうにない。
友達になど、戻れない。
ならば、どうすればいいのだろう。
恭平を失いたくない。
友達を超えた存在として、いられはしないだろうか。恋人にはなれなくても、キスを交わし身を重ねることのできる間柄では、いられないだろうか。
嫉妬は、するだろう。
恭平の彼女に、嫉妬はする。今まで以上の痛みが、この身を苛むだろう。けれど、二度と触れられない事よりも、求められる時間が少しでもある方が、良いような気がする。
どうせ、戻れないのなら。
「恭平」
抱かれた事を、二度とも譲が憶えていると知れば、恭平はどうするだろう。それならばと意識の混濁を待たずに、譲を抱くだろうか。面倒くさいことになったと、鼻に皺を寄せるだろうか。
「恭平は」
期間限定の恋人を、どう思っているのだろう。どうして、抱いたのだろう。どうして、別れ際に俺からキスをするよう求めたのだろう。
いくら考えてもわからないということに、譲はとっくに気付いている。気付いているが、考えずにはいられない。
かりそめの恋人の期間は、あと一か月足らず。
その間、何も知らぬ風を装って別れの時を迎えるか。恭平に気持ちを告げてしまおうか。
見上げた空は木の葉に阻まれて、とても小さく狭く、切れ切れになっている。見上げたまま、譲は林を抜けた。
木々の間から抜け出た目には、広く高く澄んだ空が映った。今の自分は、木々の間で空を見上げているようなものだ。そこから抜け出さなくては、どこまでも広い空を見ることが出来ない。
次に恭平と会った時に、どう切り出せばいいのかはわからないけれど、気持ちを吐露し、抱かれた時の記憶があったことを告げようと決めて、譲は公園を後にした。
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