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恭平は唇を噛み眉根を寄せた。
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そう思いきわめた瞬間から、恭平の意識は妙に急いた。心に急きたてられる恭平の足は、家に着くころには、息を弾ませるほどの歩速になっていた。
「ただいま」
思うよりも大きな声で家に入り、靴を脱ぎ捨て部屋に上がる。スマホを充電器に繋げて下着を掴み、浴室に入って手早く体を洗った。ウィッグを洗ってバスタオルで水分を拭き取り、ドライヤーで乾かす。時計を確認し、トランクス姿でキッチンに入り冷蔵庫を覗いた。ぶるっと冷気に身震いをして、何も取りださず冷蔵庫を閉め、暖房をつける。誰もいない家は肌寒く、適当な服を着てからにしようと部屋に戻った。
服を着て、充電器ごとスマホを手にして暖房を入れていたキッチンに戻る。
コンセントに充電器を差しこんで、再び冷蔵庫を開け物色し、ウインナーと卵を取り出し適当に炒め、ケチャップをかけた。湯を沸かしてコーヒーを淹れ、テレビを点けてBGMにし、軽い朝食を食べ始める。
食べ終わり、テレビ画面に視線を投げつつコーヒーを啜り、スマホを見る。
恭平はスマホを取り出しロックを外し、メール画面を開いて眺めた。
もしも譲に抱かれた時の記憶があるなら、俺を卑怯と思うだろう。呆れているのかもしれない。酔ったところを襲うなど、最低だと言おうとしていたのではないか。
いや。でもそれならば、別れ際のキスはどうなる。譲はいつも通り、キスをしてくれた。嫌悪を浮かべた様子は、微塵も無かった。あの時に言いかけた何かは、別の話だったのだろうか。
宛先に譲のアドレスを読みこんで、本文を開きキーパットの上で指をさまよわせる。何を、どう送ろう。
『今日のデートの予定だけど』
そこまで打って、消す。しばらく悩んでから、恭平はまた同じ文面を打ちこんだ。
『今日のデートの予定だけど、どうしようか。一泊をしたから、止めておくか。それとも、予定通り会うか。』
打ちこんだ文字の上に目を走らせて、消す。少し考えてから、打ち直した。
『今日、十二時にいつもの場所で待ち合わせをしよう。』
よし、と送信ボタンを押して、恭平はスマホをポケットにしまった。譲と恋人でいられる時間は、あと一か月ほどしかない。それが終われば、無理にでも気持ちを抑えて友達に戻らなければいけない。ならば、それまでは思いきり、悔いの無いように恋人として過ごしたい。
身勝手だな、と恭平は自嘲した。自分本位の、譲の事なんて何も考えていない、我がままでむちゃくちゃで、卑怯で最低で、どうしようもないくらいに酷い奴だよな。
きゅっと、恭平は唇を噛み眉根を寄せた。
時間の表示を見て、自分が指定した時間までは十分に間があると、恭平はテレビのチャンネルを変えた。
「ただいま」
思うよりも大きな声で家に入り、靴を脱ぎ捨て部屋に上がる。スマホを充電器に繋げて下着を掴み、浴室に入って手早く体を洗った。ウィッグを洗ってバスタオルで水分を拭き取り、ドライヤーで乾かす。時計を確認し、トランクス姿でキッチンに入り冷蔵庫を覗いた。ぶるっと冷気に身震いをして、何も取りださず冷蔵庫を閉め、暖房をつける。誰もいない家は肌寒く、適当な服を着てからにしようと部屋に戻った。
服を着て、充電器ごとスマホを手にして暖房を入れていたキッチンに戻る。
コンセントに充電器を差しこんで、再び冷蔵庫を開け物色し、ウインナーと卵を取り出し適当に炒め、ケチャップをかけた。湯を沸かしてコーヒーを淹れ、テレビを点けてBGMにし、軽い朝食を食べ始める。
食べ終わり、テレビ画面に視線を投げつつコーヒーを啜り、スマホを見る。
恭平はスマホを取り出しロックを外し、メール画面を開いて眺めた。
もしも譲に抱かれた時の記憶があるなら、俺を卑怯と思うだろう。呆れているのかもしれない。酔ったところを襲うなど、最低だと言おうとしていたのではないか。
いや。でもそれならば、別れ際のキスはどうなる。譲はいつも通り、キスをしてくれた。嫌悪を浮かべた様子は、微塵も無かった。あの時に言いかけた何かは、別の話だったのだろうか。
宛先に譲のアドレスを読みこんで、本文を開きキーパットの上で指をさまよわせる。何を、どう送ろう。
『今日のデートの予定だけど』
そこまで打って、消す。しばらく悩んでから、恭平はまた同じ文面を打ちこんだ。
『今日のデートの予定だけど、どうしようか。一泊をしたから、止めておくか。それとも、予定通り会うか。』
打ちこんだ文字の上に目を走らせて、消す。少し考えてから、打ち直した。
『今日、十二時にいつもの場所で待ち合わせをしよう。』
よし、と送信ボタンを押して、恭平はスマホをポケットにしまった。譲と恋人でいられる時間は、あと一か月ほどしかない。それが終われば、無理にでも気持ちを抑えて友達に戻らなければいけない。ならば、それまでは思いきり、悔いの無いように恋人として過ごしたい。
身勝手だな、と恭平は自嘲した。自分本位の、譲の事なんて何も考えていない、我がままでむちゃくちゃで、卑怯で最低で、どうしようもないくらいに酷い奴だよな。
きゅっと、恭平は唇を噛み眉根を寄せた。
時間の表示を見て、自分が指定した時間までは十分に間があると、恭平はテレビのチャンネルを変えた。
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